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105/112

第105話 Aブロック 代表戦

 魔法大祭、第二日目。

 Aブロックのトーナメントは、ついに最後の一戦を迎えていた。

 ここまで勝ち上がってきた二人。

 二年生――神崎おと。

 三年生――アイランド・アームストロング。

 勝者はAブロック代表として、明日のチーム競技へ進む。

「さあああああ!!」

 実況の声が闘技場へ響き渡る。

「Aブロック代表戦!!」

 観客席から大歓声が上がる。

「まずは――!」

「二年! 神崎おと!!」

 おとがフィールドへ入る。

 小さな身体。

 短い杖。

 その表情は、いつも通り落ち着いていた。

 しかし。

 観客の誰もが知っている。

 この少女は、ただの二年生ではない。

 炎魔法。

 そして――

 正体不明の魔法。

 《共振》

 去年から続く謎の魔法。

 その仕組みを完全に理解している者は、ほとんどいない。

「対するは――!!」

 実況の声がさらに大きくなる。

「三年! アイランド・アームストロング!!」

 ドォォォォォン!!

 歓声。

 アイランドがフィールドへ入っただけで、空気が変わる。

 鍛え上げられた身体。

 巨大な体格。

 そして――

 今年から本格的に使い始めた、身体強化魔法。

 昨日の試合では、ほとんど魔法を使わずに勝利した。

 だが今日は違う。

「今日は……使うんですね」

 おとが言う。

「ああ!」

 アイランドが笑う。

「せっかくの代表戦だからな!」

 アイランドの身体から、淡い魔力が立ち上る。

 筋力。

 反射速度。

 瞬発力。

 耐久力。

 身体能力そのものを魔力によって引き上げる。

 単純。

 だからこそ強い。

 天城は観客席から二人を見ていた。

(おととアイランド……)

 どちらも強い。

 だが、戦い方は正反対だ。

 一方は、正体の分からない魔法を使う天才。

 もう一方は、圧倒的な身体能力で正面から突破する怪物。

 天城は少し笑った。

(これは面白いぞ)

 審判が二人を見る。

「準備はいいな?」

 二人が頷く。

「それでは――」

 旗が上がる。

「開始!!」

 ――瞬間。

 アイランドが消えた。

「……!」

 おとの目が見開かれる。

 次の瞬間。

 目の前。

「おおおおおっ!!」

 アイランドの拳が振り抜かれる。

 おとは横へ跳んだ。

 拳が空を切る。

 ――ドゴン!!

 拳圧だけで、地面の砂が大きく舞い上がった。

「速い!」

 実況が叫ぶ。

 アイランドは止まらない。

 踏み込む。

 右。

 左。

 さらに蹴り。

 おとは次々と回避する。

「速すぎる……!」

 観客席から声が上がる。

 おとは杖を振った。

「炎虎!」

 炎が虎の形となって飛び出す。

 アイランドは真正面から――

「おおおおおっ!!」

 殴った。

 炎虎が吹き飛ぶ。

「うそだろ!?」

 炎そのものを拳で散らした。

 アイランドはそのまま走る。

 おとは後退する。

「炎壁!」

 巨大な炎の壁が立ち上がる。

 しかし。

「突破する!」

 アイランドが突っ込む。

 炎をまといながら、そのまま走り抜ける。

「……!」

 おとの目が細くなる。

(正面から来る)

 杖を構える。

「共振」

 空気が震えた。

 ――ゴォォォォン。

 アイランドの足元が揺れる。

 身体強化魔法によって強化された身体へ、振動が伝わっていく。

「……!」

 アイランドが一瞬だけ動きを止める。

 しかし。

「まだまだ!!」

 そのまま踏み込んだ。

 ドン!!

 地面が砕ける。

「効かない!?」

 実況が叫ぶ。

 アイランドは共振を受けながらも前へ進む。

 おとは後ろへ跳ぶ。

「なるほど……」

 アイランドが笑う。

「これが、おとの魔法か!」

 さらに加速。

 おとは炎を放つ。

「炎槍!」

 数本の炎の槍。

 アイランドは身体を捻って回避。

 一本。

 二本。

 三本。

 そして――

「そこだ!」

 おとの目の前へ到達。

「っ!」

 拳。

 おとは杖を交差させて防御する。

 ――ドン!!

