第47話 第二試合
第一試合の熱気が残る中、実況が高らかに告げる。
「続いて第二試合!」
「二年・天城理人!」
観客席から歓声が上がる。
昨日、必殺技披露で準優勝を果たした物理魔法の新星。
その名は既に学院中へ広まっていた。
理人は薙刀を肩へ担ぎ、ゆっくりと闘技場へ歩いていく。
「対するは!」
「同じく二年!」
「煙道正道!」
反対側の入場口から、一人の男子生徒が現れる。
赤みがかった短髪。
落ち着いた表情。
右手には黒い杖が握られている。
理人は相手を見つめる。
(煙道正道……。)
(名前だけは聞いたことがある。)
煙道もまた理人を見る。
「天城理人。」
「必殺技披露、見た。」
「物理魔法のレールガン。」
「面白かった。」
「ありがとう。」
理人は軽く笑う。
「そっちも噂は聞いてる。」
「炎系統の天才だって。」
二人は初対面だった。
しかし、お互いの名前だけは以前から知っていた。
「それでは――」
「試合開始!」
開始と同時に煙道が杖を振る。
「水霧。」
闘技場へ一瞬で濃霧が立ち込める。
視界は数メートル先すら見えない。
観客席からざわめきが起こる。
「まずは目くらましか!」
だが。
煙道はそこで終わらなかった。
「燃えろ。」
霧が赤く染まる。
空気そのものが熱を帯びる。
霧粒が猛烈な熱を持ち始め、闘技場全体が灼熱の空間へ変わっていく。
「灼熱の霧だ!」
「煙道先輩のオリジナル魔法!」
実況が叫ぶ。
「火属性と水属性を融合させ、水の状態変化まで組み込んだ新しい炎魔法!」
理人は足を止めた。
(見えない。)
(……いや。)
静かに魔法を発動する。
「揺場感知。」
魔力が周囲へ広がる。
霧そのものではない。
空間を満たす無数の物質の揺らぎ。
熱で乱れる空気。
床を蹴る振動。
呼吸。
衣服の揺れ。
全てが理人の頭の中で一枚の地図となる。
(いた。)
煙道は左後方。
次の瞬間には右へ回り込む。
その軌道まで見えた。
「そこか。」
理人が振り返る。
煙道は少し驚いた。
「……見えてる?」
理人は答えない。
煙道は笑う。
「なら火力を上げる。」
杖を掲げる。
空気中の水蒸気が急速に分解される。
理人の叡智の瞳が自動的に解析を始めた。
(酸素……。)
(水素……。)
(違う。)
(分解だけじゃない。)
煙道はさらに炎魔法を重ねる。
風魔法。
雷魔法。
複数属性が同時に絡み合う。
炎の色が白く変わった。
(燃焼効率を極限まで高めている。)
(酸素濃度。)
(可燃性気体。)
(空気の流れ。)
(雷による着火。)
(情報量が……。)
理人は思わず息を呑んだ。
(魔力変化だけで普通の魔法十個分はある……!)
まるで巨大な研究論文を一瞬で読まされているようだった。
煙道が右手を握る。
「燃焼渦。」
炎が理人を中心に巨大な竜巻となる。
逃げ場はない。
闘技場全体が赤く染まった。
「決まった!」
観客席が沸く。
しかし。
炎の中から理人はゆっくり歩いて出てきた。
服も。
髪も。
一切燃えていない。
煙道の表情が初めて変わる。
「……何をした。」
理人の左目が青白く光る。
「絶対防御。」
その言葉に観客席が静まり返る。
理人の周囲、半径数メートル。
炎が触れた瞬間、音もなく消えていく。
「消えた!?」
「防御魔法か!?」
「いや、違う!」
解説の教師が立ち上がる。
「あれは普通の防御結界ではありません!」
「侵入した魔法そのものを打ち消している!」
理人の左目は高速で魔法を解析していた。
術式。
魔力構成。
属性比率。
位相。
全てを読み取り、その逆位相の魔力を自動生成する。
炎が触れた瞬間。
相殺。
消滅。
魔法は存在しなかったかのように消えていく。
「まさか……。」
解説者が息を呑む。
「あの防御は……。」
「神話時代、魔王が使用していたとされる古代防御魔法に酷似しています……!」
会場がどよめいた。
「魔王の魔法だって!?」
「初めて見たぞ!」
煙道は驚きながらも冷静だった。
「なら。」
「魔法を増やす。」
炎。
爆炎。
灼熱の霧。
可燃性気体。
風。
雷。
六種類近い術式が同時展開される。
理人の叡智の瞳が限界まで回転する。
(速い。)
(解析が追いつかない……。)
視界に僅かなタイムラグが生まれる。
額から汗が流れる。
それでも。
絶対防御は止まらない。
侵入した魔法だけが次々と消えていく。
煙道は理解した。
(長期戦はまずい。)
最後の勝負に出る。
その瞬間。
理人が杖を握り直した。
「捕らえろ。」
地面に描かれた磁場が変化する。
煙道の杖に含まれる魔鉱石。
腰の金具。
制服の金属製留め具。
全てへ強烈な磁力が働いた。
「しまっ!」
身体が地面へ引き寄せられる。
さらに四方から砂鉄が集まり、鎖のように腕と脚を拘束する。
煙道は炎を放とうとする。
しかし杖を動かせない。
「……参った。」
審判が手を上げる。
「勝者!」
「二年、天城理人!」
闘技場が歓声に包まれた。
煙道は拘束が解かれると苦笑しながら立ち上がる。
「噂以上だった。」
理人も笑って手を差し出す。
「そっちこそ。」
「あんな複雑な魔法、初めて見た。」
二人は固く握手を交わした。
観客席ではなおも興奮が冷めない。
物理魔法の万能型と、炎魔法の天才。
互いの実力を存分に示した一戦は、この大会屈指の名勝負として長く語られることになる。




