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第74話 植林作業

 放課後。

 夕日に染まる実習林で、三人は黙々と植林作業をしていた。

 焼け焦げた地面をならし、新しい苗木を一本ずつ植えていく。

「よいしょ!」

 アイランドは大きな苗木を軽々と持ち上げる。

「こういう作業、好きなんですよ!」

「筋トレにもなりますし!」

 スコップを片手に満面の笑みを浮かべている。

 天城は思わず笑った。

「意外。」

「もっと戦う方が好きなのかと思ってた。」

「戦うのも好きです!」

「でも自然の中で身体を動かすのも好きなんです!」

「木っていいですよね!」

「大きく育つと嬉しいですし!」

 そう言って丁寧に土を被せていく。

 天城も隣で苗木を植える。

 鳥の鳴き声。

 木々を揺らす風。

 さっきまで爆発していた場所とは思えないほど静かだった。

「確かに。」

「意外と落ち着くね。」

 その時だった。

「……遅くなって、ごめん。」

 二人が振り向く。

 始末書を書き終えたフィクアリーが、小さな声で立っていた。

「フィクアリー先輩!」

「始末書終わったんですね。」

「うん……。」

 彼女はスコップを受け取り、黙って植林を始める。

 三人でしばらく土を掘り続ける。

 沈黙を破ったのは天城だった。

「先輩。」

「聞いてもいいですか。」

「……何?」

「今日。」

「どうして魔法を使えなかったんですか。」

 フィクアリーの手が止まる。

 少しだけ笑った。

 でも、その笑顔はどこか寂しかった。

「怖かったから。」

「怖い?」

「失敗するのが。」

 土を見つめたまま話し始める。

「私はパール家の落ちこぼれ。」

「魔力量も少ない。」

「魔力制御も苦手。」

「だから小さい頃からずっと言われてきた。」

『出来損ない。』

『パール家の恥。』

『そんな魔法なら使うな。』

「失敗すると叩かれた。」

「ご飯も抜かれた。」

「何回頑張っても。」

「結局、私は落ちこぼれだった。」

 アイランドは何も言えなかった。

 天城も静かに聞いていた。

「だからね。」

「魔法大祭だけは。」

「私を証明できる最後の場所だと思ってた。」

「勝てば。」

「少しは認めてもらえるかもしれないって。」

 天城は準決勝を思い出す。

 あの時のフィクアリーは。

 誰よりも殺気に満ちていた。

 勝つことだけを考えて戦っていた。

「でも。」

「負けちゃった。」

 フィクアリーは小さく笑う。

「結局、私は何も残ってない。」

「役立たずだから。」

 天城は首を横に振った。

「そんなことありません。」

「今日の『水泡』だって。」

「僕から見れば、あれでもかなり威力を抑えてましたよ。」

 フィクアリーは驚いたように顔を上げる。

「……え?」

「叡智の瞳で見ました。」

「あの魔法、本気ならあんなものじゃない。」

「むしろ今日のは制御してましたよね。」

「味方を巻き込まないように。」

 フィクアリーは目を丸くする。

「……分かるの?」

「はい。」

「魔力量も魔力出力も多くない。」

「でも、それを補うために魔法そのものを工夫してる。」

「普通なら威力不足で終わるところを。」

「発想だけで最上位クラスの破壊力まで持っていってる。」

 天城は笑った。

「僕には、それってすごい才能だと思います。」

「……。」

 フィクアリーは何も答えない。

 しばらくして、小さく呟いた。

「そんな才能。」

「誰も褒めてくれなかった。」

 その言葉は、とても小さかった。

 アイランドが力強く頷く。

「僕はすごいと思います!」

「僕、一撃しか取り柄がないですけど!」

「フィクアリー先輩の魔法、初めて見た時めちゃくちゃ格好良かったです!」

「だから!」

「落ちこぼれなんて思ったことありません!」

 フィクアリーは少し困ったように笑う。

「ありがとう。」

「でも……。」

 その笑顔の奥には、まだ暗い影が残っていた。

「私は私のこと、まだ好きになれない。」

 天城は苗木を植え終えると立ち上がった。

「だったら。」

「みんなで考えましょう。」

「え?」

「もっと味方と一緒に使える魔法。」

「水泡を改良してもいい。」

「別の魔法を作ってもいい。」

「一人で悩む必要なんてありません。」

 アイランドも笑顔で頷く。

「三人で考えましょう!」

「僕も手伝います!」

 フィクアリーは二人を見つめる。

 今まで誰も言ってくれなかった言葉。

 一緒に考えよう。

 その一言だけで、胸の奥が少しだけ温かくなった。

「……うん。」

 小さく頷く。

 それでも心の傷が消えたわけではない。

 自分を落ちこぼれだと思う気持ちも、まだ消えない。

 それでも。

 ほんの少しだけ。

 前を向いてみようと思えた。

 夕日に照らされた苗木が、静かに風に揺れていた。

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