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第6話 魔法生物学

一時間目の魔法式学が終わり、天城理人は次の教室へ向かっていた。

次の授業は――

魔法生物学。

教室に入ると、そこには普通の生物室に近い雰囲気があった。

顕微鏡。

標本。

魔法器具。

ただし、日本の高校とは大きく違う。

机の上には、魔力測定装置や見たことのない生物の細胞標本が置かれている。

「生物か……」

理人は少し安心した。

理科の中では得意な分野だった。

先生が教壇に立つ。

「本日の授業では、魔法生物がどのように魔法を発現するのか、その基本構造を学びます」

黒板に映像が表示される。

そこには、人間の細胞。

しかし、普通の細胞とは違う部分があった。

細胞内部に、複雑な光る経路が存在している。

「これが魔力回路です」

教室が静かになる。

「魔法を使用する生物は、通常の生命活動とは別に、魔力を生成・制御するための特殊な細胞機構を持っています」

理人は画面を見る。

「細胞の中に……回路?」

少し違和感があった。

でも、考え方としては理解できる。

植物なら光合成。

動物なら代謝。

生物は必ずエネルギーを作る仕組みを持っている。

ならば魔法にも、そのための仕組みがある。

先生は次の図を表示した。

「魔法発動に必要なエネルギー源。それが――」

黒板に文字が浮かぶ。

MTP(マリョノシン三リン酸)

「MTPは魔法反応に使用されるエネルギー分子です」

理人は思わず反応する。

「ATPみたいだな……」

地球の生命活動ではATPがエネルギー通貨として使われる。

この世界では、それに近い役割をMTPが担っている。

「生物は食物から得た物質を利用し、MTPを合成します」

先生が図を表示する。

そこには複雑な代謝経路が描かれていた。

カルプス・ペストン回路

魔法生物がMTPを作るための重要な代謝経路。

「この回路では、カルプスCOAとMDPHを利用して、魔力の源となるMTPを合成します」

先生が説明する。

物質が変換される。

エネルギーが蓄えられる。

そしてMTPが作られる。

「つまり……」

理人はノートに書きながら考える。

「魔力って突然出てくるものじゃなくて、体内で作られてるエネルギーなのか」

隣の生徒が聞く。

「当たり前じゃないか?」

「え?」

「魔力は体力と同じようなものだよ」

理人は少し考えた。

確かに。

この世界の人間にとっては常識なのだ。

地球人が酸素を吸って生きることを疑問に思わないように。

先生はさらに説明を続ける。

「しかし、MTPを作るだけでは魔法は発動しません」

次に表示されたのは、遺伝情報。

「魔法の属性を決定するものがあります」

それが――

MPRNA(マリョリボヌクレオチドRNA)

「MPRNAは魔法タンパク質の設計情報を持っています」

「火属性なら火属性に必要な魔法タンパク質」

「水属性なら水属性に必要な魔法タンパク質」

を作り出す。

つまり、

MPRNA

魔法タンパク質

属性発現

という流れ。

理人は少し興奮した。

「遺伝子発現……」

地球の生物学と似ている。

でも違う。

魔法という現象を、生物が進化の中で獲得している。

授業の最後。

先生が生徒たちに簡単な実験をさせる。

自分の魔力反応を測定する。

理人も装置に手を置いた。

結果が表示される。

「属性反応……」

先生が画面を見る。

「……」

少し黙る。

「どうしました?」

理人が聞く。

先生は首を傾げた。

「珍しいですね」

「何がですか?」

「魔力量は平均的です」

「ですよね」

理人は少し安心した。

「ですが……」

先生が続ける。

「魔力回路の解析速度が異常に速い」

「え?」

理人には意味が分からない。

「普通は魔力回路を見るだけでは理解できません」

先生は画面を見る。

「あなたは、見た情報を構造として認識しているようです」

理人は首を傾げた。

「……?」

本人には特別なことをしている自覚はなかった。

ただ、理科の問題を見る時と同じだった。

仕組みを見る。

原因を考える。

理解する。

それだけ。

授業終了の鐘が鳴る。

理人はノートを見返した。

魔法式学。

魔法生物学。

どちらも、全く未知の分野だった。

しかし。

「面白いな……」

理人は小さく呟く。

魔法はただの不思議な力じゃない。

生命活動。

化学反応。

エネルギー変換。

すべてが組み合わさって存在している。

異世界に来た高校生は、少しずつ理解し始めていた。

魔法とは――

研究できるものなのだと。

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