第68話 夏休み
終業式が終わり。
ついに夏休みが始まった。
校門から飛び出していく生徒たちは、海へ行くだの旅行へ行くだの楽しそうに話している。
「夏休みだー!」
「今年は魔法キャンプだ!」
そんな声を聞きながら、天城理人は一人ため息をついた。
「……お金がない。」
天城は転生者保護制度による生活保護を受けながら暮らしている。
学費や最低限の生活は保障されている。
だが、それ以上は自分で稼ぐしかない。
「旅に出るにも研究するにも、お金は必要だしな。」
そう呟き、求人サイトを開く。
「日雇い……。」
「これなら授業にも影響しないか。」
天城が選んだ仕事は、学院近くのコンビニだった。
◇
「いらっしゃいませー!」
初日。
制服に着替えた天城はレジへ立っていた。
「温めますか?」
「袋はご利用ですか?」
慣れない接客に戸惑いながらも、少しずつ仕事を覚えていく。
「天城くん。」
店長が声を掛ける。
「飲み込みが早いね。」
「ありがとうございます。」
「魔法学院の生徒は優秀だから助かるよ。」
そんな会話をしていると、自動ドアが開いた。
ピンポーン。
「いらっしゃいま……せ?」
見覚えのある老人がゆっくり入ってくる。
「おぉ。」
「理人じゃないか。」
「ニューゴン先生!?」
ニューゴン先生は買い物かごを片手に店内を歩いていく。
しばらくしてレジへ戻ってきた。
「これを頼む。」
カウンターへ並べられた商品は三つ。
アイス。
ドラゴンホットチキン。
そして。
マンドラゴラエキス入りエナジードリンク『スライムエナジー』。
天城は思わず苦笑する。
「先生、そんな組み合わせで大丈夫なんですか。」
「夏はこれが最高なんじゃ。」
ニューゴン先生は嬉しそうに笑う。
「アイスで身体を冷やしながら、ホットチキンで汗をかいて、最後にスライムエナジーじゃ。」
「元気百倍じゃぞ。」
「いや、多分それ元気になりすぎますよ……。」
天城がバーコードを読み取る。
「お会計、1280円になります。」
ニューゴン先生は支払いを済ませると、袋を受け取った。
「頑張るんじゃぞ。」
「ありがとうございます。」
先生は片手を振りながら店を出ていった。
店長はその様子を見て笑う。
「知り合い?」
「学校の先生です。」
「いい先生だねぇ。」
「はい。」
天城も自然と笑みを浮かべた。
◇
夕方。
仕事が終わる頃。
店長が厨房から顔を出した。
「天城くん。」
「今日もよく頑張ってくれたね。」
「ありがとうございます。」
「これ、まかない。」
紙袋を受け取る。
中には出来立てのオークかつサンドが入っていた。
「えっ、いいんですか?」
「廃棄予定だったやつだから気にしなくていいよ。」
「育ち盛りなんだから、しっかり食べな。」
天城は深く頭を下げる。
「ありがとうございます!」
店を出る。
夕焼けに染まる帰り道。
オークかつサンドを一口かじる。
「……うまい。」
思わず笑みがこぼれた。
旅へ出る夢も。
魔法研究者になる夢も。
その第一歩は、こうして少しずつ資金を貯めることから始まる。
夏休みは、まだ始まったばかりだった。




