第49話 第四試合
第三試合が終了し、会場の熱気はさらに高まっていた。
「それでは第四試合!」
実況の声が闘技場へ響き渡る。
「二年生代表!」
「アイランド・アームストロング!」
西側の入場口から、一人の大柄な男子生徒が姿を現した。
鍛え抜かれた肉体。
制服の上からでも分かる分厚い筋肉。
歩くだけで地面が揺れるような存在感だった。
「アームストロング家!」
「身体強化魔法の名門だ!」
学院でも知らない者はいない家系。
代々、身体強化魔法を極めてきた一族である。
アイランドは観客席へ軽く手を振ると、闘技場中央へ立った。
その表情は穏やかだった。
「対するは!」
「一年生!」
「猪狩雄也!」
今度は黒髪の少年が姿を現す。
腰には何枚もの札。
そして背中には、小さな狐型の魔物が乗っていた。
「式神使いだ!」
「一年で十七体も従えてるらしいぞ!」
猪狩は静かに礼をする。
「よろしくお願いします。」
「よろしく!」
アイランドは満面の笑みで答えた。
その爽やかな様子に観客席から笑いが起こる。
「いい人そう。」
「でも戦うと化け物なんだよな。」
審判が旗を上げる。
「始め!」
開始と同時に猪狩が札を投げた。
「来い。」
魔法陣が展開される。
一体。
二体。
三体。
狼。
大蛇。
巨大な鳥。
岩の巨人。
炎を纏う猿。
次々と魔物が姿を現した。
合計十七体。
観客席からどよめきが起こる。
「全部従えてるのか!」
「一年で!?」
理人も驚いていた。
(すごい統率力だ。)
猪狩は指を鳴らす。
「包囲。」
十七体の魔物が一斉に動き出す。
四方八方からアイランドへ襲いかかった。
しかし。
アイランドはその場から動かない。
静かに拳を握る。
「身体強化。」
全身の筋肉が膨れ上がる。
地面がひび割れた。
次の瞬間。
ドンッ!!
踏み込みだけで衝撃波が生まれる。
最初に飛び込んできた狼型魔物を拳で吹き飛ばした。
そのまま振り向きざまに蹴り。
岩の巨人が砕け散る。
巨大な鳥を掴み、そのまま地面へ叩きつける。
歓声が沸き起こる。
「強い!」
「近距離じゃ止められない!」
猪狩は冷静だった。
「予想通り。」
魔物たちは次々と攻撃する。
倒される。
また新しい魔物が時間を稼ぐ。
まさに消耗戦。
アイランドは強い。
だが身体強化魔法は燃費が悪い。
長引けば不利になる。
猪狩はその一点を狙っていた。
十分な距離が空いた瞬間。
猪狩の瞳が妖しく光る。
「精神支配。」
紫色の魔力がアイランドへ伸びる。
精神魔法。
意思が弱い者なら無条件で支配される魔法だった。
しかし。
何も起こらない。
「……?」
猪狩が目を見開く。
アイランドは首を傾げる。
「今、何かしたか?」
観客席がざわつく。
「精神魔法が効いてない!」
教師が静かに呟く。
「精神力か……。」
アイランドは笑った。
「うちの親父がな。」
「身体だけじゃなく心も鍛えろって毎日言うんだ。」
そう言って胸を叩く。
「だから効かない。」
猪狩は初めて表情を変えた。
(精神魔法が通じない……。)
勝ち筋が崩れる。
それでも諦めない。
「総攻撃!」
十七体の魔物が最後の突撃を仕掛けた。
アイランドは深く息を吸う。
そして。
一歩踏み込む。
ドォン!!
地面が爆ぜた。
圧倒的な脚力。
拳。
肘。
膝。
蹴り。
一撃ごとに魔物が吹き飛んでいく。
わずか数十秒。
闘技場に立っていた魔物は、一体残らず戦闘不能となった。
猪狩は札を握る。
しかし。
目の前にはもうアイランドが立っていた。
「終わりだ。」
右拳がゆっくりと突き出される。
速くはない。
それでも避けられない。
腹部へ軽く触れる。
次の瞬間。
衝撃だけが身体を貫いた。
猪狩は後方へ吹き飛び、闘技場の端で倒れる。
審判が旗を上げた。
「勝者!」
「二年!」
「アイランド・アームストロング!」
闘技場は大歓声に包まれた。
アイランドはすぐに猪狩へ駆け寄る。
「大丈夫か!」
「手加減したつもりだったんだけど!」
猪狩は苦笑しながら起き上がる。
「十分手加減ですよ……。」
二人は笑いながら握手を交わした。
理人はその光景を見つめる。
(身体強化だけであそこまで……。)
(魔法は派手じゃない。)
(でも、一番シンプルだからこそ強い。)
こうして第四試合は、身体強化魔法の名門・アームストロング家の実力を改めて学院中へ知らしめる一戦となった。




