第16話 二回戦
魔法大祭二日目。
歓声に包まれた競技場で、二回戦第一試合が始まろうとしていた。
「一年科学魔法科――天城理人!」
「対するは!」
「一年光魔法科――輝影!」
金色の髪を揺らした少年が前へ出る。
「悪いけど、速さなら負けないよ。」
理人は静かに構えた。
「始め!」
その瞬間だった。
──消えた。
「速っ!」
観客席がどよめく。
輝影は光属性魔法によって自身を加速させ、目にも留まらぬ速度で理人の背後へ回り込む。
ドォン!!
光をまとった蹴りが炸裂する。
理人は腕で受け止めるが、大きく吹き飛ばされた。
(見えない……。)
再び光が走る。
右。
左。
上。
四方八方から連撃が飛んでくる。
理人は地面へ手をついた。
「重力操作。」
周囲の重力が一気に増加する。
輝影の動きがわずかに鈍った。
「まだだ!」
理人の足元から黒い影が伸びる。
「影拘束。」
影が蛇のように地面を這い、輝影へ襲いかかった。
「甘い!」
光となって影を抜ける。
その時だった。
空が暗くなる。
「……?」
全員が空を見上げた。
競技場上空。
そこには。
一つ。
二つ。
三つ。
いや、
数百。
無数の巨大な魔法陣が空を覆っていた。
「な……。」
教師たちの顔色が変わる。
「全員戦闘態勢!!」
魔法陣から巨大な黒い腕が現れる。
次の瞬間。
ゴブリン。
オーガ。
飛竜。
巨大な狼。
今まで見たこともない魔物まで次々と落下してきた。
「魔物の大侵攻だ!!」
競技場は一瞬で地獄へ変わる。
悲鳴が響く。
「逃げろ!」
「先生!」
教師陣はすぐさま巨大な転移魔法陣を展開した。
「観客を優先!」
青い光が会場を包む。
一瞬で数万人の観客が王都中心部へ転移させられていく。
しかし。
競技場には教師、生徒、そして大会出場者だけが残った。
「ここで食い止める!」
三年最強。
神埼信之が前へ出る。
「爆轟。」
轟音とともに巨大な爆発が魔物の群れを吹き飛ばす。
二年最強。
石破武。
「分子結合破壊。」
迫る魔物の身体が塵となって崩れていく。
「一年も戦える者は援護しろ!」
理人も走り出した。
「電流化!」
高速移動で魔物を次々撃破する。
その時。
巨大な黒い魔物が姿を現した。
「まさか……。」
教師が震える。
「十年前の……黒い魔物。」
魔物が腕を振るう。
理人は咄嗟に防御魔法を展開した。
「磁界防壁!」
バキン。
「……え?」
防壁が紙のように砕け散る。
黒い爪が理人の顔を切り裂いた。
「ぐぁぁぁぁっ!!」
左目から鮮血が吹き出す。
視界の半分が真っ暗になる。
理人は地面へ倒れ込んだ。
そこへ瓦礫が崩れる。
「きゃあああ!」
聞き覚えのある声だった。
「マリー!」
マリー・メイスキーが巨大な瓦礫に挟まれていた。
右半身は完全に潰れ、動かない。
医療班も近寄れない。
「理……人……。」
理人は血を流しながら近づく。
「しゃべるな!」
マリーは弱く笑った。
「やっぱり……負けちゃったね。」
「死ぬな!」
「お願い……聞いて。」
マリーは残った左手で自分の左目に触れた。
「この目は……代々、賢者の家系だけに受け継がれる……叡智の瞳。」
理人は息を呑む。
「私は……もう助からない。」
「だから……」
彼女は医療班へ視線を向けた。
「この目を……理人に。」
「でも!」
「お願い……。」
その一言だけだった。
マリーは最後に理人を見る。
「あなたなら……きっと……。」
微笑みを浮かべたまま。
静かに息を引き取った。
「マリー……。」
理人は言葉を失った。
その直後。
黒い魔物の咆哮が響く。
「まだ終わっていない!」
医療班が理人を抱え上げる。
「左眼を失っています!」
「適合する眼球がある!」
「叡智の瞳を移植する!」
治癒魔法陣が展開される。
激しい光が理人を包み込んだ。
耐え難い痛みの中で、理人の意識はゆっくりと薄れていく。
最後に聞こえたのは。
「黒い魔物を押し返せ!」
「神埼先輩を援護!」
「石破先輩、右側です!」
仲間たちの叫び声だった。
──そして理人は意識を失う。
事件後の公式発表。
死者一名。
マリー・メイスキー。
重軽傷者多数。
年に一度の祭典は、王都史上最悪の襲撃事件として歴史に刻まれることになった。




