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第104話 恒例 お昼休憩

 午前中の試合が一通り終わった。

 魔法大祭、一日目。

 観客たちは一度フィールドから離れ、昼食を求めて移動を始めている。

「腹減った……」

 天城理人は腹を押さえながら歩いていた。

「朝食べただろ」

 隣を歩くアイランドが呆れたように言う。

「それは朝の話だろ」

「まだ昼になったばっかりじゃん」

「だから昼飯を食うんだよ」

「理屈になってないよ……」

 その後ろでは、神崎おとが楽しそうに歩いている。

「今日のお昼、何食べよっかなー」

「購買行く?」

「行く!」

 すると前方から声が飛んできた。

「おーい! こっちだぞ!」

 天城たちが顔を上げる。

 そこには、懐かしい顔が並んでいた。

「……おお」

 天城が少し驚く。

 そこにいたのは、卒業したOBたちだった。

 フィクアリー・パール。

 一つ上の先輩。

 少し前まで、廃人ヒキニートになりかけていた人物とは思えないほど、今日は普通に元気そうだった。

 その隣にはアイザ・エレスト。

 こちらも一つ上。

 現在は特別魔法隊で対人訓練を受けている。

 そして――

「よっ」

 石破武。

 魔導隊所属。

 現在は小隊長。

 数学魔法の天才としても知られている。

 さらにその隣。

「遅かったな」

 神崎信之。

 天城たちより二つ上の先輩であり、現在は魔導隊の副隊長。

 そして――

「……相変わらず集まってるな」

 天城が言った。

「恒例行事だからな」

 石破が笑う。

「魔法大祭の昼飯は、みんなで食う」

「去年もそうだったっけ?」

「そうだぞ」

 フィクアリーが答える。

「去年は石破がめちゃくちゃ食ってた」

「余計なこと言うな」

「今年も食べる?」

「食う」

 即答だった。

 天城たちは適当な場所を確保し、全員で昼食を広げる。

 フィクアリーは普通の弁当。

 アイザは持参した上品そうな弁当。

 石破は大量のパンと弁当。

 神崎おとは普通の購買飯。

 そして天城も弁当を開く。

「いただきます」

 全員が食べ始める。

 すると神崎信之が、どこからともなく大量の食べ物を取り出した。

「ほら」

「……なんでそんなに持ってるんですか?」

 天城が聞く。

「買った」

「何を?」

「全部」

「全部?」

 信之の周囲には、弁当、パン、飲み物、菓子、果物。

 昼食というより、ちょっとした宴会だった。

「先輩……」

 おとが呆れる。

「また奢る気?」

「別にいいだろ」

「よくないよ。去年もそうだったじゃん」

「俺が食わせたいんだからいいんだよ」

「羽振り良すぎない?」

 アイランドも苦笑する。

「副隊長ってそんなに給料いいんですか?」

「結構いいよ」

 信之が即答した。

「なるほど」

 天城は納得した。

「……いや、なるほどじゃないでしょ」

 アイランドが突っ込む。

 石破が笑いながらパンを頬張る。

「信之は昔からこうだぞ」

「昔から?」

「後輩に飯を奢るのが好きなんだよ」

「そうなんですか」

「俺も何度も奢ってもらった」

「へえ」

 天城が信之を見る。

「じゃあ俺も遠慮なく――」

「お前は自分の分食え」

「なんで!?」

「お前は普通に食ってるだろ」

「ケチ!」

「お前にはもう十分食わせた」

 周囲から笑い声が上がる。

 そんな中、フィクアリーが黙々と弁当を食べていた。

 天城がちらりと見る。

「フィクアリー先輩」

「ん?」

「最近どうです?」

「んー?」

 フィクアリーは少し考える。

「普通」

「普通?」

「普通に起きて、普通に食べて、普通に寝てる」

「それはかなり回復してるじゃん」

「でしょ?」

 フィクアリーは妙に自信ありげに胸を張った。

「この前まで、危うく完全に何もしたくない人間になるところだったから」

「自覚はあったんですね」

「まあね」

 フィクアリーは笑う。

 しかし、その原因については本人もよく分かっていない。

 何故、自分が何をやっても上手くいかなかったのか。

 何故、他の人間なら普通にできることが、自分にはできなかったのか。

 本人にも答えは出ていない。

「でも今は元気」

「それならよかったです」

 天城がそう言うと、フィクアリーは少しだけ笑った。

「ありがと」

 その隣で、アイザが静かに弁当を食べている。

「アイザ先輩は特隊どうです?」

「厳しいわよ」

 即答。

「毎日、対人訓練」

「対人……」

「魔法を使った実戦形式もあるわ。もちろん安全管理はされているけれど」

「へえ……」

 天城は少し興味を持った。

「やっぱり強くなります?」

「なるわね」

 アイザは箸を置く。

「相手が人間だと、魔物とは全然違うもの」

「どう違うんです?」

「考えて動くから」

「……なるほど」

 天城は少し考える。

「つまり、相手も科学者みたいなものか」

「その例えはよく分からないけど、まあ似たようなものね」

 その会話を聞いていた石破が笑う。

「天城、お前も魔導隊に来るか?」

「俺ですか?」

「ああ」

「嫌です」

「即答かよ」

「だって数学魔法とか難しそうだし」

「そこかよ!」

 石破が笑いながら天城の肩を叩く。

「数学は面白いぞ」

「聞いただけで頭痛くなります」

「お前、科学系の魔法はあれだけ作るくせに数学嫌いなのか?」

「嫌いなものは嫌いです」

「もったいねぇなぁ……」

 その時。

 遠くから大きな声が響いた。

「限定ポテチ、残ってるかなぁぁぁ!!」

 全員が振り向く。

 校舎側から走ってくる人物。

 ニューゴン先生だった。

「先生……?」

 天城が目を細める。

 ニューゴン先生は購買部へ猛ダッシュしていた。

「限定だからな!!」

 そのまま購買部へ消えていく。

「……何してんだ、あの先生」

 石破が呆れる。

「毎年恒例だよ」

 フィクアリーが答える。

「魔法大祭限定のポテチ」

「先生、ああいうの好きなんだ……」

 おとが笑う。

「去年も買ってたよ」

 アイランドが続ける。

「しかも結構早く売り切れるんだよね」

「ポテチでそんなに必死になる?」

 天城が言った直後。

「買えたぞぉぉぉ!!」

 遠くからニューゴン先生の歓喜の声が響いた。

 手には限定ポテチが三袋。

「三袋!?」

 天城が思わず立ち上がる。

 ニューゴン先生は満面の笑みで戻ってきた。

「これぞ魔法大祭の醍醐味だ!」

「絶対違うだろ……」

 天城は呆れながら座り直す。

 しかし。

 こうして卒業した先輩たちと飯を食う時間は、悪くなかった。

 去年まで当たり前だった光景。

 だが今年は違う。

 天城たちも三年生。

 この魔法大祭が終われば、次はない。

「……」

 天城は箸を止める。

「どうした?」

 信之が聞く。

「いや」

 天城はフィールドの方を見る。

 午後からも、まだ試合は続く。

「最後の魔法大祭なんだなって」

 その言葉に、一瞬だけ全員が静かになる。

 石破が笑った。

「なら、最後まで楽しめ」

「……はい」

 天城は弁当を食べる。

「午後も勝ちますよ」

「おう」

 OBたちも笑う。

 魔法大祭、一日目。

 昼休憩は、いつも通り賑やかだった。

 ――そして午後。

 再び、戦いの時間が始まる。

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