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第109話 Dブロック 代表戦

 Cブロック代表戦が終わり、闘技場にはまだ先ほどの戦いの余韻が残っていた。

 雷。

 液体。

 そして未知の交流電力。

 鳴神春香が見せた異常な魔法に、観客たちは興奮し続けている。

 しかし。

「続いて――!」

 実況の声が響く。

「Dブロック! 代表決定戦!!」

 再び歓声が上がった。

「まずは――!」

「二年! エジコ・フランケル!」

 闘技場へ、一人の少女が入ってくる。

 エジコ・フランケル。

 二年生。

 その特徴は――。

 圧倒的な火力。

 複雑な魔法を組み合わせるタイプではない。

 特殊な古代魔法を使うわけでもない。

 ただ。

 基本魔法を。

 極限まで。

 強くする。

「火球!」

 以前の試合でも。

 彼女が放った魔法は、通常の火球とは比較にならない威力を見せていた。

 単純。

 だからこそ強い。

 魔力を一点へ集中し。

 圧倒的な出力で叩き潰す。

「対するは――!」

「一年! フィオナ・ミルズ!」

 会場の空気が変わった。

 一年生。

 そして。

 彼女が手にしているものを見て。

 教師たちがざわめく。

 淡い光を放つ――。

 小さな宝珠。

 フィオナはそれを両手で大切そうに持っていた。

「……」

 その宝珠は。

 普通の魔鉱石ではない。

 いつ作られたのか。

 誰が作ったのか。

 どうやって作られたのか。

 すべて不明。

 ただ一つ。

 学院に伝わる記録がある。

 神話時代の武器。

 神器。

 その名は――。

 《宝珠――星紡ぎの灯火》

 淡い光を放つ特殊魔鉱石。

 フィオナが幼い頃。

 偶然拾ったものだという。

 そして。

 その能力は。

 魔法の吸収。

 増幅。

 そして――。

 放出。

「よろしくお願いします」

 フィオナが小さく頭を下げる。

 エジコも杖を構えた。

「こちらこそ」

 審判が両者を見る。

「両者、準備!」

 二人が構える。

「開始!!」

 先に動いたのは――。

 エジコ。

「火球!!」

 ――ゴォォォッ!!

 巨大な火球が放たれた。

 観客席がどよめく。

「でかい!」

「一年生相手にいきなり最大火力か!?」

 フィオナは動かなかった。

 ただ。

 手の中の宝珠を前へ向ける。

「……星紡ぎの灯火」

 淡い光が強くなる。

 火球が。

 宝珠へ触れた。

 ――シュン。

「……え?」

 消えた。

 巨大な火球が。

 跡形もなく。

 吸収された。

 会場が静まり返る。

「……」

「……」

 エジコが固まる。

「今……」

 フィオナは宝珠を見る。

 淡い光が。

 少しだけ強くなっていた。

「吸収……しました」

「魔法を!?」

 実況が叫ぶ。

 エジコの表情が変わった。

「……だったら!」

 杖を振る。

「火球!」

 再び。

 巨大な火球。

 今度は先ほどより大きい。

 さらに。

「火球!!」

 二発。

 三発。

 四発。

 次々と放たれる。

 ――ドォン!

 ――ドォン!!

 ――ドォォン!!!

 しかし。

 フィオナは動かない。

 宝珠が淡く輝く。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 四つ。

 すべての魔法が。

 宝珠へ吸い込まれていく。

「な……」

 エジコが息を呑む。

 フィオナは。

 宝珠を見つめていた。

「……すごい」

 宝珠の光が。

 先ほどより明らかに強くなっている。

 吸収した魔法を。

 ただ消しているわけではない。

 蓄えている。

 そして。

「これ……」

 フィオナが杖を構える。

「返せます」

「……!」

 宝珠が輝く。

 フィオナが前へ向けた。

「――放出」

 瞬間。

 凄まじい魔力が解き放たれた。

 ――――ズドォォォォン!!!

