第53話 第八試合
第一回戦最後の試合。
ここで準々決勝へ進む八人が出そろう。
実況が高らかに告げた。
「第八試合!」
「三年・成田翔平!」
会場から大きな歓声が上がる。
成田翔平。
飛行魔法を極めた三年生。
空間認識能力は学院でも群を抜いており、飛行速度は世界記録保持者。
空気を切り裂きながら飛翔する姿から、『戦闘機』の異名を持つ。
風魔法を主体としながら複数属性を巧みに扱い、必殺技は超高速タックル。
一度加速すれば、防御魔法ごと貫くと言われていた。
さらに風を圧縮して放つ魔法――「鎌鼬」。
杖を一振りするだけで鋭い風の斬撃が飛ぶ。
「対するは!」
「一年・神埼おと!」
今度は小柄な少女が静かに闘技場へ姿を現した。
神埼おと。
昨年、必殺技披露部門で優勝した爆裂魔法の使い手、神埼先輩の妹。
兄譲りの高火力・高出力・低燃費の爆裂魔法を操ることで知られている。
観客席からも声が飛ぶ。
「神埼先輩の妹か!」
「一年生だけど推薦組だぞ!」
おとは少し緊張した様子で頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
成田も笑顔で頷いた。
「全力で来な。」
審判が手を振り下ろす。
「始め!」
開始と同時に成田が杖を構えた。
「飛翔。」
身体がふわりと浮き上がる。
一瞬で十メートル。
二十メートル。
観客席から歓声が湧く。
「速い!」
「もう飛んだ!」
成田はさらに加速する。
空気が裂ける音が響いた。
まさに戦闘機。
その瞬間だった。
ガクッ。
成田の身体が突然傾いた。
「……え?」
そのまま空中で力を失い、地面へ倒れ込む。
ゴンッ。
静寂。
会場全体が凍り付いた。
「……。」
「え?」
「何が起きた?」
実況も言葉を失う。
成田は立ち上がろうとする。
しかし身体に力が入らない。
ふらつき、そのまま膝をついた。
審判が駆け寄る。
「試合続行は危険です!」
医療班も走る。
簡単な診察が行われる。
「命に別状はありません!」
「ですが脳震盪を起こしています!」
観客席がざわつく。
「脳震盪?」
「誰か攻撃したか?」
「いや、何も見えなかったぞ。」
実況も首を傾げる。
「神埼選手はまだ魔法を一つも使っていません!」
「これは一体どういうことでしょうか!」
理人は反射的に左目へ手を当てた。
叡智の瞳。
解析。
魔力の流れ。
神埼おと。
成田翔平。
空気。
地面。
何度見ても異常はない。
(分からない。)
(魔力反応がない。)
(術式も見えない。)
(何も起きていない……。)
理人は困惑する。
(なのに、倒れた。)
教師たちもざわついていた。
「病気か?」
「魔力切れではないな。」
「何だったんだ今のは。」
観客席の一角。
エイザップ・ニューゴンだけは腕を組み、小さく笑った。
「ほう。」
「そこまで仕上げおったか。」
隣の教師が首を傾げる。
「何か分かったんですか?」
ニューゴンは意味深に笑うだけだった。
「いや。」
「まだ言わん方が面白い。」
神埼おとも困惑した表情で成田を見つめていた。
「だ、大丈夫ですか?」
医療班が診察を終え、審判へ合図する。
審判は旗を掲げた。
「成田翔平、戦闘続行不能!」
「勝者!」
「一年・神埼おと!」
しかし歓声は起こらない。
観客全員が状況を理解できていなかった。
「不戦勝……?」
「いや、飛んだ瞬間に倒れただけだろ?」
「何だったんだ今の。」
実況も最後まで説明できなかった。
「詳細は不明ですが、神埼選手が準々決勝進出です!」
理人は静かに神埼おとを見つめる。
(分からない。)
(叡智の瞳でも解析できない。)
(魔法……なのか?)
その疑問だけが、理人の胸に深く残った。
こうして第一回戦全八試合が終了した。
準々決勝へ進む八人が、ついに出そろった。




