↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/112

第107話 鳴神&吉田

 魔法大祭。

 その一週間ほど前。

 学院では、大会に向けた準備が進められていた。

 そんな中。

 王宮の一室では――

「……で?」

 アイザが机に頬杖をついていた。

「なんで私はここにいるの?」

「魔法開発をするからです」

 吉田風美が答える。

「それは分かるわ」

 アイザはため息をついた。

「でも、元々今日は女子会じゃなかった?」

「そうだったんですけど」

 吉田が隣を見る。

「鳴神が魔法開発したいって言うから」

「……?」

 鳴神春香は、ぼーっと天井を見ていた。

「ふぇ?」

「聞いてなかったでしょ」

「聞いてたよ」

「絶対聞いてないじゃん」

「聞いてた」

「じゃあ何するの?」

「……魔法開発?」

「聞いてたんだ……」

 吉田が呆れる。

 その様子を。

 部屋の隅から二人が眺めていた。

「……」

 フィクアリー。

 現在――無職。

 魔法も使えない。

 神崎家に居候中。

 学院を卒業してからというもの、ほぼ何もせずに日々を過ごしている。

 今日もクッキーを一枚持ったまま、ソファに座っていた。

 その隣にはアイザ。

 特隊所属となった彼女も、今日は珍しく仕事を離れている。

「フィクアリー」

「ん」

「あなた、さっきからずっと二人見てない?」

「見てる」

「……楽しい?」

「うん」

「即答なのね」

 フィクアリーはクッキーをかじる。

「仲良い」

「まあ……そうね」

 アイザも二人を見る。

 吉田は魔法陣を組み立てている。

 鳴神はその横で、ぼんやりと杖を眺めている。

「鳴神先輩」

「ん?」

「ここ、こうした方がいいと思います」

「……」

 鳴神が魔法陣を見る。

「ほんとだ」

「先輩が作ったんですよ?」

「そうだった」

「忘れてたんですか!?」

「ふぇ……」

「ふぇじゃないですよ!」

 吉田が頭を抱える。

 しかし。

 鳴神は気にした様子もなく、吉田の肩へ少し寄りかかった。

「風美」

「何ですか?」

「疲れた」

「まだ何もしてないじゃないですか」

「でも疲れた」

「……もう」

 吉田は呆れながらも。

 鳴神をそのままにしている。

 むしろ。

 少しだけ嬉しそうだった。

 フィクアリーがじっと二人を見る。

「……」

「どうしたの?」

 アイザが尋ねる。

「仲良い」

「さっきも言ってたわよ」

「もっと仲良い」

「……そうね」

 アイザも少し笑った。

 吉田と鳴神は。

 本人たちは特に意識していない。

 自然に。

 当たり前のように。

 距離が近い。

「先輩、魔力回路こっちです」

「うん」

「ここをこうして――」

「風美」

「はい?」

「手、貸して」

「……何に?」

「魔力調整」

「ああ……」

 吉田が鳴神の手を握る。

「こうですか?」

「うん」

「……」

「……」

 二人とも普通の顔。

 フィクアリーがクッキーを食べる手を止めた。

「……」

「何?」

 アイザが聞く。

「……いい」

「何が?」

「いい」

 フィクアリーの表情が。

 ほんの少し明るくなった。

 卒業してから。

 魔法も使えず。

 仕事もなく。

 何をしていいのか分からない。

 そんな日々だった。

 けれど。

 こうして誰かが楽しそうにしているのを見ると。

 少しだけ。

 心が軽くなる。

「……ふふ」

 フィクアリーが笑った。

 アイザが目を丸くする。

「……笑った?」

「笑ってない」

「いや、今笑ったわよ」

「気のせい」

「珍しい」

「……」

 フィクアリーは再びクッキーをかじった。

 その頃。

 吉田と鳴神の魔法開発は進んでいた。

「じゃあ、次は雷魔法」

 鳴神が立ち上がる。

「はい」

「ちょっと離れて」

「分かりました」

 吉田が距離を取る。

 鳴神が杖を構えた。

 その表情が変わる。

 先ほどまでのふわふわした雰囲気が消えた。

「……」

 魔力が集まる。

 空気が震える。

 バチッ。

 紫色の光が杖の先で弾けた。

「……!」

 吉田が目を見開く。

「すごい……」

 雷が走る。

 しかし。

 一般的な雷魔法とは明らかに違った。

 魔力の流れが。

 一定方向へ流れ続けていない。

「交流……?」

