第3話 基本的人権
王都アスフェルダムに到着した翌日。
天城理人は、冒険者ギルドの休憩室で目を覚ました。
「……夢じゃないんだよな」
昨日から何度も確認している。
頬をつねる。
痛い。
「夢ならもう少し楽しい展開になってほしかった」
異世界転移。
魔法。
知らない世界。
普通ならもっと興奮する場面なのかもしれない。
しかし理人が今一番気にしていることは――
「金がない」
だった。
財布を見る。
中身。
日本円。
数枚の硬貨。
異世界では当然使えない。
「異世界転移した人って、最初どうやって生活してるんだ……?」
漫画や小説なら、なぜか能力をもらって無双したり、すぐ仲間ができたりする。
でも現実は違う。
家がない。
仕事がない。
身分証もない。
食べ物を買う金もない。
「……詰んでない?」
理人は真剣に考えた。
そんな理人を見かねた冒険者が声をかけた。
「少年、今日は役所に行った方がいい」
「役所?」
「ああ。身元不明者の登録だ」
この世界では、異世界から来た人間は珍しくないらしい。
魔法事故。
召喚事故。
未知の転移現象。
原因は様々だが、突然現れる人間は一定数いる。
そのため王都には、そういう人間を保護する制度があった。
「最低限の生活は保障される」
「そんな制度あるんですか?」
理人は驚いた。
「この国では、国民が生きる権利を持っているからな」
役所。
正式名称は王都生活管理局。
理人は受付の前に座っていた。
職員が書類を見る。
「名前は?」
「天城理人です」
「出身地は?」
「日本……」
「日本?」
職員が首を傾げる。
「あー……遠い国です」
理人は慌てて誤魔化した。
異世界から来たなんて言っても、説明できる気がしない。
職員は少し考えたあと、記録を書く。
「出身地不明」
「魔法適性は?」
「……分かりません」
「使ったことは?」
「ないです」
職員は少し驚いた。
「魔法適性を確認していない?」
「はい」
「珍しいな」
検査の結果。
理人には魔法適性があることが分かった。
ただし。
「魔力量は平均以下ですね」
「ですよね」
理人は納得した。
異世界に来て最強能力。
そんな都合のいい話はないらしい。
しかし。
「ただ、魔法構造解析能力が異常に高いです」
職員が首を傾げる。
「何ですか、それ」
「こちらでも珍しい能力です」
理人本人は気づいていなかった。
自分が魔法を見ると、自然と仕組みを理解しようとしてしまうことを。
そして、生活支援の説明を受ける。
「住居については一時住宅を提供します」
「ありがとうございます」
「食費についても最低限の生活支援があります」
「本当に?」
理人は少し感動した。
異世界。
魔法。
未知の文明。
もっと弱肉強食の世界だと思っていた。
しかし、ここには制度がある。
困った人間を助ける仕組みがある。
さらに職員は言った。
「あなたには義務魔法学院への入学をおすすめします」
「魔法学院?」
「この国では、魔法を扱うための基礎教育が義務になっています」
理人は少し嫌な予感がした。
「学校……」
日本でも学校。
異世界でも学校。
「また勉強か……」
思わず呟く。
職員が笑う。
「嫌ですか?」
「いや、嫌というか……」
理人は正直に答える。
「勉強自体は苦手なので」
職員は少し驚いた。
「あなた、魔法解析能力が高いのに?」
「暗記が苦手なんです」
「……珍しい人ですね」
こうして。
天城理人は異世界での生活基盤を手に入れた。
家。
食事。
教育。
最低限の生活。
魔法文明の中心である王都アスフェルダム。
そこで理人は、初めて魔法というものを学ぶことになる。
しかし、本人はまだ知らない。
この世界の魔法理論を根本から変える存在になることを。
今の理人の最大の悩みは――
「魔法学院って制服あるのかな……」
だった。




