第21話 魔法補習
中間試験の返却日。教室には歓声と悲鳴が入り混じっていた。
「やった! 90点!」
「赤点だぁ……。」
理人も答案を受け取る。
魔法理論、魔法工学、物質学は高得点。しかし結果は予想通りだった。
「基礎教養……31点。」
「魔法史……27点。」
「天城、補習決定な。」
教師が苦笑いしながら言う。
「はい。」
理人は特に落ち込んだ様子もなく立ち上がった。
学院には少し変わった教育方針がある。
『苦手を平均まで伸ばすより、得意を極限まで伸ばす。』
そのため、赤点を取った生徒でも一律に座学だけをやらされるわけではない。
教師は補習内容を読み上げる。
「天城理人。」
「魔法開発補習へ。」
「了解です。」
理人は研究棟へ向かった。
研究室には数人の教師と教授がいた。
「天城、お前には新しい魔法を作ってもらう。」
「実戦を想定した研究だ。」
机の上には大量の魔法式、古代文字、現代魔法の理論書が並んでいた。
教授が尋ねる。
「まず決めろ。」
「現代魔法を基盤にするか。」
「それとも古代魔法か。」
理人は資料を読み始める。
現代魔法。
魔法陣、あるいは詠唱によってその場で発動する現在最も一般的な魔法体系。
発動までが速く応用性も高い。
一方、古代魔法。
発動時に膨大な術式を書き込み、条件だけを設定しておく。
一度完成すれば普段は一切反応せず、指定した条件が揃った瞬間だけ自動的に発動する。
「……。」
理人は襲撃事件を思い出していた。
黒い魔物。
防御魔法を紙のように貫いた爪。
左目を失ったあの瞬間。
(あの時、詠唱している暇なんてなかった。)
理人は迷わず答える。
「古代魔法です。」
教授が頷く。
「理由は?」
「現代魔法は発動までに必ず一瞬の隙があります。」
「でも古代魔法なら条件さえ満たせば自動で動く。」
「防御なら、その方が向いています。」
教授は満足そうに笑った。
「正解だ。」
理人は白紙へ設計を書き始める。
「今の戦闘は一撃必殺が主流。」
「魔力量。」
「魔力圧縮。」
「奇襲。」
「先に当てた方が勝つ。」
だからこそ。
「防御も一撃で間に合う必要がある。」
理人が考えた答えは、防ぐことではなかった。
「……消せばいい。」
教授が眉を上げる。
「ほう?」
「飛んでくる魔法を防ぐんじゃない。」
「魔法そのものを分解する。」
研究室が静まり返る。
「術式を解析して。」
「魔力構造を崩して。」
「ただの魔力へ戻す。」
教授が腕を組む。
「理論上は可能だ。」
「だが無理だ。」
「炎、水、雷、風、土、光、闇、召喚、強化……。」
「魔法は全部構造が違う。」
「一つ分解できても、別の魔法には通用しない。」
理人は左目へ手を当てる。
眼帯を外した。
叡智の瞳が淡く輝く。
「だったら。」
「全部覚えます。」
その日から理人の研究が始まった。
炎魔法。
水魔法。
雷魔法。
風魔法。
土魔法。
光魔法。
闇魔法。
強化魔法。
拘束魔法。
治癒魔法。
教師たちは毎日のように魔法を放つ。
理人はそれを見続けた。
叡智の瞳には、魔法が発動する瞬間の術式がすべて映し出される。
魔力がどこを流れ、どこで圧縮され、どの順番で属性へ変換されるのか。
今まで見えなかった情報が、まるで設計図のように頭へ流れ込んでくる。
「これが炎。」
「この部分を崩せば燃焼が止まる。」
「雷はここ。」
「水はこの魔力循環。」
理人はひたすら書き続けた。
紙が山になる。
術式が何百枚も積み上がる。
昼も夜も研究は終わらない。
数週間後。
研究室の床一面を埋め尽くすほどの巨大な術式が完成した。
無数の古代文字。
幾何学模様。
現代魔法の分解式。
属性ごとの解析結果。
それらすべてを1つへ統合した超巨大術式。
教授は息を呑んだ。
「こんな規模の古代魔法は見たことがない……。」
理人は最後の古代文字を書き終える。
「条件設定。」
「自身を中心とする一定領域へ侵入した魔法を、自動で解析・分解する。」
術式全体が青白く輝いた。
しかし、その魔法はまだ完成ではなかった。
理論は完成した。
だが、本当にすべての魔法を分解できるのか。
その答えは、実戦でしか証明できない。




