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第59話 準々決勝④

 準々決勝、最後の一戦。

 会場には異様な緊張感が漂っていた。

「準々決勝第四試合!」

「二年・鳴神春香!」

「対するは一年・神埼おと!」

 歓声が響く。

 鳴神は静かに腕を組み、神埼おとは紙の魔方陣を数枚並べる。

「始め!」

 開始と同時。

 鳴神の姿が雷へと変わった。

「雷迅。」

 轟ッ!

 雷鳴とともに闘技場を駆け抜ける。

 目で追えない。

 まるで稲妻そのものだった。

「速い!」

「見えない!」

 観客がどよめく。

 神埼おとは慌てる様子もなく、一枚の紙へ静かに魔力を流した。

 炎魔法。

 ただ、それだけ。

 小さな火花が闘技場へ散る。

「……?」

 理人は眉をひそめる。

(炎魔法?)

(あんな小さな炎じゃ当たるわけが……。)

 次の瞬間だった。

 バァァァァン!!

 闘技場中央で凄まじい爆発が起こる。

「!!」

 雷となって疾走していた鳴神の身体が爆煙の中から弾き飛ばされた。

 地面を何度も転がり、そのまま動かなくなる。

 会場が静まり返る。

「な……。」

「何が起きた?」

 実況も言葉を失う。

 煙が晴れていく。

 鳴神は意識を失っていた。

 審判が安全を確認し、旗を掲げる。

「勝者!」

「一年・神埼おと!」

 しかし。

 歓声は起こらなかった。

 代わりに客席からざわめきが広がる。

「今の何だよ!」

「見えなかったぞ!」

「説明しろ!」

 やがて一部の観客からブーイングが起こる。

「納得できない!」

「何で勝ったんだ!」

 実況席も混乱していた。

「リプレイを確認していますが……。」

「炎魔法を使った痕跡が、一瞬だけ確認されています。」

「ですが、この規模の爆発を起こせるような魔法では……。」

「説明がつきません!」

 理人も叡智の瞳を発動していた。

(確かに炎魔法は見えた。)

(でも一瞬だけ。)

(あの程度の出力で……。)

(あんな爆発になるはずがない。)

 首を振る。

(分からない。)

(情報が足りない。)

 その頃。

 教師たちが現場へ駆け寄る。

「近付くな!」

 一人の教師が叫ぶ。

 闘技場には黒く焼け焦げた跡が、ほとんど残っていなかった。

「黒焦げじゃない……?」

 代わりに。

 白い霧が地面を這うように広がっている。

「げほっ!」

「目が……!」

「むせる!」

 駆け寄った教師が激しく咳き込み、目を押さえた。

 刺激臭が周囲へ広がる。

 涙が止まらない。

「全員下がれ!」

「風魔法班!」

「霧を散らせ!」

 複数の教師が風魔法で白い霧を吹き飛ばす。

 数分後、ようやく闘技場は元の状態へ戻った。

 ニューゴンは腕を組みながら、小さく呟く。

「……なるほど。」

「相手によっては、相当強い。」

 その一言だけだった。

 理人はその言葉を聞き逃さなかった。

("相手によっては"……?)

(つまり。)

(あの魔法には条件がある。)

(でも、その条件が分からない。)

 神埼おとは静かに一礼し、控室へ戻っていく。

 その背中を見つめながら、会場の誰一人として、この試合の本当の仕組みを理解できていなかった。

 ただ一人。

 神埼おと本人だけが、その答えを知っていた。

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