第61話 準決勝②
準決勝第二試合。
闘技場へ姿を現した神埼おとの耳に、歓声ではなく罵声が飛び込んできた。
「卑怯者!」
「ちゃんと戦え!」
「何をしたか説明しろ!」
客席の一部から紙くずや食べかすまで投げ込まれる。
神埼おとは何も言わず、その場で立ち止まった。
「やめなさい!」
教師たちが慌てて制止に入る。
実況も声を張り上げる。
「選手への迷惑行為は禁止されています! 大会の進行にご協力ください!」
警備の教師が観客席へ向かい、ようやく騒ぎは収まった。
反対側の入場口から石破武が歩いてくる。
観客へ軽く手を振りながらも、表情は真剣だった。
二人は中央で向かい合う。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
互いに一礼。
審判が旗を振る。
「始め!」
開始と同時。
神埼おとは右手を小さく掲げた。
石破の防御結界が自動展開される。
次の瞬間。
石破の身体が一瞬だけ揺れた。
「……。」
わずかな脳震盪。
しかし結界は破られていない。
石破は目を閉じる。
(今のは魔力の衝突じゃない。)
(結界そのものが、微細に振動した。)
石破は杖を軽く回す。
結界術式を書き換える。
防御力ではなく、振動の吸収を優先する構造へ。
「なるほど。」
「そういう魔法か。」
神埼おとの目が少しだけ見開く。
(もう……対策された。)
石破は何も言わず、今度は雷魔法を放つ。
雷が一直線に走る。
その瞬間。
闘技場の中央で激しい爆発が起きた。
実況席がどよめく。
「また爆発です!」
「しかし今度は石破選手の雷魔法がきっかけです!」
石破は爆煙を見つめる。
鼻を動かす。
(焦げ臭くない。)
(煤も残らない。)
(なるほど。)
(炎で爆発させているわけじゃない。)
神埼おとへ視線を向ける。
「君のお兄さんと、よく似ている。」
神埼おとは少しだけ笑った。
「ありがとうございます。」
その言葉と同時に紙の魔方陣へ魔力を流す。
小さな炎が生まれる。
さらに別の紙へ手をかざした瞬間。
炎は一気に巨大化した。
観客が息を呑む。
「炎が……!」
「一瞬で!」
石破は一歩踏み込む。
「なら、こちらも本気でいこう。」
杖を振る。
空間を切り裂く斬撃。
分解魔法。
巨大な炎は真っ二つに裂かれた。
しかし。
炎が消えた場所から白い霧が広がる。
神埼おとは再び小さな炎を放つ。
直後。
闘技場全体を揺らすほどの爆発が発生した。
「まただ!」
「何が起きている!」
理人も叡智の瞳を発動していた。
(炎魔法。)
(それ以外にも何か生成魔法を使っている。)
(でも……。)
(見えない。)
(情報が繋がらない。)
神埼おとは止まらない。
次々と紙へ魔力を流す。
爆発。
爆発。
爆発。
観客席から悲鳴が上がる。
教師たちも防御結界を何重にも展開する。
石破は静かに呟いた。
「一つずつ積み上げている。」
「お兄さんと同じだ。」
「派手に見えて、全部理屈で繋がっている。」
神埼おとは最後の切り札を切る。
連続する爆発。
爆炎はさらに勢いを増し、闘技場を包み込んだ。
「終わりです!」
その言葉に合わせるように石破が杖を掲げる。
「――lim→0。」
魔法陣は現れない。
ただ空間だけが静かに歪む。
爆発が吸い寄せられる。
熱。
衝撃。
運動。
あらゆるエネルギーが極限まで分散され、爆炎は一瞬で勢いを失った。
実況も声を失う。
「消えた……。」
「爆発が……消えました……!」
理人は思わず立ち上がる。
(違う。)
(消したんじゃない。)
(エネルギーそのものを操作している……。)
(でも、どうやって。)
石破は間髪入れず前へ出る。
無数の分解斬撃。
神埼おとは紙の魔方陣で応戦するが、すべて切り裂かれる。
さらに石破は杖を振る。
周囲の空間がゆっくりと収束し始める。
強力な引力。
逃げ場が消える。
神埼おとは最後の一枚へ魔力を流そうとした。
しかし。
「……あ。」
指先から魔力が出ない。
魔力切れ。
紙が力なく地面へ落ちた。
石破は杖を下ろす。
「ここまでですね。」
神埼おとは静かに笑う。
「……負けました。」
審判が旗を掲げた。
「勝者!」
「三年・石破武!」
会場は今日一番の歓声に包まれる。
石破は神埼おとへ歩み寄り、小さく頭を下げた。
「いい試合だった。」
「君のお兄さんを思い出したよ。」
神埼おとは照れくさそうに笑い、一礼を返した。
こうして決勝戦は――
天城理人。
石破武。
師弟とも言える二人の対決となった。




