第28話 魔法生物学(応用)
教室へ入ると、黒板には大きくこう書かれていた。
『なぜ植物魔法は存在しないのか』
「今日は魔法生物学(応用)です。」
担当教師は一輪の花を机の上へ置く。
「まず結論から言います。」
「現在の魔法では、生物を創り出すことはできません。」
教室が静まり返る。
「火、水、風、岩。」
「これらは魔法で生み出せます。」
「ですが、生きた植物や動物は作れません。」
黒板に二つの文字を書く。
無機物 〇
生物 ✕
「理由は分かっていません。」
「魔法理論最大の謎の一つです。」
生徒が手を挙げる。
「植物魔法って聞いたことありません。」
「ありません。」
先生は即答した。
「植物を操る魔法も存在しません。」
「既に生えている植物を動かすことも、種を一瞬で成長させることも、現在確認されていません。」
理人は少し考え込む。
(でも……。)
やがて手を挙げた。
「先生。」
「去年の魔法大祭で植物魔法を見ました。」
「花が一瞬で咲いて、木まで生えていました。」
教室がざわつく。
先生は微笑んだ。
「あれですね。」
「あれは植物魔法ではありません。」
「え?」
「幻覚魔法の応用です。」
黒板に「幻覚魔法」と書く。
「観客全員に植物が生えたように認識させる演出。」
「本物ではありません。」
「近くで触れば何もありません。」
理人は納得した。
(だから違和感があったのか。)
「魔法大祭では、見栄えを重視してそのような演出がよく使われます。」
先生は一冊の古びた本を取り出した。
革表紙はひび割れ、文字もところどころ消えている。
「ただし。」
「例外があります。」
教室中が身を乗り出した。
「古代文献には。」
『生命を創る魔法』
という記述が存在します。」
理人の目が大きく開く。
「本当にあったんですか?」
「分かりません。」
先生は首を横に振る。
「神話時代の文献です。」
「しかも断片しか残っていません。」
「再現にも成功していません。」
ページを開く。
そこには巨大な魔法陣と、植物らしき絵だけが描かれていた。
「この魔法陣も未解読です。」
「現代魔法とは構造がまったく違います。」
生徒の一人が尋ねる。
「つまり伝説ってことですか?」
「そう考える学者もいます。」
「一方で、本当に存在したと考える学者もいます。」
「証拠が足りない以上、どちらとも言えません。」
授業終了の鐘が鳴る。
理人は教科書を閉じながら、小さく呟いた。
「魔法でも作れないものがある……。」
生命だけは、今なお誰にも再現できない。
それは現代魔法が越えられない、最後の壁なのかもしれなかった。




