第73話 チームワーク②
「次。」
「フィクアリー班。」
Mr.ジャーマンの声が実習林へ響く。
三人が前へ出る。
三年。
フィクアリー・パール。
二年。
天城理人。
二年。
アイランド・アームストロング。
「始め!」
開始と同時。
アイランドが大地を蹴った。
「身体強化!」
筋肉が膨れ上がり、一瞬で標的へ迫る。
「はぁぁぁぁっ!」
拳が振り抜かれた。
ドォォォン!!
標的が粉々に吹き飛ぶ。
衝撃だけで周囲の木々が大きく揺れ、何本もの細い木が風圧で倒れた。
「すげぇ……。」
「一撃で吹き飛ばした。」
天城も続く。
「天弓。」
鉄片が宙へ浮く。
「雷轟。」
青白い雷が鉄片を包む。
「光の柱で貫きたまえ。」
轟音。
レールガンが一直線に飛び、標的を次々と撃ち抜いていく。
「よし!」
数体の標的が崩れ落ちる。
しかし。
フィクアリーだけは動かなかった。
杖を握ったまま、俯いている。
「フィクアリー先輩?」
天城が声を掛ける。
「……。」
返事はない。
Mr.ジャーマンが腕を組む。
「パール。」
「何をしている。」
フィクアリーは小さく肩を震わせた。
「……ごめんなさい。」
「私。」
「役に立たないので……。」
その一言に、周囲が静まり返る。
「私の魔法は味方がいると使えません。」
「威力を落とせば使えますけど……。」
「そんな魔法じゃ、意味がないから。」
天城はフィクアリーを見る。
魔法大祭ではあれほど強かった。
それなのに。
今は、自分を信じられていない。
Mr.ジャーマンが厳しい声で言う。
「戦場で何もしないのが、一番危険だ。」
「できる範囲で戦え。」
「はい……。」
だが。
フィクアリーは動けない。
頭の中に蘇る。
『落ちこぼれ。』
『そんな魔力量でパール家を名乗るな。』
『失敗した罰だ。』
食事を抜かれた日。
叩かれた日。
何度も否定され続けた日々。
杖を握る手が震える。
「私なんか……。」
「どうせ失敗する……。」
その瞬間。
アイランドが標的に囲まれた。
「しまった!」
天城も援護へ向かう。
だが距離がある。
フィクアリーは二人を見る。
呼吸が乱れた。
「……もう。」
「知らない。」
杖を空へ掲げる。
「水泡。」
無数の透明な泡が空へ浮かぶ。
その中心へ魔法陣が展開される。
天城の叡智の瞳が反応した。
(魔力反応がない……。)
(まさか……!)
泡の内部で金属が生成される。
核融合によって生み出された金属ナトリウム。
「まずい!!」
天城が叫ぶ。
「全員伏せて!!」
次の瞬間。
ドォォォォォン!!
実習林全体を揺るがす大爆発。
爆風が木々を薙ぎ倒し、炎が一瞬で森を飲み込んだ。
さらに。
爆発した泡から雨が降り注ぐ。
アルカリ性の飛沫が地面を焦がしていく。
天城は絶対防御を展開する。
中和できる物質「塩化水素」で反応を抑え込みながら、周囲への被害を最小限に食い止める。
煙が晴れる。
実習林は黒く焼け焦げていた。
「( ゜д゜)」
誰も言葉を失う。
Mr.ジャーマンだけが静かに歩いてくる。
「フィクアリー。」
低い声だった。
「はい……。」
「誰が。」
「本気でやれと言った。」
フィクアリーは俯く。
「ご、ごめんなさい……。」
「違う。」
Mr.ジャーマンは怒鳴った。
「お前は威力を制御する訓練をしに来ているんだ!」
「味方がいる場所で最大火力を撃つ馬鹿があるか!」
「実戦なら今ので全滅だ!」
「仲間も!」
「依頼人も!」
「守るはずの街も全部吹き飛んでいる!」
フィクアリーの目から涙がこぼれる。
「……はい。」
「返事だけは一人前だな。」
Mr.ジャーマンは深くため息をついた。
「放課後。」
「始末書五枚。」
「それから実習林の復旧作業だ。」
「天城、アイランド。」
「お前たちも連帯責任。」
「えぇぇぇ!?」
アイランドが思わず叫ぶ。
天城も苦笑いするしかなかった。
実習林に立ち込める焦げた匂いの中。
三人の初めてのチーム実習は、予想もしない形で幕を閉じた。




