第54話 お昼休憩
第一回戦が全て終了し、会場には昼休憩のアナウンスが流れた。
観客たちも一斉に席を立ち、屋台や購買へ向かう。
魔法大祭は学院だけの行事ではない。
アスフェルダム王国中が注目する一大イベントだ。
国王をはじめ各貴族、他国の使節団まで観戦に訪れており、会場はまるで祭りのような賑わいを見せていた。
理人も購買で昼食を受け取る。
本日の大会限定弁当。
献立はカツ丼。
きゅうりの漬物。
そして人気コンビニとの共同開発商品、ドラゴンホットチキン。
デザートにはプリンまで付いていた。
「今年は豪華だな。」
後ろから声がする。
振り返ると石破武が手を振っていた。
「天城、一緒に食べよう。」
「はい!」
二人は中庭の日陰に腰を下ろす。
理人はカツを一口食べる。
「……うまい。」
「だろ?」
石破も笑いながらチキンを頬張る。
「このドラゴンホットチキン、毎年人気なんだよ。」
「ちょっと辛いけど癖になる。」
「確かに。」
二人はしばらく他愛のない話を続けた。
午前中の試合。
学院生活。
来年の魔法開発。
そんな中、理人は前から気になっていたことを思い出す。
「石破先輩。」
「ん?」
「前から不思議だったんですけど。」
「この国、日本語ですよね。」
「それに石破とか神埼とか鳴神とか、日本の名字も普通にありますし。」
「異世界なのに、どうしてなんですか?」
石破は少しだけ驚いたような顔をした。
「ああ、その話か。」
プリンを一口食べてから続ける。
「神話時代って知ってるよね。」
「約七千年前ですよね。」
「そう。」
「実はその頃、日本から転生してきた人物がいたらしい。」
理人の手が止まる。
「日本から……。」
「当時はまだ貴族くらいしか名前を持ってなくてね。」
「平民には名字なんて無かった。」
「そこで、その転生者が功績を残した人たちへ名字を与え始めた。」
「その文化が広まって、今の名字になったらしい。」
「じゃあ石破って……。」
「その頃にもらった名字の一つ。」
「もちろん今の石破家とは血が繋がってるわけじゃないけどね。」
理人は納得したように頷く。
「じゃあ、日本語も。」
「その人の影響。」
「最初は一部だけだったらしいけど、書きやすいし話しやすいからどんどん広まった。」
「今じゃ世界中で共通語みたいな扱いになってる。」
「そうだったんですね……。」
理人は少し複雑な気持ちになった。
(俺も日本から来た。)
(でも俺とは違う転生者が、七千年前にもいた。)
石破は理人の様子を見て笑う。
「天城なら興味持つと思った。」
「その転生者、魔法だけじゃなくて科学にも詳しかったらしいよ。」
「だから今でも魔法理論の基礎には、その人の考え方が残ってる。」
「へぇ……。」
「名前は残ってないんですか?」
「残念ながら。」
「神話時代の記録はほとんど失われてる。」
「名前も、本当に日本人だったかも確証はない。」
「ただ、日本語だけは残った。」
理人は空を見上げる。
(俺以外にも、日本から来た人がいたのか。)
(しかも、この世界の歴史を変えるくらいの。)
その時。
会場全体へ鐘の音が響いた。
『まもなく昼休憩を終了します。選手の皆さんは控室へお戻りください。』
石破は立ち上がる。
「さて。」
「午後は準々決勝だ。」
「お互い勝ち残れたら、どこかで当たるかもな。」
理人も笑って立ち上がる。
「その時は全力でお願いします。」
「もちろん。」
二人は軽く拳を合わせ、それぞれの控室へ向かって歩き出した。
午後から始まる戦いは、第一回戦とは比べものにならない激戦になることを、まだ誰も知らなかった。




