第108話 Cブロック 代表戦
Cブロック
最後の二人が、闘技場の中央へ向かって歩いていた。
一人は――。
「三年! 天城理人!」
昨年の準優勝者。
そして今年、三年生となった天城理人。
もう一人は――。
「三年! 鳴神春香!」
雷属性の名門、鳴神家の出身。
自身を雷へ変える古代魔法《雷迅》を操る少女。
会場の空気が、一気に張り詰める。
「天城ぃぃぃ!!」
「鳴神ー!!」
「Cブロック代表決定戦だぞ!!」
二人は向かい合う。
天城は薙刀型の杖を構えた。
対する鳴神は――。
「……」
ぼーっと天城を見ている。
「……鳴神さん?」
「ふぇ?」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
そう言って、鳴神は杖を構えた。
しかし。
どこか眠そうだった。
観客席から笑いが起こる。
「鳴神、いつもの感じだな!」
「試合になると別人になるぞ!」
天城は苦笑する。
(学校の外でもこんな感じなのか……)
だが。
その直後。
鳴神の目が変わった。
「……じゃあ」
雷が走る。
「始めよう」
審判が両者を見る。
「両者、準備!」
二人が構える。
「――開始!!」
瞬間。
鳴神の姿が消えた。
「――雷迅!」
轟音。
雷そのものと化した鳴神が、闘技場を駆け抜ける。
速い。
あまりにも速い。
「いきなり雷迅だ!」
「見えねえ!」
観客席が沸く。
天城は動かなかった。
ただ。
左目を光らせる。
(来る)
次の瞬間。
天城の目の前へ雷が現れた。
――ドンッ!!
雷を纏った拳。
しかし。
「土壁」
天城の前に、一瞬で壁が出現する。
普通の土壁ではない。
大量の石英。
その主成分――二酸化ケイ素。
天城の魔力によって構造を変化させる。
温度。
圧力。
そして冷却。
瞬時に形成されたのは――。
透明な壁。
「ガラス!?」
観客席がどよめいた。
鳴神の拳がガラスへ叩き込まれる。
――ガァン!!
ひびが走る。
しかし。
砕けない。
「……なるほど」
鳴神が壁を見る。
天城は杖を振った。
「閉じます」
左右。
前後。
さらに上。
ガラスの壁が次々と形成される。
鳴神の周囲を完全に覆っていく。
――カァン。
最後の一枚が閉じた。
巨大な透明の箱。
「捕まえた!」
実況が叫ぶ。
「天城選手! 鳴神選手を完全に閉じ込めた!」
観客席から歓声。
「雷になってもガラスは通り抜けられない!」
「しかも壁がツルツルだ!」
そう。
壁には。
登るための凹凸がない。
手を掛ける場所も。
足を掛ける場所もない。
鳴神は壁を見上げる。
「……」
そして。
「んー」
首を傾げた。
「登れないね」
観客席がざわつく。
天城は距離を取る。
「これなら――」
しかし。
鳴神は突然。
自分の腕を見た。
「……じゃあ」
身体が揺らぐ。
「ちょっと変える」
「……?」
次の瞬間。
鳴神の身体が――。
液体になった。
「……は?」
天城が目を見開く。
観客席も。
「え?」
「何あれ!?」
「鳴神の身体が……液体!?」
人間の形が崩れていく。
しかし。
流れ落ちるわけではない。
壁面に沿って。
まるで液体そのものが意思を持っているかのように。
上へ進んでいく。
「登ってる!?」
鳴神の身体は。
ほとんど粘性を持たない液体のような状態になっていた。
超流動。
重力に逆らうように。
ガラスの壁面を這い上がる。
「そんな……」
天城が呟く。
(あれも《迅雷》の応用か?)
鳴神家の古代魔法。
自身の身体を別の性質へ変える。
雷。
そして――。
それ以外の性質すら。
感覚的に扱える。
「まさか……」
天城が目を細める。
鳴神はそのまま壁を登っていく。
そして。
頂上へ到達した。
液体となった身体が。
ガラスの縁を越える。
外へ出た瞬間。
身体が再び人間へ戻った。
――スタッ。
鳴神が地面へ着地する。
会場が静まり返る。
「……今の何?」
誰かが呟いた。
教師席でも。
「説明できない」
「原理が分からん……」
誰も理解できていない。
鳴神本人だけが。
「ふぇ?」
首を傾げていた。
「……まあ、出られたからいいや」
そして。
鳴神は杖を構えた。
「次」
天城の表情が変わる。
(まだ何かある)
鳴神の身体から。
紫色の光が漏れ始めた。
バチッ。
バチバチッ。
空気そのものが震える。
「……!」
天城が距離を取る。
鳴神は静かに言った。
「これ」
身体の周囲へ。
異常な電力が集まる。
「新しく作った」
紫色の電流が。
鳴神の全身を覆う。
「名前は――」
一瞬。
鳴神が考える。
「……紫電」
その瞬間。
――バァン!!
