第110話 準決勝①
魔法大祭、第二日目。
ついに――
トーナメントは準決勝へ突入した。
ここまで勝ち上がった者たちは、全員が各ブロックを代表する強者。
そして最初の一戦。
Aブロック代表――神崎おと。
Bブロック代表――岡崎振護。
異なる性質を持つ二人が、ついに激突する。
「さあああああ!!」
実況の声が闘技場へ響き渡る。
「準決勝第一試合!!」
観客席から大歓声。
「まずは――!!」
「二年! 神崎おと!!」
おとがフィールドへ入る。
小さな身体。
短い杖。
いつも通りの落ち着いた表情。
しかし。
その魔法を知る者たちは、決して彼女を侮らない。
炎魔法。
そして――
正体不明の魔法。
《共振》
その原理は、未だ完全には解明されていない。
「対するは――!!」
「二年! 岡崎振護!!」
会場がさらに沸く。
「岡崎ー!!」
「波魔法見せろー!!」
岡崎がフィールドへ入る。
明るい表情。
しかし、その身体にはすでに魔力が集まり始めている。
自らの身体を「波」へと変化させる古代魔法。
波長。
振幅。
周期。
それらを自在に操り、物理現象そのものへ近づく。
先ほどのBブロック代表戦では、光魔法すら波長を合わせて無効化した。
岡崎はおとを見る。
「神崎さん!」
「はい」
「よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
岡崎が笑う。
「楽しみです!」
おとも小さく笑った。
「私もです」
審判が二人を確認する。
「準備はいいな?」
二人が頷く。
「それでは――」
旗が振り下ろされる。
「開始!!」
――瞬間。
岡崎が消えた。
「……!」
おとの目の前。
拳。
「速い!」
おとは身体を横へずらす。
――ドゴン!!
拳が空を切る。
地面が砕ける。
「まだ!」
岡崎が身体を反転させる。
右。
左。
蹴り。
拳。
連続する攻撃。
おとは次々とかわしていく。
だが。
岡崎の速度は尋常ではない。
「そこ!」
拳が迫る。
おとは杖を向けた。
「――共振。」
――ゴォォォォン!!
空気が震えた。
地面が揺れる。
岡崎の身体へ振動が伝わる。
しかし――
「!」
岡崎の身体が揺れた。
一定の周期。
一定の波長。
そして。
その振動に――
合わせた。
共振が岡崎の身体を通り抜ける。
「……!」
おとの目が少しだけ見開かれる。
岡崎が笑った。
「波なら――合わせられます!」
そのまま突っ込む。
「なるほど」
おとは後退する。
杖を振る。
「炎槍!」
炎の槍が複数放たれる。
岡崎は身体を波へ変える。
一本。
二本。
三本。
すべてが身体をすり抜けていく。
「効かない!」
観客席が沸く。
「共振まで無効化したぞ!」
「岡崎すげぇ!」
岡崎は一気に距離を詰める。
「これなら――!」
拳。
おとは杖で受ける。
――ドン!!
身体が後ろへ飛ぶ。
「おと!」
観客席から声が上がる。
おとは地面へ着地。
すぐに立ち上がる。
「……強いですね」
「ありがとうございます!」
岡崎が構える。
「でも、僕も負けません!」
再び消える。
――速い。
おとは共振を放つ。
「共振!」
――ゴォン!!
しかし。
岡崎の身体が変化する。
振動。
波長。
周期。
すべてを調整。
「また合わせた!」
実況が叫ぶ。
おとは炎魔法を放つ。
岡崎は避ける。
光魔法。
避ける。
共振。
合わせる。
岡崎は次々と、おとの攻撃を突破していく。
観客席が騒然となる。
「神崎の魔法が通らない!」
「岡崎が完全に対応してる!」
「このまま岡崎が押し切るのか!?」
天城は観客席から二人を見つめていた。
(……岡崎は、やっぱり厄介だ)
相手の魔法を理解する。
そして。
それを自分の波へ変換する。
単純な回避ではない。
魔法そのものの性質を利用している。
だが。
天城はふと気づく。
(おとは……まだ焦ってない)
おとは静かに岡崎を見ていた。
「……」
そして。
フィールドへ視線を落とす。
そこには。
先ほどから何度も攻撃が繰り返されたことで、細かな砂や粉塵が大量に舞っていた。
おとはそれを見て。
ほんの少しだけ笑った。
「なるほど」
「?」
岡崎が首を傾げる。
「どうしました?」
「いえ」
おとは杖を構え直す。
「あなたが、波に合わせられるなら」
一歩。
前へ出る。
「合わせられないものを使えばいいんですね」
「……?」
岡崎は意味が分からない。
おとは杖を地面へ向けた。
「――共振。」
――ゴォォォォォン!!
先ほどとは違う。
小さな一点ではない。
闘技場全体が震えた。
「なっ!?」
岡崎が目を見開く。
地面。
壁。
空気。
すべてが細かく振動する。
「何だ!?」
観客席からも驚きの声。
そして。
地面に積もっていた細かな粉塵が――
舞い上がった。
大量の粉が空中へ広がっていく。
「粉……?」
岡崎が周囲を見る。
白い粉塵。
細かな粒子。
それが闘技場全体を覆っていく。
おとは動かない。
「岡崎さん」
「はい?」
「波長を合わせることはできますよね」
「もちろん!」
「では――」
おとの杖の先端に、小さな炎が灯る。
岡崎の表情が変わった。
「……!」
粉塵。
空気中に大量に浮遊する可燃性の微粒子。
そして。
着火源。
「まさか……!」
おとは杖を振った。
「――炎。」
瞬間。
――――ドォォォォォォォン!!
闘技場全体が爆ぜた。
「うわああああああ!!」
爆風。
粉塵が一気に燃焼し、巨大な火炎が広がる。
岡崎は咄嗟に身体を波へ変える。
だが。
炎そのものを完全に消すことはできない。
熱。
圧力。
衝撃。
それらが一気に襲い掛かる。
「ぐっ……!」
岡崎の身体が吹き飛ばされる。
「岡崎!!」
観客席から悲鳴。
煙が闘技場を覆う。
数秒。
静寂。
そして――
煙の向こうから。
岡崎が姿を現した。
膝をついている。
「……はぁ……」
何とか立ち上がろうとする。
しかし。
身体に力が入らない。
審判が確認する。
「岡崎振護!」
岡崎は立ち上がろうとする。
「まだ……!」
だが。
足がふらついた。
審判が判断する。
「これ以上の戦闘は危険と判断する!」
旗が上がる。
「勝者――!!」
一瞬の静寂。
「二年!!」
「神崎おと!!」
――うおおおおおおおおおおお!!
会場が爆発したような歓声に包まれる。
「神崎おとが勝った!!」
「岡崎の波魔法を完全に突破した!!」
「粉塵爆発だと!?」
「共振って何でもできるのか!?」
おとは杖を下ろした。
岡崎は悔しそうに笑う。
「……やられました」
「すみません」
「いやいや!」
岡崎が笑う。
「すごかったです!」
「ありがとうございます」
「まさか、あんな使い方するなんて……」
岡崎は空を見上げる。
「僕、波に合わせれば何でも避けられると思ってました」
「……」
「でも」
岡崎がおとを見る。
「そもそも、攻撃そのものを避けるんじゃなくて、周り全部を攻撃にされたら……」
「はい」
「合わせる以前の問題ですね」
おとは少しだけ笑った。
「そういうことです」
観客席。
天城は腕を組んでいた。
(……やっぱり、おとは怖いな)
《共振》。
その正体は未だ分からない。
ただ振動させるだけではない。
物質。
空気。
地面。
そして――
戦場そのもの。
それらを利用して戦術を組み立てる。
(岡崎がどれだけ波長を合わせても、合わせる対象そのものを消してしまえばいい)
天城は小さく笑った。
(やっぱり、あいつは天才だ)
実況が叫ぶ。
「準決勝第一試合――決着!!」
「勝者は、神崎おと!!」
大歓声。
そして。
神崎おとは――
ついに。
決勝戦へと駒を進めた。
だが。
魔法大祭は、まだ終わらない。
次の準決勝。
そこでは――
天城理人が待っている。




