第32話 加工作業
翌週。
魔道具工房には、採取してきた魔鉱石が机の上へ並べられていた。
「今日は加工実習です。」
先生は一つの魔鉱石を手に取る。
「加工を始める前に、魔鉱石について復習しましょう。」
黒板へ文字が書かれる。
『魔鉱石とは、魔物が死亡した際に残る魔砂が、長い年月をかけて変化した鉱石である。』
「魔砂だけでは魔道具の材料には向きません。」
「しかし。」
次の文章を書く。
『魔鉱石はダンジョン近くの地熱によって接触変成作用を受け、内部のMTP(Magic Transfer Particle)が高濃度に濃縮される。』
「そのため魔砂よりも魔力伝達効率が高く、魔法陣や魔道具の触媒として広く利用されています。」
生徒たちはメモを取る。
先生はさらに二種類の鉱石を机へ置いた。
「魔鉱石には大きく二種類あります。」
左側を指差す。
魔岩
「こちらが一般的な魔鉱石です。」
「強度が高く加工しやすい。」
「皆さんが採ってきたほとんどがこれです。」
次に右側。
少し透明感のある青い鉱石だった。
片魔岩
「こちらは非常に珍しい種類です。」
教室がざわつく。
「一方向からの衝撃に極端に弱く、少しの力でも割れてしまいます。」
「性質としてはダイヤモンドに近いですね。」
「ですが。」
先生は少し笑った。
「欠点だけではありません。」
「魔力伝達効率は魔岩を大きく上回ります。」
「さらに。」
「複数属性の魔法を同時に扱う際の干渉が非常に少ない。」
「つまり、高性能な魔道具を作るなら理想的な素材です。」
理人は自分のリュックから、昨日採取した青い魔鉱石を取り出した。
先生はそれを見るなり目を見開く。
「……天城。」
「はい?」
「君、その鉱石をどこで採った?」
「採掘場の少し奥です。」
先生は鉱石を手に取り、光へかざす。
内部には一方向へ伸びる美しい結晶構造が見えていた。
「間違いない。」
「これは片魔岩だ。」
「え?」
教室中の視線が集まる。
「そんな珍しい物だったんですか?」
「非常に珍しい。」
「市場へ出ること自体ほとんどありません。」
理人は驚いた表情で鉱石を見つめた。
「だからあんなに魔力が強かったのか……。」
先生は続ける。
「ちなみに。」
「魔鉱石の色は性能を表しているわけではありません。」
黒板へ色と矢印を書く。
「色は、冷える速さ。」
「生成された場所。」
「そして元となった魔物の種類。」
「これらによって決まります。」
「赤も青も緑も黒も存在します。」
「色だけでは品質は判断できません。」
理人は慎重に片魔岩を加工台へ置く。
(割れやすい……。)
(でも魔力効率は最高。)
魔法筆を握る手にも自然と力が入る。
これはただの材料ではない。
これから何年も共に戦う、自分だけの魔道具になる。
理人は深呼吸すると、ゆっくりと最初の加工を始めた。
誰よりも慎重に。
誰よりも丁寧に。
青く輝く片魔岩は、静かにその姿を変え始めていた。




