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第34話 飛行魔法

 二年生最初の実技授業。

 場所は学園の飛行訓練場だった。

 広大な草原に集まった生徒たちの前へ、一人の男が現れる。

「本日の特別講師を務めます。」

「レフトです。」

 穏やかな笑みを浮かべた教師に、生徒たちは一斉に頭を下げた。

「飛行魔法の開発者だ。」

「本物だ……。」

 理人も少し驚く。

 教科書でしか見たことのない人物だった。

 レフト先生は全員の魔道具を見渡した。

「皆さん、無事に完成しましたね。」

「実は、その魔道具には私が開発した術式が最初から組み込まれています。」

 先生は一本の杖を掲げる。

「傷のように見えるこの模様。」

「ただの装飾ではありません。」

 近づいて見ると、細かな線が複雑につながっていた。

「これらは現代魔法の術式です。」

「飛行魔法だけではありません。」

「簡易結界。」

「魔力制御。」

「緊急停止。」

「その他、即時発動できる基本魔法が術式として刻まれています。」

 理人は自分の薙刀を見つめる。

 青い刃の付け根から柄にかけて、無数の紋様が走っていた。

(これ全部術式だったのか。)

 先生は黒板代わりの魔法スクリーンへ図を映し出した。

「では飛行魔法の原理を説明します。」

 空中に一つの矢印を書く。

「飛ぶ理由は単純です。」

「空気を下へ押し出す。」

「その反作用で、自分の身体が上へ浮かび上がります。」

「考え方は作用・反作用に近いものです。」

 生徒たちは頷きながらメモを取る。

「では質問。」

「飛び続けられる理由は?」

 一人の生徒が答える。

「魔力です。」

「半分正解。」

 レフト先生は一粒の魔鉱石を取り出した。

「魔鉱石には、ごく微量ですが**mPtマリョプラチナ**という鉱物が含まれています。」

 理人は初めて聞く名前だった。

「このmPtは非常に優秀な触媒です。」

「空気中に存在するMDPをMTPへ変換する際、その反応を助けます。」

 先生は模式図を映す。

空中のMDP

    ↓(mPt:触媒)

MTPへ変換

    ↓

魔鉱石へ蓄積

「つまり。」

「魔鉱石は少しずつ周囲から魔力を蓄えることができるのです。」

「だから通常使用では簡単に魔力切れを起こしません。」

「もちろん。」

「大量の魔力を一度に使えば、一時的に枯渇します。」

「ですが時間を置けば自然に回復します。」

 理人は自分の薙刀を軽く握る。

 刃は付いている。

 しかし本質は武器ではない。

(これは……。)

(杖なんだ。)

 先端に刃が付いているだけで、役割の大半は魔法の杖と同じ。

 空中へ魔法陣を描き、魔法を発動するための道具。

 そう考えると、今まで以上にしっくりきた。

「それでは実技です。」

 レフト先生が杖を一振りする。

 ふわり、と身体が宙へ浮かんだ。

「飛行魔法、起動。」

 先生は静かに空中を滑るように飛び回る。

「すごい……。」

「鳥みたい。」

 生徒たちから歓声が上がる。

「では皆さんも。」

 理人は薙刀を構え、柄に刻まれた飛行術式へ魔力を流した。

 術式が淡く青く輝く。

 足元の空気が押し出される感覚。

 次の瞬間。

 身体がゆっくりと地面を離れた。

「浮いた……。」

 少しふらつきながらも、高さ一メートルほどで静止する。

 周囲を見ると、他の生徒たちも歓声を上げながら次々と空へ浮かんでいた。

 理人は青空を見上げる。

「空を飛ぶって……。」

 思わず笑みがこぼれる。

「こんなに気持ちいいんだ。」

 こうして二年生の新たな実習、飛行魔法の訓練が始まった。

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