第38話 龍種
古代魔法の授業。
教室へ入ると、黒板には大きく一文字だけ書かれていた。
『龍』
生徒たちは顔を見合わせる。
「先生、ドラゴンですか?」
先生は静かに頷いた。
「正確には違います。」
「今日は龍種について学びます。」
教室の照明が落ち、古い壁画が映し出される。
そこには山よりも巨大な生物が描かれていた。
その一匹が翼を広げるだけで、空が暗くなっている。
「神話時代。」
「この世界には龍種と呼ばれる存在がいました。」
「彼らは魔法を使うのではありません。」
「自然そのものを操る存在でした。」
次々と映像が切り替わる。
火山を噴火させる赤い龍。
津波を巻き起こす蒼い龍。
雷雲を呼ぶ黄金の龍。
暴風を生み出す翠の龍。
大地を隆起させる黒い龍。
「火。」
「水。」
「雷。」
「風。」
「土。」
「それぞれが自然現象そのものを支配していたと伝えられています。」
理人は思わず息をのむ。
「そんな相手……どうやって倒したんですか?」
先生は一枚の絵を映した。
一本の剣を持った人物。
勇者だった。
「神話の勇者です。」
「勇者は龍種を発見すると、目にも留まらぬ速さで討伐したと記録されています。」
教室が静まり返る。
「龍種には通常の物理攻撃は通用しません。」
「魔法でも決定打を与えることは極めて困難でした。」
「ですが。」
先生は勇者の剣を指差す。
「勇者が持つ草薙神剣だけは例外でした。」
「この剣だけが龍種を斬ることができたのです。」
理人は映画で見た剣を思い出す。
(あの剣……。)
先生は神話の年表を映した。
「勇者によって、ほぼすべての龍種は討伐されました。」
「そして。」
年表の最後に三人の名前が現れる。
エボルド・ビルシート
ジェニス・エレスト
ムンドゥ・リスグラージュ
「勇者が見逃した、ごく少数の弱い龍種は、この三人によって討伐されました。」
「これをもって、龍種は絶滅したとされています。」
生徒の一人が手を挙げる。
「じゃあ、今いるドラゴンは何なんですか?」
先生は首を横に振った。
「皆さんが知っている竜は竜種です。」
黒板へ二つの文字を書く。
龍種
竜種
「似ていますが、全く別の存在です。」
「現在の竜種は、龍種の血が他種族へ受け継がれたことで誕生した生物だと考えられています。」
「つまり。」
「龍種そのものではありません。」
「龍の遺伝子を一部受け継いだ子孫です。」
理人はノートへ大きく書き込む。
『龍種=絶滅』
『竜種=現存』
先生は教科書を閉じる。
「龍種が本当に絶滅したのか。」
「それを証明する術はありません。」
「ですが現在まで、生存を示す確かな証拠は一つも見つかっていません。」
授業終了の鐘が鳴る。
教室を出ながら理人は空を見上げた。
雲一つない青空。
かつてこの空を、世界を揺るがす龍たちが飛んでいた。
そんな時代が、本当にあったのだろうか。
神話は遠い過去の物語。
しかし、その痕跡は今もなお、この世界の至るところに残り続けていた。




