第24話 魔法物理学
翌日。
理人たち一年生は講義室へ集められていた。
「今日は特別授業です。」
担任が黒板に名前を書く。
エイザップ・ニューゴン
その名前を見た瞬間、教室がざわついた。
「えっ、本物?」
「魔法物理学の第一人者だぞ。」
「教科書を書いた人じゃん。」
ガラガラ。
扉が開く。
白衣を着た白髪の老人がゆっくり入ってきた。
「おはようございます。」
見た目は普通のおじいちゃん。
だが、その瞳だけは鋭かった。
「私はエイザップ・ニューゴン。」
「今日は魔法と物理学について話そう。」
理人は少し身を乗り出した。
(魔法を科学で説明する授業か……面白そうだ。)
ニューゴンは黒板に二つの円を書く。
一つには「物理学」。
もう一つには「魔法」。
二つは少しだけ重なっていた。
「諸君。」
「まず現在、世界中で最も議論されている問題。」
黒板に大きく書く。
『統合理論』
『分化理論』
「統合理論とは。」
『魔法は物理法則をまだ理解できていないだけで、将来的には科学で説明できる。』
「という考え方だ。」
教室の半分ほどが頷く。
「一方。」
『分化理論』
「こちらは。」
『魔法は物理とは完全に別の法則で動いている。』
「という考え方。」
理人が手を挙げる。
「先生。」
「現時点ではどちらなんですか?」
ニューゴンは笑った。
「分からない。」
教室が静まり返る。
「これが現在の答えだ。」
「証拠が足りない。」
「物理学で説明できる魔法もある。」
「逆に。」
「どう考えても説明できない魔法も存在する。」
黒板に火球を描く。
「例えば火球。」
「空気中のエネルギーを集めて火を作っているなら物理学で説明可能かもしれない。」
今度は回復魔法。
「しかし、失われた細胞を一瞬で修復する。」
「これを現在の物理学だけで説明することは極めて難しい。」
理人は真剣に聞いていた。
ニューゴンはさらに続ける。
「では。」
「物理学の限界とは何か。」
黒板いっぱいに式を書く。
「物理学は『どう動くか』を説明する学問だ。」
「しかし。」
「なぜ宇宙定数がその値なのか。
なぜ物理法則そのものが存在するのか。
そこまでは説明できない。」
理人は思わず頷く。
ニューゴンは今度は魔法陣を描く。
「では魔法の限界。」
「魔法はイメージによって現象を起こせる。」
「だが。」
「魔力が足りなければ発動しない。
理解していない現象は再現できない。
世界の根本法則そのものを書き換えることはできない。」
生徒が質問する。
「つまり魔法にも限界があるんですか?」
「もちろん。」
「万能ではない。」
「世界には魔法でも触れられない領域がある。」
教室が静まり返る。
ニューゴンは二つの円を指した。
「共通点もある。」
「どちらも。」
『分からないことがある。』
『観測し続ける必要がある。』
『新しい発見で常識が変わる。』
「つまり。」
「どちらも完成していない学問だ。」
理人の目が輝く。
(魔法も科学も同じなんだ。)
(知らないことを知ろうとする学問。)
ニューゴンは最後に黒板へ一文だけ書いた。
『魔法を否定する科学者は二流。科学を否定する魔法使いも二流。』
「一流は。」
「両方を学ぶ。」
「どちらが正しいかではない。」
「どこまで説明できるかを考える。」
教室は静まり返っていた。
理人は心の中で呟く。
(この人……すごい。)
授業終了の鐘が鳴る。
帰り際、ニューゴンは理人の前で立ち止まった。
「君。」
「科学が好きだね。」
「はい。」
「その目。」
「『常識を疑う目』をしている。」
老人は静かに笑った。
「その目は、大切にしなさい。」
理人は深く一礼した。
この日。
彼は魔法だけではなく、「学問とは何か」を初めて知ったのだった。




