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第78話 ダンジョン実習

 二学期。

 魔法学院では、野外調査実習が始まった。

 その最初の実習。

 場所は――学校地下に存在するダンジョン。

 学院の地下には、実習用として管理された巨大なダンジョンが存在している。

 今回、生徒たちが探索するのは四層目。

 危険な魔物も存在するため、教師たちによって安全管理が徹底されていた。

 とはいえ。

「今回の実習は、遠足みたいなものだと思ってくれていい」

 集合した生徒たちを前に、教師が説明する。

「四層目に設置されたチェックポイントを巡り、すべてのスタンプを集めてください」

 教師が実習のしおりを掲げる。

「スタンプラリー方式だ」

「各班ごとに五分間隔で出発する」

「順番にチェックポイントを探し、スタンプを押して戻ってくれば終了だ」

 生徒たちから少しだけ歓声が上がる。

「ただし!」

 教師の声が響く。

「実習用のダンジョンとはいえ、魔物は出現する」

「無理に戦う必要はない」

「危険だと判断した場合は、すぐに緊急脱出用ポータルを使用すること」

 その言葉を聞いて、生徒たちは腰に取り付けられた小さな魔道具を確認する。

 緊急脱出用ポータル。

 危険時に使用すれば、一瞬で地上へ戻ることができる。

「持ち物を確認するぞ」

「杖」

「実習しおり」

「水筒」

「それから――」

 教師が少し笑う。

「お菓子は三百円まで」

「遠足じゃないですか!」

 生徒の一人が叫ぶ。

 教室に笑い声が響く。

「必要なら、事前に用意した魔法陣を書いた紙も持っていっていい」

「ただし、自分で安全性を確認したものに限る」

「それでは――」

 教師が名簿を見る。

「最初の班!」

「フィクアリー班!」

「行ってこい!」

「はい!」

 フィクアリーたちが立ち上がる。

 天城。

 フィクアリー。

 アイランド。

 三人は地下へ続く階段を下りていった。

 やがて。

 巨大な鉄扉の前に到着する。

 扉の向こう。

 そこが四層目だった。

「……本当にダンジョンなんだな」

 天城が呟く。

 薄暗い通路。

 壁には淡く光る魔鉱石。

 遠くから水滴の落ちる音が聞こえる。

「なんかワクワクするな!」

 アイランドが楽しそうに笑う。

「遠足みたい!」

「だから遠足じゃないって」

 天城が呆れる。

「お菓子持ってきたか?」

「もちろん!」

 アイランドが懐から袋を取り出す。

「何持ってきた?」

「チョコ」

「俺も」

 天城も袋を取り出す。

「……」

 フィクアリーが二人を見る。

「二人とも、何してるの?」

「お菓子交換」

「まだ始まったばっかりよ」

「いいじゃん」

 天城が笑う。

「スタンプラリーなんだし」

「そうそう!」

 アイランドも頷く。

「魔物が出るまでは遠足だ!」

「魔物が出たら?」

「そのときは俺が殴る!」

「雑だな……」

 三人は笑いながら進んでいく。

 最初のチェックポイント。

 問題なく発見。

 スタンプを押す。

「一個目!」

 アイランドが嬉しそうにしおりを見る。

「あと何個だ?」

「……」

 フィクアリーが地図を見る。

「あと七個」

「多いな!」

「まだ始まったばかりだからね」

 三人はさらに奥へ進んでいく。

 その時だった。

 ――ゴゴゴゴゴ……。

「……?」

 地面が震えた。

 天城が足を止める。

「何かいる」

 暗闇の向こう。

 巨大な影が現れた。

 全身を岩石のような装甲で覆った人型の魔物。

 その胸部には、青白く輝く魔導核が埋め込まれている。

「……ゴーレム」

 フィクアリーが呟く。

 アイランドが前へ出る。

「任せろ!」

 拳を握る。

「中級ゴーレムだな」

 天城が目を細める。

 左目に魔力が集まる。

「叡智の瞳」

 世界の見え方が変わった。

 ゴーレムの身体を構成する魔力。

 属性。

 魔導核。

 そして――。

「弱点、見えた」

「どこだ?」

「胸の魔導核」

 アイランドが笑う。

「じゃあ、あそこをぶっ壊せばいいんだな!」

「待て!」

 アイランドが走り出す。

「うおおおおお!」

 巨大な拳がゴーレムへ叩き込まれる。

 ――ドゴンッ!