 身体が大きく吹き飛ぶ。

「おと!!」

 観客席から神崎信之の声が飛ぶ。

 おとは地面を滑りながら、何とか立ち上がった。

「……強い」

 アイランドが構える。

「まだいけるよな?」

「もちろん」

 おとは杖を握り直す。

「ここからです」

 再び二人が走る。

 今度は、おとが先に仕掛けた。

「炎虎!」

 炎が左右から挟み込む。

 アイランドは一匹を拳で消し飛ばす。

 もう一匹。

 ――ドン!!

 それも突破。

 だが、その瞬間。

「共振」

 空気が震えた。

 炎。

 地面。

 アイランドの身体。

 周囲に存在するあらゆるものが、微かに振動する。

 アイランドが歯を食いしばる。

「……っ!」

 身体強化魔法で耐える。

 だが。

 おとは、その瞬間を待っていた。

「今」

 杖を振る。

 炎が一点へ集まる。

「――紅蓮」

 巨大な炎が、アイランドへ向かって放たれた。

「うおおおおおっ!!」

 アイランドは逃げない。

 両腕を構える。

 身体強化魔法を最大まで引き上げる。

「いける!!」

 炎へ突っ込む。

 ――ドォォォォォン!!

 炎が爆ぜる。

 観客席から悲鳴と歓声が同時に上がる。

 煙。

 砂煙。

 炎。

 その中から――

「まだだ!!」

 アイランドが飛び出した。

「うおおおおおお!!」

 おとへ迫る。

 速い。

 これまで以上に速い。

 おとの目の前。

 拳が振り上げられる。

「――っ!」

 おとは咄嗟に杖を向ける。

「共振!!」

 ――ドンッ!!

 アイランドの拳が止まった。

 ほんの一瞬。

 身体が揺らぐ。

 だが――

「止まらない!!」

 アイランドが拳を振り抜く。

 おとは身体を捻ってかわす。

 拳が頬の横を通過する。

 そして。

 おとの杖が――

 アイランドの身体へ触れた。

「……共振」

 小さな声。

 直後。

 アイランドの身体全体が大きく揺れた。

「――っ!!」

 膝が落ちる。

 身体強化魔法が一瞬だけ乱れた。

 おとはその隙を逃さない。

「炎!」

 小さな炎がアイランドの足元へ。

 ――ドン!!

 爆風。

 アイランドの身体が後ろへ飛ぶ。

 しかし。

 アイランドは空中で身体を捻った。

 着地。

 ――ズザァァァッ!!

 ギリギリで踏みとどまる。

「……はぁ……」

 アイランドが息を整える。

 そして笑った。

「やっぱり……強いな」

 おとは杖を構えたまま答える。

「アイランド先輩も強いです」

「でも――」

 アイランドが自分の身体を見る。

 身体強化魔法の維持が、明らかに不安定になっている。

 共振。

 直接的な破壊力だけではない。

 身体強化によって増幅された身体へ、内部から振動を送り込まれる。

 相性が悪い。

 アイランドはそれを理解した。

「俺じゃ、あと一歩届かないか」

 おとは何も言わない。

 アイランドは笑った。

「参った!」

 杖を下ろす。

 審判が一瞬驚いた後、旗を掲げた。

「勝者――!!」

「二年、神崎おと!!」

 会場が爆発する。

「うおおおおおおおお!!」

「神崎おとが勝った!!」

「アイランド相手に!?」

「共振って結局なんなんだよ!!」

 観客席は大混乱だった。

 天城は黙ってフィールドを見ていた。

(アイランドが……負けた)

 昨日。

 ほぼ魔法を使わずに相手を圧倒したアイランド。

 今日は身体強化魔法まで使った。

 それでも。

 神崎おとには一歩届かなかった。

 アイランドがフィールド中央へ歩いていく。

「おと」

「はい」

「明日のチーム戦でもよろしくな!」

 おとが笑う。

「はい!」

 二人が握手する。

 そして。

 実況が叫ぶ。

「Aブロック代表は――!!」

「二年、神崎おと!!」

 歓声が響き渡る。

 Aブロック代表。

 神崎おと。

 今年もまた。

 謎に包まれた天才少女が、トーナメントを一つ勝ち上がった。

 だが――

 観客の誰も知らない。

 神崎おとが使った《共振》が、一体何をしているのか。

 そして。

 その魔法を――

 天城理人ですら、まだ完全には理解できていないことを。

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