「うわあああああ!!」

 闘技場が揺れた。

 エジコが咄嗟に防御魔法を展開する。

「土壁!!」

 巨大な壁。

 しかし。

 炎の奔流がそれを一瞬で飲み込む。

「――っ!!」

 防御魔法が砕ける。

 エジコが吹き飛ばされた。

 観客席から悲鳴が上がる。

「何だあの威力!?」

「さっきエジコが撃った魔法だろ!?」

「いや、違う!」

 教師席。

 一人の教師が呟く。

「……増幅されている」

 吸収。

 そして。

 増幅。

 宝珠へ吸収された魔法は。

 元の状態よりも遥かに強い魔法として返される。

 つまり。

 エジコが高火力で攻撃すればするほど――。

 フィオナの攻撃も強くなる。

「そんな……!」

 エジコが立ち上がる。

 服は土埃にまみれている。

 それでも。

 杖を握る。

「まだ……!」

「やめた方が――」

「まだ終わってない!!」

 エジコが叫ぶ。

 そして。

 全魔力を集中する。

「だったら……!」

 周囲の魔力が一気に集まる。

「全部まとめて――!」

 巨大な魔法陣。

 炎。

 雷。

 風。

 土。

 すべてを複雑に組み合わせるのではない。

 ただ。

 一つ一つの魔法を極限まで強くする。

「叩き潰す!!」

 ――ドォォォォン!!!

 かつてないほど巨大な魔法が。

 フィオナへ向かって放たれた。

 観客席が騒然となる。

「デカすぎる!!」

「避けろ!!」

 フィオナは。

 逃げなかった。

 ただ。

 宝珠を前へ向ける。

「……星紡ぎの灯火」

 淡い光。

 それが。

 急激に強くなった。

 巨大な魔法が。

 宝珠へ吸い込まれていく。

「なっ――」

 エジコの顔から血の気が引いた。

「全部……?」

 炎も。

 雷も。

 風も。

 土も。

 すべて。

 宝珠の中へ。

 吸収される。

 そして。

 闘技場が。

 静かになった。

 フィオナは宝珠を見る。

 その光は。

 もはや淡い光ではなかった。

 眩しい。

 目を開けていられないほどに。

「……これ」

 フィオナ自身も少し驚いている。

「大きすぎる……」

 宝珠が震える。

「フィオナ!」

 教師席から声が飛ぶ。

「無理に放出するな!」

 しかし。

 もう遅い。

 フィオナは。

 宝珠をエジコへ向けた。

「……放出」

 ――――――――。

 一瞬。

 音が消えた。

 そして。

 次の瞬間。

 爆発した。

 ――――――――ドォォォォォォォォン!!!!!

 闘技場全体が揺れる。

 巨大な爆炎。

 衝撃波。

 光。

 魔力。

 すべてが一気に広がった。

「うわあああああああ!!」

「結界最大出力!!」

「観客席を守れ!!」

 闘技場を覆う防護結界が激しく揺れる。

 エジコは。

 その中心にいた。

 防御魔法を展開する暇すらなかった。

 爆発が収まる。

 煙がゆっくりと晴れていく。

 そこに。

 エジコが倒れていた。

「……」

 フィオナは呆然と宝珠を見る。

「……やりすぎた」

 審判が慌てて駆け寄る。

 エジコの状態を確認。

 そして。

 旗を掲げた。

「勝者!」

「一年――」

 一拍。

「フィオナ・ミルズ!!」

 会場が爆発するような歓声に包まれた。

「一年生が勝ったぞ!!」

「何だよあの神器!!」

「エジコの魔法を全部吸収した!?」

「しかも増幅して返したぞ!!」

 フィオナは静かに立っている。

 手の中には。

 再び淡い光へ戻った宝珠。

 《星紡ぎの灯火》。

 神話の時代に作られたとされる。

 製作者不明。

 製造方法不明。

 原理すら完全には解明されていない。

 ただ。

 その神器を。

 幼い少女は偶然拾った。

 そして今。

 魔法大祭という舞台で。

 その力を初めて。

 多くの人間へ見せた。

 観客席から試合を見ていた天城は。

 しばらく黙っていた。

(……あれは。)

 神器。

 しかも。

(相手が強いほど、危険になる。)

 エジコの火力特化という長所。

 それが。

 完全に裏返された。

「……厄介だな」

 天城が呟く。

 そして。

 Dブロック代表の名が。

 会場へ響き渡る。

「Dブロック代表――!」

「一年・フィオナ・ミルズ!!」

 フィオナは小さく頭を下げた。

 その手の中で。

 《星紡ぎの灯火》が。

 淡く。

 静かに。

 光っていた。

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