第48話 第三試合
第二試合の熱気が冷めやらぬまま、実況が声を張り上げる。
「第三試合!」
「三年・フィクアリー・パール!」
会場から大きな拍手が湧き上がる。
長い水色の髪を揺らし、一人の少女が闘技場へ姿を現した。
制服の上からでも分かる上品な所作。
手には短い木製の杖。
その先端から柄に至るまで、無数の魔鉱石が散りばめられていた。
「貴族のパール家だ。」
「三年でもトップクラスだぞ。」
「昔は落ちこぼれって聞いたけどな。」
フィクアリーは静かに一礼する。
かつては名門貴族の落ちこぼれ。
しかし努力を重ね、今では学院最強格とまで呼ばれる存在になっていた。
教職員推薦での出場である。
「対するは!」
「二年・リアン・サイロース!」
今度は銀髪の少女が入場する。
昨日のお題競争準優勝者。
巨大な岩石を分解しながら精密な彫刻へ仕上げた、分解魔法の天才だった。
リアンは軽く礼をする。
「よろしくお願いします。」
「ええ。」
フィクアリーも微笑み返した。
「始め!」
開始と同時にフィクアリーは懐から十数枚の紙を取り出した。
そこには細かな魔法陣が無数に描かれている。
観客席から驚きの声が上がる。
「術式紙!」
「全部事前に描いてきたのか!」
フィクアリーは一枚一枚魔法陣を書くような真似はしない。
既に完成した術式紙へ魔力を流すだけ。
瞬く間に魔法陣が起動した。
「水泡。」
闘技場いっぱいに巨大なシャボン玉が浮かび始める。
一つ。
二つ。
十。
二十。
百近い水泡がふわふわと宙を漂った。
「綺麗……。」
観客席から感嘆の声が漏れる。
しかし実況が叫ぶ。
「気を付けてください!」
「あのシャボン玉は触れた瞬間に魔法が発動します!」
リアンは静かに周囲を見渡した。
「全部罠ってこと。」
足元の岩を蹴る。
「分解。」
岩石が細かな粒子へ崩壊する。
そのエネルギーが魔力へ変換されていく。
理人は思わず目を見開いた。
(魔力が増えた……。)
(分解エネルギーを吸収してる。)
教師が頷く。
「あれはサイロース家に伝わる古代魔法。」
「分解によって生じるエネルギーを魔力へ変換する特殊能力だ。」
リアンは砕いた石を次々と分解しながら前進する。
魔力切れとは無縁。
まるで戦いながら魔力を補充しているようだった。
だが。
目の前へ一つのシャボン玉が流れてくる。
リアンは迷わず指先で弾いた。
パンッ。
弾ける。
次の瞬間。
氷柱が飛び出した。
「!」
リアンは咄嗟に回避する。
その横で別のシャボン玉が割れた。
炎。
風。
雷。
次々と異なる魔法が飛び出す。
「全部違う!」
実況が興奮する。
「シャボン玉ごとに魔法が違うんだ!」
リアンは距離を取りながら冷静に分析する。
(完全な運任せ……?)
しかし。
フィクアリーは迷いなくシャボン玉の間を歩いていた。
爆発する泡。
雷を放つ泡。
その全てを避けている。
理人は違和感を覚えた。
(偶然じゃない。)
(何か見えてる。)
フィクアリーは小さく呟く。
「左。」
その泡は爆発。
「右。」
その泡は回復魔法。
傷付いた腕へ優しく光が降り注ぐ。
観客席がどよめいた。
「自分で回復した!」
「どうやって見分けてるんだ!」
フィクアリーは静かに笑う。
「魔力属性。」
「色が違いますもの。」
彼女は幼い頃から魔力感知能力に優れていた。
人には区別できない魔力の違い。
シャボン玉の中に込められた属性を感知し、安全な泡だけを利用していた。
一方のリアンは泡を避け続ける。
しかし数が多すぎる。
逃げ道が徐々に塞がれていく。
「なら全部消す。」
リアンは地面へ手をついた。
「広域分解。」
足元の岩盤が一気に崩壊する。
膨大なエネルギーが魔力へ変換される。
さらに衝撃波がシャボン玉をまとめて吹き飛ばした。
だが。
パンッ。
パンッ。
パンッ。
割れた。
無数の泡が。
炎。
氷。
風。
雷。
光。
様々な魔法が一斉に炸裂する。
「しまっ……!」
リアンは分解魔法で防ごうとする。
しかし魔法の種類が多すぎる。
分解しきれない。
最後に一つだけ残っていた泡が、静かにリアンの肩へ触れた。
弾ける。
現れたのは、水流だった。
激しい水圧がリアンの身体を押し流し、闘技場の外まで吹き飛ばす。
審判が旗を掲げた。
「場外!」
「勝者!」
「三年、フィクアリー・パール!」
会場は大きな拍手に包まれた。
フィクアリーは杖を下ろし、リアンへ一礼する。
「ありがとうございました。」
リアンも苦笑しながら立ち上がる。
「完敗です。」
観客席で理人は静かに呟いた。
(あの人……。)
(魔法の威力じゃない。)
(情報処理と判断能力で勝ってる。)
強者とは、ただ強力な魔法を放つ者ではない。
限られた魔力を最も効率よく使い、戦場を支配する者。
フィクアリー・パールは、そのことを誰よりも理解している魔法使いだった。