 ゴーレムの身体が大きく揺れる。

「効いてる!」

 アイランドがさらに踏み込む。

 拳。

 蹴り。

 体当たり。

 全てを肉体だけで叩き込んでいく。

 ゴーレムが腕を振り下ろす。

「おっと!」

 アイランドが横へ飛ぶ。

 地面が砕ける。

「危なっ!」

「アイランド!」

「大丈夫だ!」

 アイランドは笑って立ち上がる。

「この程度ならまだいける!」

 天城は魔導核を見つめる。

「核は胸部中央」

「周囲の装甲が厚すぎる」

「直接撃ち抜く」

 天城が杖を構える。

 魔力が一点へ集中する。

「天弓。」

 鉄片が浮く。

「雷轟。」

 青白い電光が鉄片を包み込む。

「光の柱で貫きたまえ。」

 轟音。

 圧縮された魔力弾が一直線に放たれる。

 ――ガァンッ!

 しかし。

「なっ……!」

 弾丸は魔導核に直撃する寸前。

 装甲によって弾かれた。

「硬すぎる!」

 天城が舌打ちする。

「核の周囲だけ、魔力の密度が異常に高い!」

 ゴーレムが腕を振り上げる。

「天城!」

 フィクアリーが叫ぶ。

「下がって!」

 天城が後ろへ飛ぶ。

 拳が地面を叩き、石の破片が飛び散る。

「……このままじゃ決め手がない」

 フィクアリーが考える。

「……」

 そして。

 腰に付けていた袋から、一枚の紙を取り出した。

「これを使う」

「それ、事前に用意してた魔法陣?」

「うん」

 フィクアリーは紙を地面へ置く。

 魔力を流す。

 魔法陣が青白く輝いた。

「水分操作」

 ゴーレムの身体を包むように魔力が広がる。

 次の瞬間。

 ゴーレムの表面から、白い蒸気が噴き出した。

「……?」

 ゴーレムの身体が震える。

 岩石の表面。

 そこに細かな亀裂が走った。

 ピシッ。

「効いてる!」

 天城が目を見開く。

「ゴーレム内部の水分を一気に蒸発させたのか!」

「うん!」

 フィクアリーは魔力をさらに流す。

「このまま維持する!」

 亀裂が広がる。

 ピシッ。

 ピシッ。

 ――バキッ!

 ゴーレムの胸部に、大きな亀裂が走った。

「アイランド!」

 天城が叫ぶ。

「今だ!」

「任せろ!」

 アイランドが地面を蹴る。

 一瞬でゴーレムとの距離を詰める。

「うおおおおおおお!」

 大剣を振り上げる。

 狙いは胸部。

 亀裂。

 そして魔導核。

「せぇぇぇぇいっ!」

 ――ズバァンッ!

 大剣が亀裂へ叩き込まれる。

 ゴーレムの身体が真っ二つに裂けた。

 同時に。

 胸部の魔導核が砕ける。

 ゴーレムの身体から魔力が抜けていく。

 ガラガラガラ……。

 岩石の身体が崩れ落ちた。

 静寂。

「……」

「……」

「……」

 アイランドが大剣を肩に担ぐ。

「勝った!」

 天城がゴーレムの残骸を見る。

「……なるほど」

「フィクアリーの魔法で装甲を脆くして」

「アイランドが物理で破壊」

「そして俺が弱点を見つける」

「三人の役割が噛み合ったな」

「そうね」

 フィクアリーも頷く。

 アイランドが笑う。

「じゃあ、次のスタンプ探しに行こうぜ!」

「切り替え早すぎだろ」

 天城が呆れる。

「だって、まだ七個あるんだろ?」

「あと六個」

「よし!」

 アイランドが歩き出す。

「全部集めるぞ!」

 三人は再びダンジョンの奥へ進んでいった。

 まだ。

 実習は始まったばかりだった。

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