 吉田が呟く。

 鳴神が頷く。

「うん」

「これ、雷そのものを……?」

「流れを変えてる」

「……」

 吉田は魔法陣を見る。

「これ、制御難しくないですか?」

「難しい」

「ですよね」

「三回失敗した」

「三回?」

「もっと」

「……」

 鳴神が少し考える。

「十七回」

「めちゃくちゃ失敗してるじゃないですか!」

「でもできた」

「まあ……そうですけど」

 吉田が笑う。

「先輩、やっぱり魔法のことになると凄いですよね」

「そう?」

「そうですよ」

「ふぇ……」

「そこで照れないでください」

 鳴神が少し笑った。

 そして。

「風美も凄いよ」

「……え?」

「去年よりずっと強くなった」

「……」

 吉田の顔が少し赤くなる。

「そ、そういうの急に言わないでくださいよ」

「なんで?」

「なんでって……」

 鳴神は本当に分かっていない。

「褒めただけ」

「……」

 吉田は顔を背けた。

 その様子を見ていたフィクアリーが。

「……」

 小さく呟いた。

「付き合ってるみたい」

「えっ!?」

 吉田が勢いよく振り返る。

「な、何言ってるんですか先輩!?」

「だって」

 フィクアリーは二人を見る。

「仲良い」

「いや、それは……」

「恋人みたい」

「……っ!」

 吉田の顔が一気に赤くなる。

「ち、違いますから!」

 アイザが吹き出した。

「ふふっ……」

「アイザ先輩まで!」

「いや、だって……」

 アイザは笑いながら二人を見る。

「あなたたち、かなり距離近いわよ?」

「……」

 吉田が固まる。

 そして。

「……先輩」

「ん?」

 鳴神が首を傾げる。

「私たち、そんなに近いですか?」

「うん」

「そうなんだ」

「いや、そこで納得しないでください!」

「でも」

 鳴神が吉田を見る。

「風美の隣、落ち着く」

「――」

 吉田の顔が真っ赤になる。

「……先輩」

「ん?」

「そういうこと……普通に言うのやめてください……」

「なんで?」

「恥ずかしいからです!」

「じゃあ」

 鳴神が少し考える。

「小声で言う?」

「そういう問題じゃないです!」

 フィクアリーが。

「……」

 また笑った。

 アイザも。

「これはいいわね」

「アイザ先輩まで!?」

 吉田が頭を抱える。

「もう……!」

 しかし。

 鳴神はそんな吉田の隣へ座る。

「風美」

「……何ですか」

「顔赤い」

「誰のせいですか!」

「私?」

「先輩です!」

「そっか」

 鳴神は笑う。

 そして。

 何でもないことのように。

 吉田の肩へ頭を乗せた。

「じゃあ、もう少しここにいる」

「……!」

 吉田は固まる。

「……先輩」

「ん?」

「近いです」

「嫌?」

「……」

 吉田はしばらく黙って。

「……嫌とは言ってません」

「じゃあいいね」

「……もう」

 フィクアリーがクッキーを食べる。

「……幸せ」

 アイザも頷く。

「分かるわ」

「なんで二人とも見守る側なのよ……」

 吉田は恥ずかしそうに顔を伏せる。

 鳴神はそんな吉田を見て。

 また笑った。

「風美」

「はい?」

「大会、頑張ろうね」

「……はい」

「勝とう」

「もちろん」

 吉田が顔を上げる。

 その目には。

 先ほどまでの恥ずかしさとは違う。

 強い意志が宿っていた。

「僕も、負けませんから」

「うん」

 鳴神が頷く。

「私も」

 そして。

 二人は再び魔法陣へ向き合った。

 その背後では。

「……」

「……」

 アイザとフィクアリーが静かに二人を見守っている。

「フィクアリー」

「ん」

「最近、少し元気になった?」

「……うん」

「理由は?」

 フィクアリーは少し考え。

 二人を見た。

「……これ」

「これ?」

「二人」

 そして。

 小さく笑う。

「見てると、なんか楽しい」

「そう」

 アイザも笑った。

 魔法大祭まで。

 あと一週間。

 学院では。

 それぞれの生徒が。

 自分の魔法を磨いていた。

 その一方で。

 王宮では――

 二人の少女が。

 新たな魔法を作り続けていた。

 そして。

 その様子を見守る二人の卒業生も。

 少しだけ。

 笑顔を取り戻していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。