第60話 準決勝①
準決勝第一試合。
会場の熱気は、準々決勝を終えてさらに高まっていた。
実況が高らかに告げる。
「準決勝第一試合!」
「二年・天城理人!」
「対するは三年・フィクアリー・パール!」
大きな拍手が響く。
天城は闘技場へ歩み出る。
向かいにはフィクアリー。
昨日までの穏やかな表情は消え、どこか張り詰めた空気をまとっていた。
「よろしくお願いします。」
天城は頭を下げる。
しかし。
フィクアリーは何も答えない。
ただ、静かに紙の魔方陣を握り締めるだけだった。
(……様子がおかしい。)
審判が旗を振り下ろす。
「始め!」
開始と同時。
フィクアリーは何枚もの紙へ一斉に魔力を流した。
闘技場中に無数の水泡が浮かび上がる。
赤。
青。
透明。
大小様々な泡が空を埋め尽くした。
「また泡魔法だ!」
「今度は数が桁違いだ!」
理人は左目を開く。
叡智の瞳。
視界いっぱいに魔力情報が流れ込む。
(火炎。)
(雷。)
(氷。)
(拘束。)
(回復。)
(爆発。)
一つ一つ解析していく。
その中で。
たった一つだけ異質な泡を見つけた。
(……魔力が、ほとんど入ってない?)
他の泡と比べても異常に薄い。
理人はその位置を記憶する。
さらに揺場感知を発動。
空間全体の物質の揺らぎを把握する。
泡。
泡。
泡。
数百。
いや、千近い泡の位置が一気に頭へ流れ込む。
「っ……!」
情報量が多すぎる。
一つ一つは見えている。
だが処理が追い付かない。
その瞬間。
パチン。
一つの泡が割れた。
それを合図にしたかのように。
パチン。
パチン。
パチン。
全ての泡が一斉に弾ける。
炎。
雷。
氷。
風。
土。
あらゆる魔法が四方八方から理人へ襲い掛かった。
「絶対防御!」
古代魔法が展開される。
理人は今大会で解析した全ての魔法を術式へ組み込んでいた。
炎は消える。
雷も消える。
風も。
氷も。
土も。
全て逆位相の魔力へ打ち消されていく。
実況が叫ぶ。
「全部防いだ!」
「これが絶対防御!」
理人は息を吐いた。
(終わった。)
そう思った。
その時だった。
目の前。
あの魔力のほとんど無かった泡が静かに浮かび上がる。
「!」
パリン。
泡が割れた。
直後。
ドォォォォォン!!
今までとは比較にならない爆発が闘技場を包み込んだ。
理人は咄嗟に絶対防御を展開する。
しかし。
反応しない。
(違う!)
(これは魔法じゃない!)
爆発の中心を叡智の瞳が捉える。
一瞬で理解した。
(水泡の中で……。)
(核融合……。)
(ナトリウムを生成していたのか!)
生成された金属ナトリウム。
泡が割れ、水と接触。
その瞬間に起こる激しい化学反応。
(だから魔力がほとんど無かった。)
(魔法で爆発させたんじゃない。)
(化学反応……!)
絶対防御は魔法しか打ち消せない。
この爆発には術式が存在しない。
ならば。
(自分で計算するしかない。)
理人の思考が極限まで加速する。
(爆発圧。)
(熱量。)
(衝撃波。)
(逆位相……。)
右手へ魔力が集まる。
「……そこだ!」
衝撃波と正反対の位相を持つ魔力を瞬時に構築。
爆風へ叩き込む。
ドォォォン!!
二つのエネルギーが真正面から衝突し、爆発は相殺された。
しかし。
視界は煙で真っ白だった。
◇ ◇ ◇
フィクアリーは煙を見つめる。
息を切らしながら、小さく笑った。
「……勝った。」
絶対防御では防げない。
そう確信して放った最後の一撃。
誰が見ても勝負は決したように思えた。
その時。
「まだです。」
背後から声がした。
「!」
フィクアリーの首筋へ、薙刀の刃が静かに突き付けられる。
振り返る。
そこには。
煤だらけになった理人が立っていた。
フィクアリーは目を見開く。
「どうして……。」
「爆発そのものは防げませんでした。」
「だから、自分で逆位相を計算しました。」
理人は静かに薙刀を下ろす。
「危なかったです。」
審判が旗を掲げた。
「勝者!」
「二年・天城理人!」
会場は一瞬静まり返り、次の瞬間、今日一番とも言える歓声に包まれた。
「すげぇぇぇぇ!!」
「最後の爆発を耐えた!」
「何なんだあの二人は!」
フィクアリーはその場に膝をつく。
ゆっくりと俯き、小さく呟いた。
「……また、届かなかった。」
理人は何も言わず、その場で深く一礼した。
こうして、激闘の末。
天城理人は決勝進出を果たした。




