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第23話 肝試し

 夏休み直前。

 魔法学園では毎年恒例の行事、「肝試し大会」が開かれる。

 舞台は夜の校舎。

 普段は明るい廊下も、明かりが消えるだけでまるで別世界だった。

「今年も先輩たちが本気らしいぞ。」

「去年なんて三人失神したらしい。」

「爆発魔法は禁止になったんじゃ……?」

「今年は小規模ならOKだって。」

 そんな物騒な会話を聞きながら、一年生たちは校門前に集まっていた。

 天城理人は首を傾げる。

「肝試しって普通に歩くだけじゃないのか?」

 周囲が一斉に振り向く。

「え?」

「天城……初めて?」

「あ、そうか。転生者だから魔法中学通ってないんだった。」

「毎年こんなのやってるのか?」

「うん。」

「先輩たちが一年かけて『人を驚かせる魔法』を開発する祭りみたいなもの。」

「……なんだその文化。」

 説明を聞けば聞くほど意味が分からない。

 だが、一つだけ分かったことがある。

 普通の肝試しではない。

 魔法による本気のホラーイベントなのだ。

 スタート。

 天城たちは懐中電灯一つで校舎へ入る。

 ギィ……

 誰もいないはずの廊下に足音だけが響く。

「静かだな……」

 その瞬間。

 ポン。

「うわっ!」

 誰かに肩を叩かれた。

 勢いよく振り返る。

 誰もいない。

「透過魔法か。」

 透明になった先輩が笑いを堪えている気配だけがした。

「くそっ……。」

 歩き始める。

 ――ふぅ……

 耳元に冷たい風。

「ひっ!」

 思わず肩をすくめる。

 耳元限定で風を送る生活魔法。

 単純だが異様に怖い。

「これは反則だろ……。」

 その時。

「理人。」

「ん?」

 横を歩いていたクラスメイトが突然消えた。

「……え?」

 隣にいたはずなのに誰もいない。

「どこ行った?」

 数秒後。

「ぶはっ!」

 机の下から本人が飛び出してきた。

「うわああああ!!」

 天城が飛び上がる。

「消える魔法で隠れてた!」

「そういうことするな!」

 周囲から笑い声が響く。

「天城、反応いいな。」

「新人だからな。」

 さらに進む。

 視聴覚室。

 古いテレビだけが置かれている。

「絶対嫌な予感しかしない。」

 画面が突然点灯。

 ザー……

 ノイズ。

 するとテレビ画面から腕が伸びた。

「…………。」

 腕はそのまま人の形になり、

 白いローブ姿の先輩がテレビからゆっくり這い出してきた。

「こんばんは。」

「ぎゃあああああ!!」

 天城は本気で叫びながら後退する。

 空間魔法を応用し、画面の向こうと教室を繋げていたらしい。

「今のずるい!」

「毎年人気ランキング一位の演出だ。」

 心臓がまだ速い。

「魔法ってこういう使い方するのか……。」

 安心した、その瞬間。

 ぬるっ。

「……?」

 頭に何かが乗った。

 恐る恐る触る。

「…………わかめ?」

 頭の上から大量のわかめが垂れ下がっていた。

「なんで!?」

 廊下の天井裏から先輩たちの笑い声。

「成功!」

「わかめ召喚魔法!」

「誰が開発したんだこんなの!」

「三年の食品魔法研究会!」

「方向性がおかしい!」

 わかめを払い落とした直後。

 ドォォォン!!

 校舎の端で爆発。

「うわあああ!!」

「安心してください!」

 放送が流れる。

『演出用爆発です。建物への被害はありません。』

「安心できるか!!」

 全員がツッコむ。

 そして最後の教室。

 そこには神崎先輩と石破先輩が待っていた。

「よう。」

「最後のお出迎えだ。」

 二人が同時に魔法陣を展開。

 教室全体が真っ暗になる。

 足元が消える。

 壁が歪む。

 床が傾く。

 無数の足音だけが近づいてくる。

「……っ。」

 天城は汗を流す。

 五感を惑わす高度な幻覚魔法。

 何も見えない。

 何も分からない。

 その時。

 耳元で。

「後ろ。」

「うわあああああああ!!」

 天城は反射的に飛び上がり、思い切り振り返る。

 そこにはニヤニヤ笑う神崎先輩。

 石破先輩は腹を抱えて笑っていた。

「完全に引っかかったな。」

「今年一番いい悲鳴だった。」

 天城は息を切らしながら壁にもたれかかる。

「魔法って……。」

 肩で息をしながら苦笑した。

「人を助けるためだけじゃなくて、人を全力で驚かせるためにも進化するんだな……。」

 その一言で教室中が爆笑に包まれた。

 こうして天城理人、人生初の魔法学園肝試しは、先輩たちの圧勝で幕を閉じた。

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