第19話 実技演習
襲撃事件から数日。
学院では新たな教育方針に基づき、実技演習が始まっていた。
今日の課題はシンプルだ。
「本日の演習内容。」
教師が闘技場中央を指差す。
「中級ゴーレムを1人で撃破せよ。」
地面が揺れる。
演習場の中央から、高さ3メートルほどの岩の巨人が姿を現した。
全身を硬い岩石で覆われた中級ゴーレム。
防御力が高く、生半可な攻撃では傷一つ付かない。
「では、最初。」
「天城理人。」
「はい。」
理人は静かに前へ出る。
そして。
眼帯へ手を伸ばした。
ゆっくり外す。
左目には、マリーから受け継いだ瞳が静かに輝いていた。
「……。」
深く息を吸う。
魔力を練り始めた、その瞬間だった。
「っ……!」
視界が揺れる。
世界が急に細かく見え始めた。
空気。
砂埃。
流れる魔力。
すべてが今までとは違って見える。
「なんだ……これ。」
ゴーレムを見る。
すると胸の中心に、小さな光が見えた。
(あれは……。)
教師は説明していない。
しかし直感で理解した。
(魔力核。)
魔力が最初に発生する場所。
生命活動の起点。
それが鮮明に見えていた。
さらに。
ゴーレムが腕を振り上げる。
その一瞬前。
腕へ魔力が流れ込む様子が見えた。
(魔法を使う前の……魔力の溜め。)
攻撃の予兆。
今まで感じていた違和感が、はっきりと視認できる。
理人は周囲へ視線を向けた。
教師。
他の生徒。
全員の身体を流れる魔力まで見えてしまう。
「まさか……。」
魔力をさらに集中する。
今度は空中へ浮かぶ魔法式が見え始めた。
普通の人には見えないはずの術式。
魔力の流れ。
制御方法。
構造。
それらが頭の中へ自然と入ってくる。
「これが……。」
理人は思い出した。
マリー・メイスキー。
彼女が見せた物質創造。
あの異常な精密さ。
(そうか。)
(マリーはこれを見ながら魔法を組み立てていたのか。)
物質創造には原子を組み立てるほどの精密な制御が必要。
それを可能にしていたのは。
量子レベルの魔力制御能力。
そして。
魔法式そのものを理解する瞳。
理人は思わず苦笑する。
「とんでもない力を残してくれたな……。」
しかし。
その力は扱いやすくはなかった。
膨大な情報が一気に脳へ流れ込む。
頭痛。
目眩。
集中を切らせば視界が乱れる。
「まだ……慣れない。」
その間にも。
ゴーレムが突進してくる。
ズシン!!
理人は横へ跳ぶ。
ゴーレムの腕へ魔力が集中する。
(右から殴る。)
予測通りだった。
攻撃を紙一重で回避する。
さらに。
足の関節。
胸の魔力核。
防御が一瞬だけ薄くなる瞬間まで見える。
(今だ。)
理人は両手を前へ突き出した。
「詠唱開始。」
周囲の空気が震える。
「大気中に存在する水分子よ。」
「一点へ集束せよ。」
演習場の湿気が一か所へ集まっていく。
空中に直径数ミリほどの透明な水滴が生まれた。
さらに魔力を圧縮。
極限まで密度を高める。
「超高圧。」
「高密度。」
「貫け。」
眩い閃光が走る。
一本の細い光。
水を極限まで圧縮した高密度の水流が、レーザーのように一直線に放たれた。
ズガァァァッ!!
光はゴーレムの胸部を正確に貫く。
魔力核が砕け散る。
巨大な岩の身体は、その場で崩れ落ちた。
ゴゴゴ……
静寂。
教師も、生徒たちも言葉を失う。
「中級ゴーレムを……一撃。」
理人はゆっくり眼帯を握りしめる。
左目にはまだ鈍い痛みが残っていた。
(この瞳は強い。)
(だけど……。)
(俺にはまだ使いこなせない。)
マリーが遺した「叡智の瞳」。
その本当の可能性は、まだほんの一部しか引き出されていなかった。




