第50話 第五試合
魔法大祭トーナメントもいよいよ後半戦。
ここまで名勝負が続き、会場の熱気は最高潮に達していた。
実況が声を張り上げる。
「第五試合!」
「三年生代表!」
「石破武!」
歓声が一際大きくなる。
学院最強格。
三年連続で魔法大祭表彰台入りを果たした実力者。
昨日の必殺技披露では、空間そのものが裂けたように見える斬撃を披露し、優勝を飾った男である。
石破は片手を上げながら闘技場へ歩いてくる。
「武先輩ー!」
「今日も期待してます!」
「派手なのお願いします!」
観客席から声援が飛ぶ。
石破は笑いながら手を振る。
「いやいや。」
「今日はほどほどにね。」
その軽い口調とは裏腹に、纏う空気は圧倒的だった。
「対するは!」
「一年生!」
「吉田風美!」
一年生席から一人の少女が歩いてくる。
腰には大量の術式紙。
まだ一年生のため杖は持っていない。
「僕が相手か。」
吉田は石破を見る。
「正直、運が悪かったかな。」
そう言いながらも笑っていた。
「でも。」
「勝つつもりで来たよ。」
石破も笑う。
「その意気は好きだ。」
「始め!」
開始と同時に吉田が三枚の術式紙を同時に投げた。
魔力が流れ込む。
巨大な魔法陣が展開される。
「風よ。」
闘技場全体へ暴風が吹き荒れる。
砂が舞い上がり、観客席まで風圧が届いた。
「すごい……!」
一年生とは思えない出力。
さらに術式紙を展開する。
「収束。」
暴風が一か所へ集まり始める。
渦を巻く。
回転数が上がる。
巨大な竜巻が完成した。
歓声が湧き上がる。
「一年生で竜巻!」
「地学系の応用だ!」
理人は頷く。
(気圧差。)
(上昇気流。)
(回転軸。)
(自然現象を魔法で再現してる。)
吉田はさらに詠唱を重ねる。
「吹き飛べ!」
竜巻が石破へ襲いかかった。
狙いは場外。
威力ではなく押し出す戦法だった。
しかし。
石破は一歩も動かない。
「結界。」
その一言だけだった。
透明な壁が石破を包む。
竜巻が直撃する。
轟音。
砂煙。
観客席では何も見えない。
「決まったか!?」
煙が晴れる。
石破はそこに立っていた。
制服一つ乱れていない。
「……え。」
吉田の表情が固まる。
「もう一回。」
新たな術式紙を展開する。
「突風。」
横殴りの暴風。
続いて。
「乱気流。」
風向きが一秒ごとに変化する。
さらに。
「下降気流。」
上から叩き付けるような風圧。
三種類の風魔法が同時に襲いかかる。
しかし。
石破は相変わらず動かない。
結界へ触れた瞬間。
風は左右へ流され、まるで岩を避ける川のように逸れていく。
「何で……。」
吉田は息を呑む。
「壊れない。」
教師が静かに説明する。
「あれは石破独自の結界術だ。」
「普通の結界ではない。」
理人は叡智の瞳を発動した。
解析。
魔力構造。
術式。
その瞬間、思わず目を見開く。
(微分……。)
(いや。)
(極限値。)
結界の厚さが一定ではない。
攻撃が近付くほど密度が無限に高まっていく。
まるで数学の極限そのもの。
(だから突破できない。)
(近付こうとするほど、防御力が上がる。)
理人は思わず笑ってしまう。
(先輩らしい……。)
(数学をこんな使い方する人初めて見た。)
一方の吉田は攻撃を止めない。
暴風。
竜巻。
衝撃波。
空気の圧縮。
自然現象を次々と再現していく。
だが。
全部。
結界の前で止まる。
石破は腕を組みながら見守っていた。
「うん。」
「風の流れは綺麗。」
「地形の利用も悪くない。」
「でも。」
石破は笑う。
「魔力の使い方が少しもったいないかな。」
まるで授業だった。
吉田は歯を食いしばる。
「まだ!」
最後の術式紙を取り出す。
これが切り札。
膨大な魔力が集まる。
闘技場上空へ巨大な積乱雲が現れた。
雷鳴。
暴風。
豪雨。
自然災害そのものだった。
「全部まとめて吹き飛べぇぇぇ!!」
会場が震える。
観客席から悲鳴が上がる。
それでも。
石破は動かない。
「結界。」
たった一言。
暴風は止まり。
雷は逸れ。
豪雨は左右へ流れる。
石破の周囲半径数メートルだけ、まるで別世界のような静寂が広がっていた。
吉田は膝をつく。
「……そんな。」
魔力切れだった。
術式紙も尽きた。
石破は一歩だけ前へ出る。
「ここまでだね。」
審判が旗を上げる。
「勝者!」
「三年!」
「石破武!」
会場は大歓声に包まれた。
「攻撃してないぞ!」
「全部結界だけだ!」
「圧倒的すぎる……。」
石破は吉田へ手を差し伸べる。
「一年でここまで自然現象を再現できる人は珍しい。」
「あと二年もしたら、たぶん僕でも苦戦する。」
吉田は照れくさそうにその手を握る。
「……負けました。」
「でも、次は絶対勝ちます。」
「楽しみにしてる。」
二人は笑顔で握手を交わした。
理人は石破の背中を見つめながら、改めて実感する。
(先輩は攻撃だけじゃない。)
(防御ですら、学院最高峰なんだ。)




