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第30話 物理魔法

 翌週。

 魔法開発の授業が始まる。

 先生は黒板に大きく新しい言葉を書いた。

『物理魔法』

 教室がざわつく。

「今日から新しい魔法系統を紹介します。」

「これは近年になって体系化された魔法です。」

 先生は教科書を開く。

「提唱者は、魔法物理学の第一人者――」

エイザップ・ニューゴン

「先生です。」

 理人は思わず身を乗り出した。

「物理魔法とは。」

「物理現象を強化・誘発・支配する魔法系統。」

 先生は続ける。

「炎や氷を直接作るのではありません。」

「世界に元々存在する物理現象へ魔法で干渉する。」

「それが物理魔法です。」

 先生は理人を見る。

「実は天城。」

「君が前回開発した魔法も、この系統に分類される。」

「え?」

「レールガン魔法だ。」

「磁場を作り、ローレンツ力で物体を加速させる。」

「まさしく物理魔法の考え方そのものだ。」

 教室がざわつく。

「天城、もう作ってたのか。」

「本人も気づいてなかったのかよ。」

 授業後。

 理人は一人、魔法開発室へ向かった。

(物理魔法……。)

(もっと応用できるはず。)

 参考書を開く。

 最初のページには一文だけ書かれていた。

『物理魔法の基本は"場"を理解すること。』

「場……。」

 電場。

 磁場。

 重力場。

 量子場。

 目には見えないが、空間全体に広がるもの。

 理人はノートを開き、思いつく限りの現象を書き出していく。

・ニュートリノ

・量子のもつれ

・反物質

・真空ゆらぎ

・重力波

 しかし。

「どれも使い方が分からない……。」

 現代物理でも完全には解明されていないものばかりだった。

 理人はペンを止める。

「……量子のもつれ。」

 二つの粒子が、どれだけ離れていても一つの状態として振る舞う現象。

「もし魔法でこれを扱えるなら……。」

 理人は目を閉じる。

 叡智の瞳を発動。

 無数の数式が頭の中を流れていく。

 電場。

 磁場。

 重力場。

 そして量子場。

 考え続ける。

 数時間。

 日が暮れても理人は動かなかった。

 やがて。

「……そうか。」

 理人はゆっくり目を開ける。

「場って、電場や磁場だけじゃない。」

「世界そのものが、一つの巨大な"場"なんだ。」

 その瞬間。

 景色が変わった。

 教室。

 机。

 壁。

 空気。

 人。

 すべてが無数の「場」の重なりとして見え始める。

 風の流れ。

 魔力の流れ。

 電磁場。

 重力。

 それらが一枚の巨大な地図のように視界へ映った。

 理人は息をのむ。

「見える……。」

「世界が。」

 まだ魔法にはできない。

 だが、「場」の解釈は確かに広がった。

 物理魔法はまだ始まったばかり。

 そして天城理人は、その誰も踏み込んだことのない領域へ、静かに一歩足を踏み入れた。

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