第67話 進路面談
期末テストが終わった。
夏休みまであと少し。
学院では、この時期恒例の進路面談が始まっていた。
普通の学校とは少し違う。
この面談で重視されるのは成績ではない。
どんな魔法使いになりたいのか。
その希望によって、二学期以降の授業や課外活動の内容が大きく変わる。
戦闘魔法師を目指す者。
治癒魔法師を目指す者。
魔道具職人。
魔法教師。
魔法警備隊。
研究者。
それぞれの進路に合わせて専門教育が始まるのだ。
天城理人は職員室の扉をノックした。
「失礼します。」
「入りなさい。」
担任教師が椅子を勧める。
「さて。」
「天城。」
「君の進路希望を聞こう。」
天城は迷わなかった。
「魔法開発の研究者になりたいです。」
担任は静かに頷く。
「理由は?」
「まだ誰も知らない魔法を作りたいからです。」
「新しい理論を見つけて、新しい魔法を作る。」
「それが僕の夢です。」
担任はメモを取りながら微笑んだ。
「君らしい答えだ。」
「卒業後は、そのまま研究所へ進むつもりか?」
天城は首を横に振る。
「いいえ。」
「卒業したら、一度旅に出ようと思っています。」
担任が顔を上げる。
「旅?」
「はい。」
「世界中を回ってみたいんです。」
「国によって魔法の考え方も違うと思います。」
「古代魔法。」
「神聖魔法。」
「失われた理論。」
「現地に行かなければ分からないものを、自分の目で見たいんです。」
「その経験を全部持ち帰って。」
「世界一の魔法研究者になります。」
静かな沈黙が流れた。
担任は笑みを浮かべる。
「なるほど。」
「知識だけではなく、経験も研究材料にするわけか。」
「面白い。」
書類へ一行書き込む。
「それなら二学期からの履修内容を変更しよう。」
天城は首を傾げた。
「変更ですか?」
「研究者でも、実戦経験は必要だ。」
「現場を知らない研究者では、本当に役立つ魔法は作れない。」
「だから君には――。」
担任は新しい時間割を差し出した。
「魔法開発実践。」
「高等戦闘訓練。」
「実地検証演習。」
「危険魔法安全管理。」
「野外調査実習。」
「この五つを重点的に受けてもらう。」
天城は時間割を見つめる。
「戦闘訓練まで……?」
「魔法を作るだけなら必要ないと思っていました。」
担任は静かに首を横へ振る。
「違う。」
「最前線を知らなければ、本当に必要な魔法は作れない。」
「戦う者が何を求め。」
「どんな状況で困り。」
「何があれば生き残れるのか。」
「それを理解して初めて、一流の研究者になれる。」
天城はゆっくりと頷いた。
「……分かりました。」
「全部学びます。」
担任は満足そうに笑う。
「期待しているよ。」
「君なら、今まで誰も作れなかった魔法を生み出せるかもしれない。」
面談を終えた天城は、新しい時間割を手に職員室を出る。
廊下の窓から、青い夏空が見えた。
世界には、まだ知らない魔法がある。
まだ見ぬ理論がある。
そのすべてを学ぶために。
天城理人の、新たな一歩が静かに始まろうとしていた。




