第55話 準々決勝①
昼休憩が終わり、会場の熱気はさらに高まっていた。
ここからは準々決勝。
勝ち残った八人による、本当の実力者同士の戦いが始まる。
実況が声を張り上げる。
「準々決勝第一試合!」
「一年・エリカ・ローズベルク!」
「対するは!」
「二年・天城理人!」
歓声が響く。
天城は静かに闘技場へ上がる。
向かいにはエリカ。
穏やかな笑顔を浮かべていた。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
審判が旗を振り下ろす。
「始め!」
開始と同時にエリカが数枚の術式紙へ魔力を流した。
地面から一斉に植物が芽吹く。
蔦。
花。
樹木。
緑が闘技場を埋め尽くしていく。
「また植物魔法だ!」
「やっぱり綺麗だな……!」
観客から感嘆の声が上がる。
理人は揺場感知を発動した。
周囲の物質の揺らぎを捉え、相手の位置や動きを把握する。
(位置は分かる。)
(でも……。)
植物には違和感がなかった。
まるで本物。
叡智の瞳で見ても魔力の流れに不自然さは見つからない。
蔦が一斉に襲い掛かる。
「絶対防御。」
理人の周囲へ古代魔法が展開される。
本来なら相手の魔法を解析し、逆位相の魔力で打ち消す防御魔法。
しかし。
蔦はそのまま防御をすり抜けた。
「なっ……!」
蔦が腕を打つ。
さらに足元から伸びた根が身体をかすめる。
理人は後ろへ跳ぶ。
(防げなかった……。)
(叡智の瞳でも位相が読めない。)
観客席もざわつく。
「天城の絶対防御が破られた!」
「初めてじゃないか!」
エリカは追撃する。
巨大な花が開き、無数の蔦が四方から迫る。
理人は磁場を操作し砂鉄を飛ばして迎撃する。
だが。
植物は次々と再生していくように見えた。
(違う。)
(何かがおかしい。)
一本の蔦が肩へ直撃する。
その瞬間だった。
理人の瞳が大きく開く。
(……土?)
手応えが植物ではない。
叡智の瞳が接触した部分だけを解析する。
そこで初めて真実が見えた。
(土魔法。)
(植物じゃない。)
土を細長く成形し、自在に操っている。
そして表面には。
(光魔法。)
(光の波長を変えて色を偽装しているのか。)
緑色。
葉脈。
花びら。
全て光魔法による視覚情報だった。
理人はようやく理解する。
(だから解析できなかった。)
(俺は"植物魔法"だと思い込まされていた。)
(視覚情報を利用した認識阻害……。)
解析能力を持つ相手ほど騙される。
まさに叡智の瞳への特攻。
理人は静かに息を吐いた。
「なるほど。」
「すごい魔法だ。」
エリカは少し驚く。
「気付きましたか。」
「触れたからね。」
理人は絶対防御を再展開する。
そして内部の術式を書き換えた。
(植物じゃない。)
(土魔法として解析。)
(光魔法は視覚情報として別処理。)
蔦が再び襲う。
その瞬間。
パシュッ。
全ての蔦が目の前で崩壊した。
「えっ……?」
エリカの表情が変わる。
絶対防御が正常に機能し始めた。
逆位相の魔力が土魔法だけを正確に打ち消していく。
「もう効きません。」
理人は杖を構える。
「磁場展開。」
周囲の砂鉄が舞い上がる。
磁力線が幾重にも形成され、見えない檻となってエリカを囲む。
エリカは逃げようとする。
しかし足元の砂鉄が一斉に集まり、身体を拘束した。
「しまっ……!」
「終わりです。」
磁場が一気に収束する。
エリカの身体は拘束されたまま持ち上がり、そのまま場外へ運ばれた。
審判が旗を上げる。
「場外!」
「勝者!」
「二年・天城理人!」
大きな拍手が響く。
エリカは苦笑しながら立ち上がった。
「負けました。」
「まさか見抜かれるなんて。」
理人は首を振る。
「最初は完全に騙されてた。」
「でも、魔法は必ず何かを材料にしている。」
「それが分かっただけです。」
エリカは嬉しそうに笑った。
「やっぱり天城先輩はすごいですね。」
二人は固く握手を交わす。
こうして準々決勝第一試合は終了した。
天城理人。
準決勝進出。




