第25話 忘年会
十二月。
校舎の窓には雪がちらつき、魔法学園にも冬が訪れていた。
終業式を翌日に控えた放課後。
担任の先生が教壇を叩く。
「さて諸君。」
「一年間、お疲れさまでした。」
教室から拍手が起こる。
「ということで。」
一拍置いて笑顔になる。
「今日はクリスマス会兼忘年会をやります!」
「おおおお!!」
教室中が歓声に包まれた。
机は教室の端へ寄せられ、大きな輪ができる。
料理研究部が作ったローストチキンやケーキ、果物、ジュースが並び、普段は厳しい先生たちも今日は少しだけ表情が柔らかい。
神崎先輩は後輩たちとカードゲーム。
石破先輩は大皿の唐揚げを抱えて幸せそうに食べていた。
「うまっ!」
「先輩、それ三人前です。」
「気にするな!」
教室は笑いに包まれる。
先生が手を叩く。
「せっかくだ。」
「何か一発芸や特技がある人は前へ!」
数人が手品や演奏を披露し、拍手が起こる。
その時だった。
「先生。」
理人が手を挙げた。
「俺もやっていいですか?」
「もちろん。」
理人は教室の中央へ出る。
荷物から一本の白い魔法筆を取り出した。
「何するんだ?」
「魔法陣?」
「攻撃魔法じゃないよな?」
理人は床へしゃがみ込み、さらさらと魔法陣を描き始める。
幾何学模様。
細かな文字。
幾重にも重なる円。
「ずいぶん複雑だな……。」
「見たことない。」
十分ほどで完成した。
理人は小瓶を数本取り出す。
「それ何?」
「金属塩。」
理人は笑う。
「炎色反応っていう現象を使う。」
「えん……?」
誰も知らない単語だった。
「炎の色は、混ぜる物質で変わるんだ。」
小瓶の粉末を魔法陣へ少しずつ振りかける。
「それじゃ。」
指を鳴らす。
「点火。」
小さな炎魔法が魔法陣へ流れ込む。
ボッ。
次の瞬間。
赤。
青。
緑。
紫。
黄金色。
色とりどりの炎が教室いっぱいに咲いた。
「「「おおおおお!!」」」
炎は爆発することなく、夜空の花のように広がる。
青い光が雪のように舞い、
赤い火花が流れ、
金色の粒がゆっくりと消えていく。
まるで花火だった。
誰も言葉を発せない。
理人は魔法陣を少し書き換える。
すると今度は、
パァン!
小さな光の輪が何重にも重なり、
星空のような模様が教室いっぱいに広がった。
最後に純白の光がゆっくり降り注ぐ。
拍手。
教室中が立ち上がる。
「すげぇ!!」
「初めて見た!」
「こんな魔法あったの!?」
先生まで拍手していた。
「いや……魔法というより芸術だな。」
神崎先輩が魔法陣を覗き込む。
「これ、攻撃力は?」
「ゼロです。」
「防御は?」
「ありません。」
「実用性。」
「ほぼゼロです。」
一瞬静まり返り、
教室中が大笑いした。
「じゃあ何のために作った!」
理人は少し照れくさそうに笑う。
「綺麗だから。」
その一言で空気が変わる。
ニューゴン先生が静かに頷いた。
「それで十分だ。」
「魔法は戦うためだけのものではない。」
「人を楽しませ、感動させる。」
「それも立派な魔法だ。」
理人は少し驚いた表情を見せる。
「この世界では、炎色反応を利用した魔法はほとんど研究されていない。」
「実用性がないからな。」
「だが。」
「今日、この教室にいる全員の記憶には残るだろう。」
教室は再び大きな拍手に包まれた。
その後もゲームやプレゼント交換で盛り上がり、笑い声は夜まで絶えなかった。
こうして天城理人の一年目は、多くの仲間と笑顔に囲まれながら幕を閉じる。
戦いも、勉強も、失敗もあった一年。
だが、それ以上に――。
「楽しかった。」
理人は窓の外に降る雪を眺めながら、小さくそう呟いた。




