第63話 決勝戦
二日間にわたって行われた魔法大祭。
その最後を飾る決勝戦。
闘技場は立ち見まで埋め尽くされ、実況席の声さえ歓声にかき消されそうになっていた。
「決勝戦です!」
「一年生でここまで勝ち上がった天城理人!」
「そして三年生最強――石破武!」
紹介された名前だけで、会場は大きく揺れる。
「天城ー!!」
「石破先輩!」
「最高の試合を見せてくれ!」
これまでの試合を見続けてきた観客たちは知っていた。
天城理人は常識外れの発想で勝ち上がってきた。
石破武はどんな魔法にも対応し、圧倒的な実力で勝ち続けてきた。
誰もが、この試合だけは見逃したくなかった。
二人は闘技場の中央へ歩み寄る。
「よろしくお願いします。」
「よろしく。」
互いに一礼。
審判が旗を振り下ろした。
「始め!」
開始と同時。
天城は右手を前へ突き出す。
「天弓。」
周囲へ散らばっていた鉄片が宙へ浮かび上がる。
「雷轟。」
青白い電光が鉄片を包み込む。
「光の柱で貫きたまえ。」
轟音。
鉄片は音速を超え、一直線に石破へ放たれた。
会場から歓声が上がる。
「いきなりレールガンだ!」
「最初から全力!」
しかし。
石破は一歩も動かない。
棒立ちのまま天城を見つめていた。
超高速で飛来した鉄片が石破の周囲を覆う結界へ触れた瞬間――
消えた。
いや。
消えたように見えただけだった。
鉄片は分子を保つことすら許されず、粉末より細かな粒子へと分解され、風に溶けるように散っていく。
実況席が息を呑む。
「防いだ……!」
「違う! 砕いたんだ!」
理人は叡智の瞳で結界を見つめる。
(結界そのものに術式が組み込まれている。)
(防御結界じゃない。)
(分解魔法……。)
(結界へ触れた物質の原子同士の結合を切り離してる。)
(だから、どんな物理攻撃も形を保てない。)
石破は静かに杖を構えた。
「lim→∞。」
魔法陣は現れない。
杖の魔鉱石へ直接刻み込まれた術式が発動する。
空間そのものへ膨大な魔力が流れ込んだ。
周囲の空気が震える。
石破の前に、小さな火が灯る。
ただの火魔法。
本来なら手のひらほどしかない炎。
しかし次の瞬間。
炎は爆発的に膨れ上がり、巨大な火柱となって闘技場を覆った。
「なんだあれ!」
「太陽だ……!」
実況も叫ぶ。
「lim→∞!」
「空間のエネルギーを極限まで増幅しています!」
「同じ火魔法とは思えない威力です!」
灼熱の奔流が天城へ迫る。
天城は動かない。
両手を軽く開く。
魔法陣は描かない。
「絶対防御。」
透明な膜が天城を包む。
逆位相の魔力。
衝突した瞬間、炎が激しく軋む。
凄まじい爆風。
会場全体が震えた。
教師たちは慌てて防御結界を重ねる。
火柱は少しずつ削られていく。
絶対防御も激しく揺れる。
あと一歩で押し負ける。
それでも。
最後の一片まで相殺し切った。
静寂。
石破が少しだけ目を細める。
「そこまで防ぐか。」
天城は息を整えながら笑う。
「簡単には負けません。」
次の瞬間。
天城は空中へ次々と魔法陣を書き始めた。
円。
円。
円。
幾重にも重なった雷属性魔法陣が石破を囲む。
そこへ膨大な電流を流し込む。
電流は環状に循環し始めた。
実況が叫ぶ。
「これは……!」
「電磁誘導!」
強烈な磁場が闘技場を支配する。
雷ではない。
磁場そのものが石破の身体を拘束する。
石破は横へ飛ぶ。
しかし。
「……!」
身体が思うように動かない。
磁力が全身を引き寄せる。
天城は勝利を確信した。
(捕らえた。)
(ここで終わる!)
その瞬間だった。
石破の身体が、不自然に伸びた。
まるでゴムのように。
いや。
空間そのものが歪んだ。
魔力の流れはない。
光もない。
音もない。
ただ空間だけが静かにつながる。
理人の叡智の瞳ですら反応できない。
(何だ……!?)
次の瞬間。
「後ろだ。」
その声は背後から聞こえた。
天城が振り向く。
そこには、すでに杖を突きつけた石破が立っていた。
「……っ!」
天城の首元で杖が止まる。
完全に勝負は決していた。
石破は静かに説明する。
「位相幾何学。」
「トポロジーだ。」
「空間の『穴』を操作し、離れた場所同士を一時的につなげた。」
「瞬間移動じゃない。」
「だから魔力の移動も、光も、音も発生しない。」
天城は悔しそうに笑った。
「……そこまで考えてたんですね。」
審判が旗を掲げる。
「勝者!」
「三年・石破武!」
会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「石破先輩ー!」
「すげぇぇぇ!!」
「天城も最高だったぞ!」
石破は杖を下ろし、天城へ手を差し伸べる。
「君は強い。」
「一年後……いや、それより早く私を超えるだろう。」
天城はその手を握り返した。
「必ず超えます。」
師弟とも呼べる二人へ、惜しみない拍手が送られ続けていた。




