↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
103/112

第103話 Dブロック 2組目

第103話 Dブロック 2組

 第一試合が終わり、会場の熱気が少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 実況席から、次の組み合わせが告げられた。

「続いてDブロック第二組!」

 観客席がざわめく。

「三年生、クラリス・アルベド!」

 フィールドへ、一人の少女が歩み出る。

 落ち着いた表情。

 その手には、特別な魔道具も武器もない。

「対するは――一年生、フィオナ・ミルズ!」

 反対側から、小柄な少女が現れる。

 胸元には、一つの宝石がついたネックレス。

 それを見た瞬間、観客席の一部から声が上がった。

「……あれ、まさか」

「『星紡ぎの灯火』じゃないか?」

「本物なのか!?」

 ざわめきが一気に広がる。

 フィオナ・ミルズ。

 一年生でありながら、魔道具を扱う少女。

 本来、魔道具の製作は二年生以降で本格的に学ぶ。

 だが彼女には、それ以前から一つの特殊な魔道具があった。

 幼い頃に拾った、謎の宝石。

 後に神器として認定されたもの。

 その名は――

 『宝珠(星紡ぎの灯火)』。

 表向きの能力は、分析。

 相手が放った高密度MDPを分解し、吸収。

 そして自らのMTPへ変換する。

 つまり――

 攻撃すればするほど、フィオナの魔力が増える。

 かつて、その存在が大きなニュースになったこともある。

 フィオナ自身を知らなくても、神器の名前だけは知っている者が多かった。

「……有名人じゃん」

 観客席の天城が呟く。

 隣にいたアイランドが頷いた。

「幼い頃に神器を拾ったって話、私も聞いたことある」

「でも……クラリス先輩と相性悪くない?」

「うん」

 天城はフィールドを見つめる。

「かなり悪い」

 その理由は明白だった。

 クラリス・アルベドの得意魔法。

 それは――

「反射魔法」

 クラリスが静かに手を上げる。

「準備はできています」

 フィオナも頷いた。

「私も大丈夫です」

 実況が声を張り上げる。

「それでは――!」

 会場が静まり返る。

「Dブロック第二組!」

「――試合開始!!」

 瞬間。

 フィオナが右手を前へ出した。

「――火球」

 轟ッ!!

 巨大な炎の塊がクラリスへ飛ぶ。

 しかしクラリスは動かない。

「反射」

 目の前に透明な魔法の境界面が現れた。

 火球がそこへ衝突する。

 ――バンッ!!

 そして。

 同じ角度で、跳ね返った。

「!?」

 フィオナが目を見開く。

 火球はそのまま自分へ戻ってくる。

 だが――

「宝珠」

 胸元の宝石が輝いた。

 火球がフィオナへ届く直前。

 炎が、まるで吸い込まれるように消えた。

 静寂。

「……え?」

 観客席がざわめく。

 フィオナの胸元で、宝石が淡く輝いている。

「吸収した……?」

 天城が呟いた。

「攻撃魔法そのものを分解してる」

 フィオナの表情は変わらない。

「もう一度いきます」

 今度は氷。

「氷槍!」

 数十本の氷の槍が一斉に飛ぶ。

 クラリスは一歩だけ横へ移動した。

「反射」

 魔法の境界面が複数展開される。

 氷槍が次々と跳ね返り、別々の角度からフィオナへ迫る。

 しかし――

「吸収」

 またしても消えた。

 氷槍は一本残らず、フィオナの宝珠へ吸い込まれる。

「……なるほど」

 クラリスが初めて眉を動かした。

「攻撃魔法を反射しても、その魔法を吸収される」

「はい」

 フィオナが答える。

「なので、私には効きません」

 観客席から声が飛ぶ。

「クラリスどうするんだ!?」

「攻撃したら相手の魔力が増えるぞ!」

「相性悪すぎるだろ!」

 クラリスは静かに目を閉じた。

「……なら」

 目を開く。

「攻撃しなければいい」

 クラリスは構えを解いた。

 完全な防御。

 フィオナが少し驚く。

「攻撃しないんですか?」

「ええ」

「では、私からいきます」

 フィオナが手を掲げる。

「雷撃」

 轟音。

 雷がフィールドを駆け抜ける。

「反射」

 クラリスの魔法が雷を受け止める。

 雷は角度を変え、フィールドの外へ逃げていった。

「……」

 フィオナは再び魔法を放つ。

「炎槍」

「反射」

「氷壁」

「反射」

「風刃」

「反射」

 クラリスはすべての攻撃を受け止める。

 だが、一切攻撃には転じない。

 魔法を跳ね返しても、フィオナに当たる直前で角度を変え、別の方向へ逃がす。

 その光景を見て、天城が呟いた。

「うまい……」

「何が?」

 アイランドが聞く。

「反射魔法って、ただ魔法を跳ね返してるんじゃない」

 天城はフィールドを見る。

「入射角と反射角が同じなら、反射後の方向は完全に決まる」

「つまり?」

「境界面をどこに置くかを変えれば、魔法を好きな方向へ誘導できる」

 クラリスはそれを完璧にやっていた。

 鏡面反射。

 乱反射。

 さらには光属性魔法を利用した全反射。

 相手の攻撃を無力化しながら、フィオナへ一切の魔力を与えない。

「でも……」

 天城の表情が曇る。

「フィオナも、それを狙ってるんじゃないか?」

「え?」

 その瞬間。

 フィオナの胸元が、今までとは比べものにならないほど強く輝いた。

 ――ゴォォォォォン!!

 会場全体が震える。

「なっ……!?」

 クラリスが目を見開く。

 フィオナの周囲に、膨大な魔力が渦巻いていた。

「これまでの攻撃……全部、吸収していたのか」

 天城が立ち上がる。

 フィオナが静かに手を上げた。

「……十分です」

 クラリスの顔から余裕が消えた。

「あなたは……」

「はい」

 フィオナの宝珠が輝く。

「私に魔力をくれました」

 次の瞬間。

 フィールド上空に巨大な魔法現象が発生した。

 炎。

 雷。

 氷。

 風。

 それらが混ざり合い、一つの巨大なエネルギーとなっていく。

「これは……!」

 観客席から悲鳴が上がる。

 教師たちも立ち上がった。

「一年生が使える規模じゃないぞ!」

「止められるか!?」

 しかしフィオナは詠唱しない。

 魔法陣すら展開しない。

 ただ、願う。

「――消えてください」

 巨大な魔力が、クラリスへ向かって放たれた。

 轟音。

 フィールド全体を覆い尽くすほどの大技。

 クラリスは逃げない。

「……そう」

 目の前に、一つの境界面を作る。

「あなたがそう来るなら――」

 クラリスは静かに構えた。

「私も、反射するだけ」

 巨大魔法が迫る。

 距離、十メートル。

 五メートル。

 一メートル。

「反射――!!」

 ドォォォォォォン!!!

 巨大な魔法が境界面へ衝突した。

 観客席が揺れる。

 誰もがクラリスの敗北を予想した。

 しかし。

 巨大魔法は――

 止まった。

 そして。

 ゆっくりと方向を変える。

「……え?」

 フィオナが呟く。

 巨大な魔法が、フィオナへ向いた。

「うそ……」

 クラリスが叫ぶ。

「入射角と反射角は――等しい!!」

 巨大魔法が、そのままフィオナへ戻っていく。

「っ!」

 フィオナが宝珠を掲げる。

「吸収――!」

 宝珠が光る。

 だが。

 吸収しきれない。

「……っ!」

 フィオナの足が後ろへ滑る。

 魔力の奔流がフィオナを包み込む。

「うわああああっ!!」

 ――ドンッ!!

 フィオナがフィールドの外へ吹き飛ばされた。

 審判が即座に判定する。

「フィオナ・ミルズ、場外!」

 一瞬の静寂。

 そして――

「勝者!」

 実況の声が響き渡る。

「クラリス・アルベド!!」

 会場が爆発するような歓声に包まれた。

「うおおおおおお!!」

「反射したぁぁぁ!!」

「すげえ!!」

 クラリスはゆっくり息を吐く。

 フィオナは立ち上がり、胸元の宝珠を見る。

 そしてクラリスへ視線を向けた。

「……すごいです」

「あなたもね」

 クラリスは微笑む。

「正直、あんな魔力を一年生が持っているとは思わなかったわ」

「私も……」

 フィオナは少し笑った。

「自分の攻撃を返されるとは思いませんでした」

 その会話を聞きながら、天城はフィールドを見つめていた。

 フィオナの胸元。

 あの宝珠。

「……でも」

 天城は小さく呟く。

「本当に、あれだけなのか?」

 フィオナは一切魔法陣を使わなかった。

 詠唱もしていない。

 それなのに、あれほどの魔法を発動した。

 天城の科学者としての直感が告げている。

 ――あの神器には、まだ何かある。

 フィオナ・ミルズ。

 彼女が幼い頃に拾った神器。

 その「本当の力」を、この時まだ誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。