第111話 準決勝②
魔法大祭、第二日目。
準決勝第一試合。
神崎おとが岡崎振護を破り、決勝進出を決めた。
そして――
残る一枠を決める戦いが始まろうとしていた。
「さあああああ!!」
実況の声が闘技場へ響き渡る。
「準決勝第二試合!!」
観客席から大歓声が上がる。
「まずは――!!」
「三年! 天城理人!!」
――ワァァァァァァ!!
昨年の準優勝者。
そして今年は三年生。
最後の魔法大祭。
天城が薙刀型の杖を手に、静かにフィールドへ入る。
観客席からは期待の声が飛ぶ。
「天城ー!!」
「決勝まで行け!!」
「今年こそ優勝だ!!」
天城は軽く手を上げた。
そして。
「対するは――!!」
「一年! フィオナ・ミルズ!!」
歓声。
しかし。
天城はフィオナを見ると、表情を少し引き締めた。
フィオナの手には。
淡い光を放つ、一つの宝珠。
神器。
《宝珠――星紡ぎの灯火》。
神話時代の武器。
いつ、誰が作ったのか。
どうやって作られたのか。
何一つ分かっていない。
ただ一つ。
その力だけは明確だった。
――魔法を吸収する。
そして。
――増幅する。
さらに。
――放出する。
フィオナは宝珠を両手で持つ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
天城が杖を構える。
フィオナも構える。
審判が二人を見る。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!!」
瞬間。
天城が動いた。
「天弓。」
地面に散らばっていた鉄片が浮かび上がる。
「雷轟。」
青白い電光が鉄片を包み込む。
「光の柱で貫きたまえ。」
――ドォン!!
超高速の鉄片。
レールガン。
一直線にフィオナへ向かう。
しかし。
フィオナは逃げない。
宝珠を掲げた。
「――吸収。」
瞬間。
レールガンを包んでいた魔力が消えた。
「……!」
鉄片が勢いを失い、地面へ落ちる。
カラン。
観客席がざわめく。
「吸収した!?」
「天城のレールガンが!?」
フィオナの持つ宝珠が淡く輝く。
そして。
「――放出。」
――ドォォォン!!
先ほどのレールガンとほぼ同じ形。
だが。
威力は明らかに違う。
天城の目が光る。
「……!」
叡智の瞳。
魔力の流れを読み取る。
天城は杖を振った。
「――絶対防御。」
魔力が展開される。
飛んできた魔法へ。
逆位相の魔力をぶつける。
――バァン!!
魔法が相殺される。
「防いだ!」
観客席から歓声。
しかし。
フィオナは止まらない。
「もう一度!」
宝珠が輝く。
炎。
雷。
風。
光。
天城が使った魔法。
そのすべてが。
吸収される。
「――放出!」
天城は絶対防御で受け流す。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と魔法が飛んでくる。
「くっ……!」
天城が後退する。
防御。
回避。
防御。
回避。
フィオナの攻撃は止まらない。
天城が魔法を使えば。
それを吸収される。
そして。
より強くなって返ってくる。
「天城が押されてる!」
「魔法を使うほど不利じゃないか!?」
天城は歯を食いしばる。
(まずい……)
絶対防御は強力だ。
叡智の瞳によって、相手の魔力の流れを読み。
逆位相の魔力をぶつける。
魔法そのものを消すことができる。
だが。
それにも限界がある。
(攻撃できない)
天城が魔法を放てば。
フィオナが吸収する。
そして。
それを増幅して返してくる。
「――炎槍!」
炎の槍。
「絶対防御!」
――バァン!!
相殺。
「――雷撃!」
「絶対防御!」
――バァン!!
相殺。
「――風刃!」
「……っ!」
天城が横へ跳ぶ。
風刃が地面を切り裂く。
天城は距離を取る。
しかし。
フィオナが追い詰める。
「まだです!」
宝珠が輝く。
大量の魔力が集まっていく。
天城の表情が変わった。
(……このままじゃ)
負ける。
その言葉が頭をよぎった。
天城は必死に考える。
(どうする)
魔法は吸収される。
吸収された魔法は。
増幅される。
なら。
絶対防御で受け続けるしかない。
しかし。
それでは勝てない。
「――っ!」
再び魔法が飛んでくる。
天城は横へ跳んだ。
そのとき。
視界の端に。
小さな石が見えた。
フィールドへ転がっていた。
先ほどの攻撃で砕けた石。
天城はそれを見た。
フィオナの放った魔法が。
石を弾き飛ばす。
――カンッ!
石が飛んだ。
天城の横を通過する。
「……」
天城の動きが止まった。
(……当たった)
魔力の流れ。
ない。
ただの石。
神器が吸収できるのは。
魔法。
なら。
魔力がなければ。
ただの物質なら。
「……そういうことか」
天城の口元が少し上がった。
フィオナが首を傾げる。
「どうしました?」
「いや」
天城は杖を握り直す。
「ちょっと思いついただけです」
天城が地面へ杖を向ける。
「――土魔法。」
地面が隆起する。
巨大な土塊。
観客席から歓声が上がる。
「土魔法だ!」
フィオナが宝珠を構える。
「吸収します!」
天城が――
魔力を切った。
「……え?」
巨大な土塊。
それは。
ただの岩石へ戻った。
フィオナが目を見開く。
「魔力が……ない?」
天城は笑った。
「そうです」
そして。
杖を振る。
巨大なドーム状の地形が形成される。
闘技場の上空。
無数の岩石が作られていく。
「何をするつもりだ!?」
実況が叫ぶ。
天城は静かに答えた。
「魔法で攻撃するんじゃない」
魔力を切る。
「――物理で攻撃する。」
瞬間。
巨大な岩石が。
重力に従って落下を始めた。
「……!」
フィオナが宝珠を掲げる。
「吸収――!」
しかし。
何も起こらない。
「……え?」
岩。
ただの岩。
魔力を持たない。
吸収できない。
――ドォォォォォン!!
一つ。
二つ。
三つ。
大量の岩石が降り注ぐ。
フィオナは必死に走る。
「きゃっ!」
横へ飛ぶ。
岩石が地面へ落下する。
――ドゴォン!!
土煙。
もう一つ。
――ズドォン!!
さらに一つ。
フィオナは逃げ続ける。
しかし。
逃げ場がない。
天城が作ったドーム。
その内側から。
大量の岩石が降り注ぐ。
「くっ……!」
フィオナが宝珠を構える。
しかし。
吸収できない。
増幅できない。
放出できない。
「そんな……!」
最後の巨大な岩が。
フィオナの目の前へ落下する。
――ドォォォォン!!
爆音。
土煙がフィールドを覆う。
「フィオナ!」
観客席から声が飛ぶ。
しばらくして。
煙が晴れる。
フィオナは地面に座り込んでいた。
宝珠を握ったまま。
しかし。
もう戦える状態ではない。
審判が確認する。
そして。
旗を掲げた。
「勝者――!!」
「三年!!」
「天城理人!!」
――ワァァァァァァァァ!!
会場が爆発するような歓声に包まれた。
天城は杖を下ろす。
フィオナは悔しそうに宝珠を見る。
「……吸収できませんでした」
「はい」
「どうして……」
天城は地面へ転がった岩を見る。
「魔力がないからです」
「……」
「魔法として作ったものでも、魔力を切ればただの物質になる」
フィオナは少し考える。
「……だから、吸収できなかった」
「そういうことです」
フィオナはしばらく黙った。
そして。
「……すごいです」
「え?」
「最後まで、魔法で勝とうとしなかったんですね」
天城は少し笑う。
「魔法で勝てないなら、別の方法を使うだけです」
観客席。
天城の戦いを見ていた者たちは、その言葉にざわめいた。
魔法を使う。
魔法を組み合わせる。
魔法を科学的に解析する。
それが天城理人の戦い方。
しかし。
今回。
天城が最後に選んだのは――
魔法を捨てることだった。
実況が叫ぶ。
「これで決勝進出者が決定!!」
「Aブロック代表――神崎おと!!」
「そして!!」
「Cブロック代表――天城理人!!」
会場が揺れる。
天城はフィールドの反対側を見る。
そこには。
神崎おとが立っていた。
二人の視線が交わる。
「……」
「……」
おとが小さく笑う。
天城も笑った。
そして。
魔法大祭――
最後の戦いが。
ついに始まろうとしていた。




