第106話 Bブロック 代表戦
魔法大祭、第二日目。
トーナメント戦も、いよいよ終盤へ差しかかっていた。
Aブロックでは神崎おとが代表の座を勝ち取った。
そして次は――
Bブロック代表戦。
「さあああああ!!」
実況の声が闘技場を揺らす。
「Bブロック代表戦!!」
観客席から大歓声が上がった。
「まずは――!」
「二年! 岡崎振護!!」
岡崎がフィールドへ入る。
去年、一年生ながら五キロメートル競争で優勝。
その理由は――古代魔法。
自身の身体を「波」へと変化させる特殊な魔法。
波長。
振幅。
周期。
それらを自在に操り、自分自身を物理現象へ近づける。
そして先ほどの試合では、三年生のミョセフ・アボカドを撃破。
その戦いを見ていた観客たちは、すでに知っている。
岡崎は――速い。
そして、強い。
「対するは――!」
「三年! シルヴィア・クロフォード!!」
大歓声。
シルヴィアが静かに入場する。
光魔法の使い手。
昨日までなら「目立たない天才」と呼ばれていた少女。
しかし。
今日の一回戦で神道聖子を撃破。
戦闘中に相手の魔法へ適応し、自らの光魔法を進化させた。
「よろしくお願いします」
シルヴィアが頭を下げる。
「よろしくお願いします!」
岡崎も元気よく頭を下げた。
審判が二人を見る。
「準備はいいな?」
二人が構える。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!!」
――瞬間。
岡崎が消えた。
「……!」
シルヴィアの目が見開かれる。
次の瞬間。
「そこ!」
岡崎がシルヴィアの横を通過した。
――ドン!!
遅れて衝撃音が響く。
「速い!!」
実況が叫ぶ。
シルヴィアはすぐに振り返る。
しかし。
もういない。
右。
左。
背後。
岡崎の姿が次々と現れては消えていく。
「……!」
シルヴィアが杖を振る。
「閃光弾!」
光が炸裂する。
闘技場が真っ白に染まる。
だが――
「そこじゃない!」
岡崎の声。
シルヴィアが振り向く。
目の前。
「――っ!」
拳。
シルヴィアは咄嗟に光の盾を展開する。
――ドゴォン!!
盾が大きく歪んだ。
「くっ……!」
シルヴィアの身体が後ろへ飛ぶ。
しかし、何とか着地。
「なるほど……」
シルヴィアが息を整える。
「速度型……」
「そうです!」
岡崎が笑う。
「だったら――!」
シルヴィアが杖を掲げる。
「光壕斬!」
巨大な光の斬撃が地面を走る。
先ほど神道聖子を撃破した技。
観客席が沸く。
「出た!」
「シルヴィアの必殺技だ!」
光が岡崎へ迫る。
しかし。
岡崎は避けなかった。
「……?」
身体が――
揺れる。
一定の周期。
一定の波長。
光の斬撃が岡崎へ触れる。
――瞬間。
岡崎の身体が、その光と同じように揺れた。
光の進行が乱れる。
そして――
岡崎の身体をすり抜ける。
「……え?」
シルヴィアが固まる。
観客席も静まり返る。
天城は目を見開いた。
(波長を合わせた……?)
岡崎は笑った。
「光も波ですから」
その言葉に、シルヴィアの表情が変わる。
「……そういうこと」
シルヴィアは理解した。
自分が昨日から積み上げてきた技術。
相手の魔法を見て、理解して、対応する。
それを――
岡崎はたった一瞬で突破した。
「なら!」
シルヴィアが光を放つ。
「閃光!」
無数の光球。
岡崎を包囲する。
「光刃!」
さらに光の刃。
上下左右。
逃げ道を潰す。
「光壕斬!」
最後に巨大な斬撃。
完全包囲。
「これなら――!」
シルヴィアが叫ぶ。
しかし。
岡崎は――
笑った。
「全部、波ですよね?」
身体が揺れる。
一つ。
二つ。
三つ。
波長を変える。
振幅を変える。
周期を変える。
岡崎の身体が、まるで液体のように形を変えながら光の間を抜けていく。
閃光。
回避。
光刃。
回避。
光壕斬。
――無効化。
「な……!」
シルヴィアが後退する。
岡崎が一歩踏み込む。
「速い……!」
シルヴィアも必死に光魔法を展開する。
だが。
もう遅かった。
岡崎は、すでにシルヴィアの魔法の特徴を理解していた。
光の進行。
発動速度。
攻撃範囲。
そして――
光そのものの性質。
「そこ!」
岡崎が踏み込む。
「っ!」
シルヴィアが光の盾を展開。
岡崎の拳が触れる。
――バァン!!
盾が砕けた。
「まだ!」
シルヴィアが後退しながら光刃を放つ。
岡崎は身体を横へ流す。
刃がすり抜ける。
そのまま距離を詰める。
「なっ……!」
「終わりです!」
岡崎が拳を振り抜く。
――ドォン!!
シルヴィアの防御魔法が完全に砕けた。
身体が大きく吹き飛ぶ。
そして――
場外。
審判が一瞬だけ確認し、旗を上げた。
「勝者!!」
実況の声が響き渡る。
「二年!!」
「岡崎振護!!」
――うおおおおおおおおお!!
会場が爆発するような歓声に包まれた。
「強すぎる!!」
「シルヴィアの光壕斬が効かなかったぞ!?」
「何だあの魔法!?」
「波に変わった!?」
岡崎は自分の手を見ながら、少し驚いた顔をしていた。
「……勝った」
そして。
「やったぁぁぁ!!」
両手を上げる。
観客席からさらに歓声が上がる。
シルヴィアは場外から立ち上がる。
悔しそうな表情。
だが、その目にはどこか納得したような光があった。
「完敗……ですね」
岡崎が駆け寄る。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ」
シルヴィアが苦笑する。
「私は戦いながら相手に適応できたと思っていたけど……」
「はい?」
「あなたは、それ以上だった」
シルヴィアは岡崎を見る。
「私が魔法を変える前に、あなたのほうが対応してしまう」
「……?」
岡崎は首を傾げる。
「そうなんですか?」
「そこからなのね……」
シルヴィアは思わず笑った。
観客席。
天城は腕を組んでいた。
(圧勝だな……)
ミョセフ戦とは、明らかに違う。
岡崎はほとんど攻撃らしい攻撃を受けていない。
シルヴィアの光魔法を、波として捉え。
その性質を利用して無効化。
そして、圧倒的な速度で接近。
たった数回の攻防で勝負を決めた。
(岡崎……)
天城は少し笑う。
(去年より、明らかに強くなってる)
実況が叫ぶ。
「Bブロック代表は――!!」
「二年、岡崎振護!!」
大歓声。
これで明日のチーム競技へ進む代表が決まった。
Aブロック――神崎おと。
Bブロック――岡崎振護。
そして。
まだCブロック、Dブロックが残っている。
魔法大祭、第二日目。
代表戦は、さらに激しさを増していく。
――そして観客たちは、まだ知らない。
この二人が。
明日のチーム戦で、再び同じフィールドに立つことを。




