第57話 フィクアリー・パール
静かな控室。
窓の外から聞こえる歓声が、かえって部屋の静けさを際立たせていた。
フィクアリー・パールは椅子に腰掛け、静かに自分の両手を見つめる。
「……絶対に負けられない。」
その言葉は、誰に聞かせるでもなく漏れた。
脳裏に浮かぶのは、幼い頃の記憶だった。
◇ ◇ ◇
「また負けたの?」
姉が笑う。
弟も妹も、その隣で笑っていた。
貴族・パール家。
代々優秀な水魔法使いを輩出してきた名門。
しかし、フィクアリーだけは違った。
魔力量。
魔法の出力。
どちらも兄弟姉妹の中で最も低かった。
「こんな魔力量じゃ話にならない。」
「お姉様を見習いなさい。」
「弟の方がよほど才能がある。」
父は冷たく言い放つ。
母も何も言わずに頷くだけだった。
訓練で失敗すれば叩かれる。
食事中も出来の悪さを責められる。
「できの悪い次女のようにはなるな。」
その言葉だけは、何度聞いたか分からない。
誰も努力を見ようとはしなかった。
結果だけが全てだった。
◇ ◇ ◇
だから、考えた。
魔力量で勝てないなら。
出力で勝てないなら。
別の方法で勝てばいい。
限られた魔力で最大の威力を出す方法。
魔法陣をあらかじめ用意し、一瞬で展開する方法。
泡の中へ魔法を封じ込める方法。
何百回。
何千回。
失敗を繰り返した。
周囲からは変わった魔法だと笑われた。
それでも研究をやめなかった。
◇ ◇ ◇
一年生。
初めて出場した魔法大祭。
一回戦。
相手は当時二年生だった神埼先輩。
開始。
そして終了。
自分の泡を展開する間もなく、意識は闇へ落ちた。
何が起きたのか。
最後まで分からなかった。
圧倒的敗北。
何もできなかった。
◇ ◇ ◇
二年生。
ようやく一回戦を突破した。
今年こそ。
そう思った矢先。
学園は襲撃された。
大会は中止。
積み上げてきた努力を証明する舞台は失われた。
◇ ◇ ◇
そして三年生。
最後の魔法大祭。
もう後はない。
「私は……。」
フィクアリーはゆっくり立ち上がる。
「証明しないといけない。」
落ちこぼれじゃないことを。
才能がなくても、ここまで来られることを。
家族に。
そして、自分自身に。
「絶対に負けられない。」
その瞳には迷いはない。
次の相手が誰であろうと。
この大会だけは、何があっても勝ち進む。
それが、フィクアリー・パールが自分の人生を取り戻す、最後の戦いだった。




