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第62話 神埼おと

 試合終了後。

 選手控室。

 神埼おとは椅子へ腰掛け、大きく息を吐いていた。

「負けちゃったなぁ……。」

 その時、部屋の扉が軽くノックされる。

「入ってもいいかな。」

 石破武だった。

「もちろんです。」

 石破は部屋へ入ると、近くの椅子へ腰を下ろした。

「いい試合だった。」

「ありがとうございます。」

 少し沈黙が流れる。

 やがて石破が口を開いた。

「最初の脳震盪。」

「あれは共振だね。」

 神埼おとは驚いて目を丸くした。

「……分かったんですか。」

「結界が少しだけ震えた。」

「普通の魔法なら結界で止まる。」

「でも君の攻撃は振動そのものを伝えてきた。」

「だから結界の構造を変えた。」

 神埼おとは苦笑した。

「一回で見抜かれるとは思いませんでした。」

 その時だった。

 勢いよく扉が開く。

「どうじゃどうじゃ!」

「わしらの考えた魔法、すごいじゃろ!」

 ニューゴン先生が満面の笑みで入ってきた。

「初見じゃ絶対分からんじゃろ!」

「先生……。」

 神埼おとは少し恥ずかしそうに笑う。

 ニューゴン先生は神埼おとの右手を指差した。

「種はそこじゃ。」

 右手の指輪。

 一見すると普通の銀色の指輪。

 だが中央には小さな魔鉱石が埋め込まれていた。

「魔鉱石はのう。」

「振動する性質を持っとる。」

「魔方陣でその振動数を細かく制御すると……。」

「相手だけ共振させられる。」

 石破は静かに頷く。

「だから魔方陣に手をかざしているだけに見えた。」

「魔力を飛ばしていたわけじゃない。」

「魔鉱石を制御していただけ。」

「その通りじゃ。」

 ニューゴン先生は胸を張る。

「だから魔力の痕跡もほとんど残らん。」

「叡智の瞳でも見抜くのは難しいじゃろ。」

 神埼おとは照れ笑いを浮かべた。

「先生と一緒に一年くらい研究しました。」

「まだ完成じゃないがの。」

 ニューゴン先生は嬉しそうに笑う。

 石破は続けて尋ねた。

「もう一つ。」

「雷魔法相手だけ爆発が異常だった理由。」

 神埼おとは静かに頷いた。

「あれは、お兄ちゃんから教えてもらった理論です。」

「雷魔法を使う相手は、高速移動の過程で空気中へ水素をばらまきます。」

「さらに汗に含まれる成分も少しだけ利用できます。」

「私は……そこへ火をつけただけです。」

「だから。」

「魔法じゃなくて現象。」

 石破は納得したように笑った。

「やっぱり。」

「君のお兄さんと同じだ。」

「神埼先輩も空気中の成分を利用して爆発を起こしていた。」

「魔法で爆発させるんじゃない。」

「現象そのものを利用して戦う。」

 神埼おとは少し嬉しそうに笑う。

「兄にはまだ全然追いつけません。」

 石破は首を横に振った。

「いや。」

「十分すごい。」

「最後の魔法も見ていた。」

 神埼おとの表情が少しだけ変わる。

「あれまで気付いてたんですか。」

「発動されていたら危なかった。」

「だから全力で止めた。」

 神埼おとは小さく息を吐いた。

「あれは……まだ完成してないんです。」

「使えたとしても、一回だけ。」

 ニューゴン先生も腕を組む。

「まだ研究途中じゃ。」

「完成したら、とんでもない魔法になるぞい。」

 石破は立ち上がる。

「楽しみにしている。」

「次に戦う時は、完成版を見せてほしい。」

「はい!」

 神埼おとは力強く頷いた。

 部屋を出る直前、石破は振り返る。

「それと。」

「もし決勝で君が天城君と戦っていたら――」

 少しだけ笑う。

「たぶん、君が勝っていた。」

 そう言い残し、石破は静かに控室を後にした。

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