第66話 飛行魔法大会②
――スタート。
光の壁が消えた瞬間。
全選手が一斉に飛び出した。
轟音。
音速を超えた衝撃波が競技場を震わせる。
「速い!!」
「全員がマッハ2へ到達しました!」
実況が叫ぶ。
巨大スクリーンには順位が次々と表示されていく。
成田翔平。
位置は――中団後方。
「成田先輩!」
天城は思わず立ち上がる。
「前へ行かないんですか!?」
石破は腕を組んだまま答える。
「焦る必要はない。」
「飛行魔法は十五分間の勝負だ。」
「最初から飛ばせば最後まで魔力がもたない。」
神埼おとも頷く。
「風圧も利用しています。」
「前の選手の後ろへ入れば空気抵抗を減らせますから。」
五十キロ。
最初の直線は激しい位置取り争いとなった。
しかし成田は一切慌てない。
無駄な動きをせず、静かに中団後方を維持する。
そして。
レース最大の難所。
大彗星の丘。
高低差二百キロ。
三百キロにも及ぶ超巨大な上り坂。
選手たちは次々と上空へ駆け上がる。
青空を突き抜け。
雲を抜け。
やがて宇宙空間へ。
空気はほとんど存在しない。
魔力だけが推進力となる世界。
実況が叫ぶ。
「ここからがスタミナ勝負!」
「先頭集団も徐々に苦しくなってきました!」
だが。
成田の速度は落ちない。
「すごい……。」
天城は息を呑む。
「あの高度でも速度が変わらない。」
ニューゴン先生は笑う。
「世界記録保持者は伊達じゃない。」
やがて宇宙の頂点を越える。
今度は地表へ向けた超高速急降下。
轟音とともに大気圏へ突入する選手たち。
激しい乱気流。
ソニックブームが次々と発生する。
順位が激しく入れ替わる中。
成田は冷静だった。
無理に抜かない。
無理に仕掛けない。
ただ、勝負の時を待つ。
残り二分三十秒。
フォルスストレート。
「ここで仕掛ける選手が多い!」
「しかし、この先には最後の大カーブが待っています!」
何人もの選手が一斉に加速する。
だが。
成田は動かない。
なおも中団の好位置を保つ。
「まだ行かない……。」
天城が呟く。
石破は静かに笑った。
「あれでいい。」
「あそこは罠だからな。」
そして。
最後の大カーブ。
成田が突然、大きく外へ進路を変えた。
「えっ!?」
天城が声を上げる。
「外へ行った!」
「曲がり切れない!」
観客席からも悲鳴が上がる。
「危ない!」
「コースアウトするぞ!」
しかし。
成田の表情は変わらない。
むしろ、その瞬間を待っていたかのようだった。
外側へ膨らんだことで。
十分な旋回半径を確保する。
遠心力を殺さない。
速度を一切落とさない。
そして。
カーブを抜けた瞬間。
身体を前へ倒した。
「行けぇぇぇぇ!!」
学院の応援席から大歓声が響く。
「銀色の砂煙を!」
「切り裂きながら駆けてゆく!」
「すべてを燃やし尽くし!」
「後ろを引きちぎれー!」
成田は一気に加速する。
「粘るお前の背中に!」
「栄光の風が吹き荒れる!」
「マッハの壁を突き破れ!」
「勝利を掴み取れ!」
オープンストレッチ。
成田は残していた魔力を一気に解放する。
「銀河の宇宙で揺れる!」
「数多の星座を突き放し!」
「白鋼!」
「鼓動の奥に!」
「秘めてる闘争心!」
「あの日の古傷を!」
「負けたままでは終わらせない!」
「プライドその言葉に!」
「覚悟を詰め込んで!」
空気が弾け飛ぶ。
マッハ三。
誰よりも速く。
誰よりも美しく。
銀色の軌跡が一直線に伸びていく。
「うおおおおお!!」
実況が絶叫する。
「速い!」
「速すぎる!!」
「これが、これが!」
「世界記録保持者・成田翔平!」
「圧巻の末脚だぁぁぁ!!」
後続との差はみるみる広がっていく。
天城は拳を握り締める。
「これが……。」
「学院最速……!」
成田は誰にも追いつかせない。
その背中には、勝利だけを目指す覚悟が宿っていた。




