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第44話 魔法開発Ⅱ

 二年生選択授業。

 魔法開発。

 今日も各自が新しい魔法の研究を進めていた。

 机には魔法筆と呼ばれるチョーク型の魔導具。

 まずはこれで魔法陣を書き、正常に発動するか確認する。

 成功すれば、今度は杖だけで瞬時に展開できるよう改良していく。

 それが魔法開発の基本手順だった。

 理人も昨日の研究ノートを開く。

(前回は"場"の解釈を広げた。)

(今日はそこから応用だ。)

 その時、教室が少しざわついた。

「おや。」

「随分楽しそうなことをしておるのう。」

 白衣姿の老人がゆっくり入ってくる。

 担当教師が立ち上がった。

「皆さん、本日は特別顧問の先生がお越しくださいました。」

「物理魔法系統の設立者。」

「エイザップ・ニューゴン先生です。」

 一斉に拍手が起こる。

 ニューゴンは照れくさそうに頭を掻いた。

「近くまで来たから寄り道しただけじゃ。」

「気にせず研究を続けてくれ。」

 教室は再び静かになった。

 理人は魔法筆を握る。

 白い魔法陣を机いっぱいに描いていく。

「……場。」

「物質が存在する場所。」

「空間。」

「いや。」

「力。」

「エネルギー。」

「情報……?」

 考え始めると止まらない。

 紙には大量の数式や図が並ぶ。

 十分後。

 二十分後。

 三十分後。

「……。」

 魔法陣は完成していなかった。

 理人は腕を組み、完全に思考の海へ沈んでいる。

(場って何だ。)

(空間とは。)

(そもそも存在とは……。)

「うーむ。」

 いつの間にかニューゴンが後ろに立っていた。

 理人は我に返る。

「先生!」

「君は。」

「変な方向へ瞑想する癖があるようじゃな。」

 教室から小さな笑いが起きた。

 理人は苦笑する。

「よく言われます。」

「なら。」

 ニューゴンは笑った。

「その瞑想を治す魔法を作ればよい。」

「……え?」

「考えすぎるなら。」

「必要な情報だけ拾えばいい。」

 その一言で。

 理人の思考が止まった。

(必要な情報だけ……。)

(全部を見る必要なんてない。)

(見るべきものだけ見ればいい。)

 理人は勢いよくノートへ書き始める。

「場の揺らぎ……。」

「物質は静止して見えても常に微細に揺れている。」

「人が動こうとすれば。」

「筋肉。」

「重心。」

「空気。」

「魔力。」

「全部が先に変化する。」

 理人の手が止まらない。

「つまり。」

「揺らぎを観測すれば。」

「次の行動を予測できる。」

 魔法筆で新しい魔法陣を書く。

 場へ干渉するのではない。

 場を観測する。

 十分後。

 魔法陣が完成した。

「発動。」

 青白い光が広がる。

 世界が少しだけ違って見えた。

 風が流れる。

 砂埃が舞う。

 木の葉が落ちる。

 そして。

 隣で歩いていた生徒の身体の周囲に、僅かな揺らぎが見えた。

(右。)

 次の瞬間。

 その生徒は右へ歩いた。

「……。」

 理人は目を見開く。

「できた。」

 ニューゴンが覗き込む。

「どうじゃ?」

「場に存在する物質の揺らぎを観測します。」

「その変化から次の運動を予測できます。」

「ほう。」

「応用は?」

 理人は少し考えた。

「相手が魔法を発動する前兆。」

「体術で踏み込む方向。」

「危険物の位置。」

「空気の乱れ。」

「幻覚魔法による違和感の検知。」

「隠れている相手の発見。」

「全部いけます。」

 ニューゴンは静かに笑った。

「面白い。」

「物理魔法らしい魔法じゃ。」

「"攻撃する"のではなく。」

「"理解する"ための魔法。」

 理人は新しい魔法陣を見つめる。

 これはまだ完成ではない。

 観測範囲も狭く、魔力消費も大きい。

 それでも。

 確かな一歩だった。

 ニューゴンは教室を出る前に振り返る。

「理人君。」

「はい。」

「良い研究者とは、答えを知っている者ではない。」

「良い問いを思いつける者じゃ。」

 そう言い残し、物理魔法の創始者は軽く手を振って教室を後にした。

 理人は新しい魔法の名前を書き込む。

揺場感知ようばかんち

 場に生じる僅かな揺らぎを読み取り、世界を一歩先に見るための、新たな物理魔法だった。

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