第69話 夏祭り
夏休みも中盤。
学院のある街では、毎年恒例の夏祭りが開かれていた。
提灯の灯りが石畳を照らし、屋台からは香ばしい匂いが漂う。
「すごい人ですね。」
神埼おとが辺りを見回す。
「毎年こんなものだ。」
石破武は笑いながら答える。
天城も目を輝かせていた。
「屋台ってこんなにあるんだ……。」
三人はゆっくりと祭りを歩き始めた。
焼きそば。
りんご飴。
イカ焼き。
射的。
金魚すくい。
どこも大勢の人で賑わっている。
「おっ、カルメ焼きだ。」
石破が足を止めた。
屋台の前に立っていた人物を見て、天城は思わず目を丸くする。
「……ニューゴン先生?」
白衣の代わりに法被を着たニューゴン先生が、真剣な表情でカルメ焼きを作っていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい!」
「失敗率九割九分のカルメ焼きじゃ!」
「成功したら無料でもう一つ!」
「先生、何やってるんですか。」
「夏祭りじゃからのぉ。」
「昔から毎年出しとる。」
そう言って砂糖を混ぜ始める。
しかし。
「おっと。」
ボンッ。
カルメ焼きが爆発した。
「失敗じゃ。」
「先生……。」
三人は思わず苦笑した。
ニューゴン先生からカルメ焼きを受け取り、再び歩き始める。
すると。
人混みの向こうから、一人の青年が歩いてきた。
黒い制服。
肩には金色の階級章。
鋭い目つきと落ち着いた雰囲気。
神埼おとが嬉しそうに手を振る。
「お兄ちゃん!」
青年は足を止め、小さく笑った。
「久しぶりだな、おと。」
天城は軽く頭を下げる。
「神埼先輩。」
「天城くんか。」
石破も笑顔を見せる。
「相変わらず忙しそうだな。」
「まあね。」
青年――神埼信之は肩をすくめた。
「今はアスフェルダム魔導隊で副隊長をしてる。」
「副隊長!?」
天城は驚いた。
「卒業してまだ1年も経ってないですよ!?」
「ああ。」
「最年少で任された。」
神埼信之は苦笑する。
「人手不足もあるけどね。」
石破が静かに頷いた。
「それでも実力がなければ任されない。」
「さすがだ。」
天城は尋ねる。
「隊長って、どんな人なんですか?」
「レガリオス・ルーシー。」
その名前を聞き、天城はすぐに思い出した。
「固有能力の授業で特別講師として来ていた……。」
「そう。」
「『不死身の隊長』って呼ばれてる。」
「固有能力《起死回生》。」
「どれだけ致命傷を負っても戦線へ戻ってくる。」
「俺なんか、まだまだ敵わないよ。」
神埼信之は空を見上げた。
「最近は街を襲う魔物の討伐ばかりだ。」
「俺の固有能力と魔法が相性良くてね。」
天城は興味津々だった。
「先輩の固有能力って……。」
「《灰燼帰去》。」
神埼信之の目が細くなる。
「強烈な陽炎と蜃気楼を生み出す。」
「その熱対流を利用して空を滑空できる。」
「それだけじゃない。」
「視線を向けた座標にある存在を、存在できなくするための"重さ"や"形"を燃やす。」
天城たちは息を呑む。
「だから物質も魔法も、維持できなくなる。」
「崩れた質量は、一瞬で光と衝撃へ変わる。」
石破は静かに呟いた。
「……恐ろしい能力だ。」
「防御そのものが成立しない。」
神埼信之は首を横に振る。
「だからこそ乱用はしない。」
「街で使えば被害が大きすぎる。」
「普段は俺が開発した炎魔法で戦ってる。」
「《すべてを消し去る炎》」
「魔物の群れを焼き払い、人への被害を最小限に抑えるための魔法だ。」
天城の目が輝く。
「先輩も、自分で魔法を開発してるんですね。」
「研究者だからね。」
神埼信之は笑った。
「現場で必要な魔法は、自分で作るしかない。」
その言葉に、天城は強く頷いた。
自分が目指す魔法研究者の姿が、そこにあった。
「理人。」
神埼信之は天城の肩を軽く叩く。
「君なら、もっと面白い魔法を作れる。」
「世界を見てこい。」
「そして、世界中の理論を持ち帰ってみせろ。」
天城は力強く答えた。
「はい!」
夏祭りの花火が夜空へ打ち上がる。
大輪の光が四人を照らした。
その光景を見上げながら、天城は改めて決意する。
いつか自分も、新しい時代を切り開く魔法を生み出そうと。




