第12話 基礎物質学
チャイムが鳴り、生徒たちは席に着く。
「今日の授業は基礎物質学だ。魔法を使う者なら必ず知っておかなければならない知識を教える。」
教師は教卓に黒い鉱石を置いた。
「これが魔鉱石だ。」
教室が少しざわつく。
「魔鉱石とは、魔物が死亡した際に残る魔砂が長い年月をかけて変化した鉱石である。」
黒板に図が描かれる。
魔物
↓ 死亡
魔砂
↓ ダンジョン周辺の地熱・高圧環境
接触変成作用
↓
魔鉱石
「魔砂は魔物の体内にあった魔力成分が砂状になったものだ。しかしそのままでは濃度が低く扱いづらい。」
教師は魔鉱石を掲げる。
「一方、魔鉱石はダンジョン近くの地熱によって接触変成作用を受け、内部の**MTP(Magic Transfer Particle)**が高濃度に濃縮されている。そのため魔砂よりも魔法の触媒として優秀で、魔道具や魔法陣の材料として広く利用されている。」
生徒たちは一斉にノートを書き始める。
理人も興味深そうに黒板を見つめた。
(完全に鉱物学じゃん…。魔法っていうより地学だな。)
教師は今度は巨大な地下地図を映し出した。
「続いてダンジョンについて説明する。」
地図には世界中のダンジョンが赤い点で記されている。
「現在確認されているダンジョンは、およそ七割が古代文明の遺跡、残り三割が天然洞窟などの自然生成物だ。」
教師が地図を切り替える。
今度は地下を立体化した模型だった。
そこでは無数のダンジョンが一本の巨大な地下空間でつながっていた。
「そして現在判明している最も重要な事実。」
一呼吸置いて教師が言う。
「すべてのダンジョンは地下でつながっている。」
教室中がざわついた。
「えっ!?」
「全部?」
「もちろん、なぜそうなったのかはまだ解明されていない。現在も世界中で研究が続いている。」
教師は黒板に『有力説』と書く。
「現在、最も支持されている仮説は自然地質説だ。」
黒板に断面図が描かれる。
「長い年月をかけた雨水による侵食、地下水の流れ、さらに地下深部を流れるマグマによる熱活動や岩盤の崩落。それらが複雑に作用し、各地の地下空間が少しずつ接続され、現在の巨大なダンジョン網が形成されたと考えられている。」
理人は腕を組んだ。
(鍾乳洞の形成やカルスト地形みたいなものか…。理屈としてはあり得る。)
教師は続ける。
「しかし、この説にも説明できない点が存在する。」
教室が静まり返る。
「地下数千メートルに存在する人工的な通路。世界各地で共通する建築様式。そして現在の技術では再現できない巨大構造物。」
教師はゆっくりと言った。
「つまり──誰かが造った可能性も完全には否定できない。」
教室は再びどよめいた。
理人だけは静かに考えていた。
(自然現象だけで説明できないなら、人為的な要素も疑うべきだな…。証拠が足りない以上、どちらも仮説に過ぎない。)
教師は教科書を閉じる。
「以上が現在の基礎物質学で判明している内容だ。魔法を学ぶ者は、魔法だけでなく自然科学も理解して初めて一流になれる。」
その言葉に、理人だけが少し嬉しそうに微笑んだ。
(やっぱりこの世界でも、最後は科学なんだな。)