闘技場の空気が震えた。
「なんだあれ!?」
「雷迅とは違うぞ!」
「電気の流れ方がおかしい!」
教師たちも立ち上がる。
「交流……?」
「まさか」
一般的な雷魔法。
それは基本的に直流的な性質を持つ。
しかし。
鳴神が纏っているものは違う。
電流が。
周期的に。
激しく変化している。
誰にも理解できない。
新しい雷。
新しい魔法。
鳴神が腕を前へ向ける。
「いくよ」
紫色の電流が一気に膨れ上がる。
「――紫電!!」
轟音。
紫色の電撃が。
天城へ向かって放たれた。
「……!」
天城は一瞬で理解した。
(防御できない)
片魔岩が輝く。
防御魔法を展開――。
だが。
間に合わない。
(なら)
天城は杖を上空へ向ける。
「光よ」
光が一点へ集まる。
細く。
鋭く。
一直線に空へ伸びる。
「――レーザー」
光線が空を貫いた。
紫電が迫る。
天城は走った。
「何をしている!?」
実況が叫ぶ。
レーザーが空中へ。
さらに伸びる。
その先に。
プラズマの通り道が形成されていく。
天城は。
雷の通り道そのものを――。
変えようとしていた。
「まさか……!」
教師の一人が立ち上がる。
「誘雷……!」
天城の左目が輝く。
雷の進路。
空気の状態。
電荷の分布。
すべてを読み取る。
「こっちです」
天城が杖を振った。
――バァァァン!!
紫電の軌道が。
わずかに逸れた。
「なっ!?」
鳴神が目を見開く。
紫色の電撃は。
天城ではなく。
レーザーによって作られたプラズマの通り道へ吸い寄せられていく。
そして――。
空へ流れた。
――ゴロゴロゴロ……!!
闘技場の上空で巨大な雷が炸裂する。
観客席が静まり返った。
「……不発?」
鳴神が呟く。
天城は息を整える。
「危なかった」
「……」
鳴神はしばらく天城を見る。
そして。
「すごい」
素直に言った。
「初見で対応したんだ」
「かなり危なかったですけどね」
「そっか」
鳴神は少し笑った。
「じゃあ、もう一回――」
「させません」
天城が杖を振る。
「――ガラス壁」
瞬間。
鳴神の周囲に。
透明な壁が出現する。
「え?」
前。
後ろ。
左右。
そして。
上。
完全に封鎖。
「……あ」
鳴神が呟く。
逃げ場がない。
「ちょっと待って」
「待ちません」
「ふぇ……」
鳴神が壁に手をつく。
しかし。
今度は天城が魔法を重ねている。
ガラス。
さらにガラス。
何重にも。
鳴神を包み込む。
雷になっても。
液体になっても。
逃げる空間そのものがない。
鳴神はしばらく考え。
「……」
そして。
杖を下ろした。
「無理だね」
審判が目を見開く。
「鳴神選手、戦闘続行の意思は――」
「ない」
鳴神はあっさり答えた。
「これ、出られない」
「……」
観客席が一瞬静かになり。
次の瞬間。
「えええええ!?」
大歓声が爆発した。
審判が慌てて旗を上げる。
「勝者!」
「三年! 天城理人!!」
天城は杖を下ろした。
ガラスの檻が消えていく。
鳴神が外へ出る。
「ありがとうございました」
「うん」
鳴神は天城を見る。
「楽しかった」
「僕もです」
「でも……」
鳴神が少し考える。
「紫電、もうちょっと改良しないとなぁ」
「まだ改良するんですか」
「うん」
そして。
「今度は絶対当てる」
天城は苦笑した。
「楽しみにしています」
観客席はまだ騒然としていた。
誰もが理解できなかった。
雷となり。
液体となり。
未知の交流電力を操り。
そしてそれすらも天城に攻略された少女。
鳴神春香。
その力は。
まだ底を見せていない。
そして――。
天城理人は。
Cブロック代表の座を手に入れた。
Cブロック代表――三年・天城理人。




