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第75話 魔法開発実践

 二学期。

 新しく始まった授業。

 魔法開発実践。

 担当教員はMr.ジャーマン。

 しかし今日は初回ということもあり、特別講師が招かれていた。

 教室の扉が開く。

「今日はよろしく。」

 入ってきた青年を見て、生徒たちがざわつく。

「神埼先輩!」

「魔導隊副隊長だ!」

 壇上へ立った神埼信之は軽く笑った。

「そんなに緊張しなくていい。」

「今日は魔法の撃ち方じゃない。」

「作り方の話をする。」

 黒板へ三つの言葉を書く。

 威力。

 範囲。

 制御。

「魔法開発で重要なのは、この三つ。」

「どれか一つ欠けても実戦では使えない。」

 神埼は生徒たちを見渡した。

「例えば威力だけなら誰でも上げられる。」

「魔力を大量に流し込めばいい。」

「でも。」

「制御できなければ、自分も味方も巻き込む。」

 フィクアリーは思わず視線を逸らした。

 昨日の実習林を思い出したのだ。

 神埼は続ける。

「今日は手本として、俺の魔法を見せる。」

 実習場へ移動する。

 中央には巨大な耐久標的が設置されていた。

 何重もの防御結界。

 耐火術式。

 耐衝撃術式。

 万全の準備が施されている。

「魔法名。」

「すべてを消し去る炎。」

 神埼が右手の杖を軽く前へ出す。

 その動作だけだった。

 魔法陣は見えない。

 長い詠唱もない。

 発動までの隙が、ほとんど存在しない。

 天城は叡智の瞳を発動する。

(……見えない。)

(結界術しか見えない。)

(炎魔法の起点が存在しない。)

 次の瞬間。

 標的の前に、小さな炎が灯る。

 それだけだった。

 しかし。

 炎は一瞬で白く変色し、猛烈な勢いで燃え広がる。

 防御結界。

 耐火術式。

 標的。

 その全てが、音もなく燃え尽きていく。

 土も灰も残らない。

 ほんの数秒。

 実習場には焦げ跡一つ残っていなかった。

 静寂。

 誰も声を出せない。

「今の……。」

「何をしたんですか?」

 一人の生徒が恐る恐る尋ねる。

 神埼は黒板へ新しい式を書く。

 塩素(Cl)+フッ素(F)→ 三フッ化塩素(ClF₃)

「空気中や自然界、人体の汗などに含まれる塩素。」

「そしてフッ素。」

「それらを魔法で合成して、三フッ化塩素を生成した。」

 教室がざわめく。

「もちろん。」

「そのままじゃ俺も死ぬ。」

「だから先に特殊な結界を張る。」

「生成した物質が外へ漏れないように。」

「さらに周囲へ延焼しないよう、多重結界で完全に封じ込める。」

 神埼は続ける。

「最後に、ごく普通の炎魔法で着火する。」

「それだけだ。」

 アイランドが驚いた顔をする。

「普通の炎魔法なんですか?」

「うん。」

「着火するだけなら普通の炎で十分。」

「恐ろしいのは炎じゃない。」

「生成した物質の方だ。」

 天城は叡智の瞳を閉じる。

(なるほど。)

(結界術しか見えなかった理由はそれか。)

(魔法そのものじゃなく。)

(結界の中で化学反応を完成させていた。)

 神埼は表情を引き締めた。

「この魔法で一番難しいのは威力じゃない。」

「制御だ。」

「もし制御を失敗すれば。」

「周囲すべてを焼き尽くす。」

「誰にも止められない。」

「だから結界術が生命線になる。」

「魔法は威力よりも、止める技術の方が重要なんだ。」

 Mr.ジャーマンも腕を組んで頷く。

「その通りだ。」

「暴発する魔法は欠陥品。」

「味方を守れない魔法も欠陥品。」

「どれだけ強くても。」

「制御できなければ戦場では使えない。」

 フィクアリーは静かに俯く。

 昨日、自分が怒られた理由。

 それを改めて理解した。

 天城も小さく呟く。

「威力。」

「範囲。」

「制御。」

「この三つが揃って、初めて実戦で使える魔法になる……。」

 神埼は教室全体を見渡した。

「魔法は、敵を倒すためだけのものじゃない。」

「守るためにある。」

「そのことだけは、絶対に忘れないでほしい。」

 教室は静まり返っていた。

 生徒たちは誰一人として私語をせず、その言葉を胸に刻み込んでいた。

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