第35話 固有能力
魔法生物学(応用)。
教室へ入ると、黒板には大きく一つの言葉が書かれていた。
『固有能力』
教室中がざわつく。
「今日はいよいよ、魔法生物学最大の謎について学びます。」
先生は静かに口を開いた。
「皆さんは、固有能力という言葉を知っていますか。」
何人かが頷く。
「一人につき、一つだけ。」
「人知を超えた能力。」
「それが固有能力です。」
黒板に人体の模式図が映し出される。
先生は遺伝子のような二重らせんを指した。
「現在の研究では、固有能力の情報はMPRNAの中へ保存されていると考えられています。」
理人はノートを取る。
「能力は人によって全く異なります。」
「ですが似た性質を持つ能力は、一つの系統として分類されます。」
「能力名は本人が決めるわけではありません。」
「能力の内容を確認した後、役所が正式名称を登録します。」
「役所が決めるんですか。」
「ええ。」
「その方が混乱しませんから。」
先生は次の図を映した。
MPRNAの一部には、鍵のような印が描かれている。
「では質問です。」
「なぜ赤ちゃんは固有能力を使えないのでしょう。」
誰も答えられない。
「理由は、このタンパク質です。」
黒板へ名前が書かれる。
MPヘリカナーゼ
「このタンパク質がMPRNAを遺伝子ロック状態にしています。」
「つまり、生まれたばかりの人間は能力が発現しないよう制御されているのです。」
理人が手を挙げる。
「それはどうしてですか?」
「現在最も有力なのは、母体を守るために進化したという説です。」
「もし胎児の段階で固有能力が暴走すれば、母子ともに危険になります。」
「そのため、人類は能力を眠らせた状態で生まれるよう進化したと考えられています。」
教室は静まり返った。
「では能力は一生目覚めないのでしょうか。」
先生は首を振る。
「いいえ。」
「放置していても、いつか自然発現する可能性があります。」
「ですが。」
「突然能力が目覚めれば、大事故になる危険があります。」
スクリーンに神殿の映像が映る。
「そのため学院卒業時。」
「成人の儀において、巫女が神聖魔法で能力を安全に解放します。」
「それが現在最も安全な方法です。」
理人は少し安心した表情を浮かべた。
「じゃあ、自分の能力も卒業まで分からないんですね。」
「基本的には、その通りです。」
先生は少し表情を引き締める。
「現在確認されている固有能力の中には。」
「現代物理学では再現できない現象も数多く存在します。」
「高次元空間への干渉。」
「概念への作用。」
「因果に関係すると考えられる能力。」
「どれも理論化には成功していません。」
理人は驚きながら呟く。
「魔法でも説明できない能力……。」
先生は黒板へ最後の一文を書いた。
『能力は先天的。魔法は後天的。』
「これは研究者の間でよく言われる言葉です。」
「魔法は努力すれば誰でも学べます。」
「ですが固有能力だけは、生まれ持ったもの。」
「同じ能力は二つとありません。」
授業終了の鐘が鳴る。
理人は窓の外を見つめながら考える。
(俺には、どんな能力が眠っているんだろう。)
その答えを知る日は、まだ少し先だった。




