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110/112

第110話 準決勝① 

 魔法大祭、第二日目。

 ついに――

 トーナメントは準決勝へ突入した。

 ここまで勝ち上がった者たちは、全員が各ブロックを代表する強者。

 そして最初の一戦。

 Aブロック代表――神崎おと。

 Bブロック代表――岡崎振護。

 異なる性質を持つ二人が、ついに激突する。

「さあああああ!!」

 実況の声が闘技場へ響き渡る。

「準決勝第一試合!!」

 観客席から大歓声。

「まずは――!!」

「二年! 神崎おと!!」

 おとがフィールドへ入る。

 小さな身体。

 短い杖。

 いつも通りの落ち着いた表情。

 しかし。

 その魔法を知る者たちは、決して彼女を侮らない。

 炎魔法。

 そして――

 正体不明の魔法。

 《共振》

 その原理は、未だ完全には解明されていない。

「対するは――!!」

「二年! 岡崎振護!!」

 会場がさらに沸く。

「岡崎ー!!」

「波魔法見せろー!!」

 岡崎がフィールドへ入る。

 明るい表情。

 しかし、その身体にはすでに魔力が集まり始めている。

 自らの身体を「波」へと変化させる古代魔法。

 波長。

 振幅。

 周期。

 それらを自在に操り、物理現象そのものへ近づく。

 先ほどのBブロック代表戦では、光魔法すら波長を合わせて無効化した。

 岡崎はおとを見る。

「神崎さん!」

「はい」

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ」

 岡崎が笑う。

「楽しみです!」

 おとも小さく笑った。

「私もです」

 審判が二人を確認する。

「準備はいいな?」

 二人が頷く。

「それでは――」

 旗が振り下ろされる。

「開始!!」

 ――瞬間。

 岡崎が消えた。

「……!」

 おとの目の前。

 拳。

「速い!」

 おとは身体を横へずらす。

 ――ドゴン!!

 拳が空を切る。

 地面が砕ける。

「まだ!」

 岡崎が身体を反転させる。

 右。

 左。

 蹴り。

 拳。

 連続する攻撃。

 おとは次々とかわしていく。

 だが。

 岡崎の速度は尋常ではない。

「そこ!」

 拳が迫る。

 おとは杖を向けた。

「――共振。」

 ――ゴォォォォン!!

 空気が震えた。

 地面が揺れる。

 岡崎の身体へ振動が伝わる。

 しかし――

「!」

 岡崎の身体が揺れた。

 一定の周期。

 一定の波長。

 そして。

 その振動に――

 合わせた。

 共振が岡崎の身体を通り抜ける。

「……!」

 おとの目が少しだけ見開かれる。

 岡崎が笑った。

「波なら――合わせられます!」

 そのまま突っ込む。

「なるほど」

 おとは後退する。

 杖を振る。

「炎槍!」

 炎の槍が複数放たれる。

 岡崎は身体を波へ変える。

 一本。

 二本。

 三本。

 すべてが身体をすり抜けていく。

「効かない!」

 観客席が沸く。

「共振まで無効化したぞ!」

「岡崎すげぇ!」

 岡崎は一気に距離を詰める。

「これなら――!」

 拳。

 おとは杖で受ける。

 ――ドン!!

 身体が後ろへ飛ぶ。

「おと!」

 観客席から声が上がる。

 おとは地面へ着地。

 すぐに立ち上がる。

「……強いですね」

「ありがとうございます!」

 岡崎が構える。

「でも、僕も負けません!」

 再び消える。

 ――速い。

 おとは共振を放つ。

「共振!」

 ――ゴォン!!

 しかし。

 岡崎の身体が変化する。

 振動。

 波長。

 周期。

 すべてを調整。

「また合わせた!」

 実況が叫ぶ。

 おとは炎魔法を放つ。

 岡崎は避ける。

 光魔法。

 避ける。

 共振。

 合わせる。

 岡崎は次々と、おとの攻撃を突破していく。

 観客席が騒然となる。

「神崎の魔法が通らない!」

「岡崎が完全に対応してる!」

「このまま岡崎が押し切るのか!?」

 天城は観客席から二人を見つめていた。

(……岡崎は、やっぱり厄介だ)

 相手の魔法を理解する。

 そして。

 それを自分の波へ変換する。

 単純な回避ではない。

 魔法そのものの性質を利用している。

 だが。

 天城はふと気づく。

(おとは……まだ焦ってない)

 おとは静かに岡崎を見ていた。

「……」

 そして。

 フィールドへ視線を落とす。

 そこには。

 先ほどから何度も攻撃が繰り返されたことで、細かな砂や粉塵が大量に舞っていた。

 おとはそれを見て。

 ほんの少しだけ笑った。

「なるほど」

「?」

 岡崎が首を傾げる。

「どうしました?」

「いえ」

 おとは杖を構え直す。

「あなたが、波に合わせられるなら」

 一歩。

 前へ出る。

「合わせられないものを使えばいいんですね」

「……?」

 岡崎は意味が分からない。

 おとは杖を地面へ向けた。

「――共振。」

 ――ゴォォォォォン!!

 先ほどとは違う。

 小さな一点ではない。

 闘技場全体が震えた。

「なっ!?」

 岡崎が目を見開く。

 地面。

 壁。

 空気。

 すべてが細かく振動する。

「何だ!?」

 観客席からも驚きの声。

 そして。

 地面に積もっていた細かな粉塵が――

 舞い上がった。

 大量の粉が空中へ広がっていく。

「粉……?」

 岡崎が周囲を見る。

 白い粉塵。

 細かな粒子。

 それが闘技場全体を覆っていく。

 おとは動かない。

「岡崎さん」

「はい?」

「波長を合わせることはできますよね」

「もちろん!」

「では――」

 おとの杖の先端に、小さな炎が灯る。

 岡崎の表情が変わった。

「……!」

 粉塵。

 空気中に大量に浮遊する可燃性の微粒子。

 そして。

 着火源。

「まさか……!」

 おとは杖を振った。

「――炎。」

 瞬間。

 ――――ドォォォォォォォン!!

 闘技場全体が爆ぜた。

「うわああああああ!!」

 爆風。

 粉塵が一気に燃焼し、巨大な火炎が広がる。

 岡崎は咄嗟に身体を波へ変える。

 だが。

 炎そのものを完全に消すことはできない。

 熱。

 圧力。

 衝撃。

 それらが一気に襲い掛かる。

「ぐっ……!」

 岡崎の身体が吹き飛ばされる。

「岡崎!!」

 観客席から悲鳴。

 煙が闘技場を覆う。

 数秒。

 静寂。

 そして――

 煙の向こうから。

 岡崎が姿を現した。

 膝をついている。

「……はぁ……」

 何とか立ち上がろうとする。

 しかし。

 身体に力が入らない。

 審判が確認する。

「岡崎振護!」

 岡崎は立ち上がろうとする。

「まだ……!」

 だが。

 足がふらついた。

 審判が判断する。

「これ以上の戦闘は危険と判断する!」

 旗が上がる。

「勝者――!!」

 一瞬の静寂。

「二年!!」

「神崎おと!!」

 ――うおおおおおおおおおおお!!

 会場が爆発したような歓声に包まれる。

「神崎おとが勝った!!」

「岡崎の波魔法を完全に突破した!!」

「粉塵爆発だと!?」

「共振って何でもできるのか!?」

 おとは杖を下ろした。

 岡崎は悔しそうに笑う。

「……やられました」

「すみません」

「いやいや!」

 岡崎が笑う。

「すごかったです!」

「ありがとうございます」

「まさか、あんな使い方するなんて……」

 岡崎は空を見上げる。

「僕、波に合わせれば何でも避けられると思ってました」

「……」

「でも」

 岡崎がおとを見る。

「そもそも、攻撃そのものを避けるんじゃなくて、周り全部を攻撃にされたら……」

「はい」

「合わせる以前の問題ですね」

 おとは少しだけ笑った。

「そういうことです」

 観客席。

 天城は腕を組んでいた。

(……やっぱり、おとは怖いな)

 《共振》。

 その正体は未だ分からない。

 ただ振動させるだけではない。

 物質。

 空気。

 地面。

 そして――

 戦場そのもの。

 それらを利用して戦術を組み立てる。

(岡崎がどれだけ波長を合わせても、合わせる対象そのものを消してしまえばいい)

 天城は小さく笑った。

(やっぱり、あいつは天才だ)

 実況が叫ぶ。

「準決勝第一試合――決着!!」

「勝者は、神崎おと!!」

 大歓声。

 そして。

 神崎おとは――

 ついに。

 決勝戦へと駒を進めた。

 だが。

 魔法大祭は、まだ終わらない。

 次の準決勝。

 そこでは――

 天城理人が待っている。

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