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第102話 Dブロック 1組目

第102話 Dブロック 1組目

 闘技場には、まだ先ほどまでの熱気が残っていた。

 Cブロックの試合を終え、次に呼ばれたのは三年生。

「第一試合!」

「三年・煙道正道!」

 観客席から大きな歓声が上がる。

 去年、天城理人と激戦を繰り広げた炎魔法の実力者。

 複数属性を組み合わせた高度な魔法を得意とし、三年生となった現在では、さらにその技術へ磨きがかかっている。

「対するは!」

「二年・エジコ・フランケル!」

 今度は、見慣れない少女が入場してきた。

 黒いステッキ型の杖を片手に持っている。

 表情は落ち着いているが、その姿からは彼女が魔法大祭初出場とは思えないほどの余裕があった。

 観客席がざわつく。

「エジコって誰だ?」

「二年生だろ?」

「大祭初出場らしいぞ。」

 対する煙道は静かに杖を構えた。

 エジコも杖を構える。

「よろしくお願いします。」

「ああ。こちらこそ。」

 二人が一礼する。

 天城は観客席から二人を見つめていた。

(煙道先輩は去年よりさらに強くなってる。)

(でも……エジコって人は、どんな魔法を使うんだ?)

 審判が中央へ下がる。

「試合開始!」

 瞬間。

「炎槍!」

 煙道が杖を振る。

 無数の炎の槍が一斉に放たれた。

 エジコは一歩も動かない。

「土壁。」

 地面から巨大な土の壁がせり上がる。

 炎槍が次々と突き刺さり、土壁が崩れていく。

「まだ!」

 煙道がさらに炎を重ねる。

 炎が壁を包み込み、そのままエジコへ迫る。

 しかし。

「水流。」

 エジコが杖を振った。

 大量の水が一気に噴き出し、炎を押し流す。

「おおっ!」

 観客席から歓声が上がった。

 煙道はすぐに次の魔法へ移る。

「雷撃!」

 水で濡れた地面を狙い、雷が走る。

 エジコは土魔法で足場を持ち上げ、雷撃を回避する。

 さらに。

「風刃。」

 無数の風の刃が飛ぶ。

 エジコは光魔法で軌道を読みながら身体を逸らし、紙へ素早く魔法陣を書き込んだ。

「炎槍。」

 今度はエジコが炎を放つ。

 だが、その数と威力がおかしい。

 一本一本が、まるで巨大な砲弾のような勢いで煙道へ飛んでいく。

「なんだあの威力!?」

 煙道が炎を展開して迎撃する。

 轟音。

 炎と炎がぶつかり、闘技場の中央で巨大な爆発が起こった。

 煙が晴れる。

 二人とも立っている。

 観客席から歓声が上がる。

「互角だ!」

「やっぱり煙道が強い!」

 しかし天城は目を細めた。

(……いや。)

(エジコ、普通の魔法しか使ってない。)

 炎。

 水。

 土。

 風。

 雷。

 どれも魔法そのものは珍しくない。

 なのに。

 威力だけが異常だった。

(基礎魔法の出力を、あそこまで上げられるのか?)

 煙道も同じことに気付いていた。

「なるほど。」

「火力勝負なら、こっちも負けるつもりはない。」

 煙道が杖を構える。

 空気が震えた。

「水流。」

 次の瞬間。

 闘技場の奥から巨大な水の塊が出現した。

 ただの水流ではない。

 まるで川そのものが一気に押し寄せてきたかのような、凄まじい量だった。

「うわっ!」

「でかすぎる!」

「これは決まっただろ!」

 観客席が一気に沸く。

 エジコへ向かって巨大な水流が迫る。

 逃げ場はない。

 そう見えた。

 だが。

「……土魔法。」

 エジコが杖を振る。

 地面が盛り上がった。

 巨大な土の防壁が、斜めに連続して形成される。

 水流が最初の壁へ激突する。

 その勢いがわずかに削られる。

 さらに二つ目。

 三つ目。

 四つ目。

 水は壁へぶつかるたびに方向を変え、勢いを失っていく。

 天城が目を見開いた。

(あれは……!)

 防壁の形。

 配置。

 水の流れを受け流す角度。

(信玄堤……!)

 川の流れを制御するための堤防と同じ構造だった。

 エジコは水流そのものを止めるのではなく、土魔法で地形を作り、水のエネルギーを分散させている。

 そして。

 最後の土壁へ水流がぶつかった瞬間。

 勢いが完全に落ちた。

「今だ。」

 エジコが杖を向ける。

「雷撃。」

 轟音。

 巨大な雷が水を伝って走る。

「ぐっ……!」

 煙道の身体が大きく弾き飛ばされた。

 観客席が静まり返る。

「煙道が……!」

「水流を利用された!?」

 煙道は地面へ手をつき、何とか立ち上がる。

 それでもまだ戦える。

「まだ終わってない……!」

 杖を握り直す。

 しかし。

 エジコもまた杖を構え直した。

 その表情には、先ほどまでの余裕すらなかった。

 ただ、真剣だった。

「私も……まだ終わってません。」

 エジコの周囲に、次々と魔法陣が展開される。

 炎。

 水。

 風。

 土。

 雷。

 光。

 複数の属性が同時に現れる。

 観客席がざわめいた。

「全部使えるのか!?」

「二年生だぞ!?」

 煙道が息を呑む。

 次の瞬間。

 エジコが杖を振った。

 闘技場が一瞬、白く染まった。

 轟音。

 爆風。

 煙。

 そして静寂。

 煙が晴れる。

 立っていたのは――エジコだった。

 煙道はその場で膝をついていた。

 審判が駆け寄る。

 そして旗を上げる。

「勝者!」

「二年・エジコ・フランケル!」

 一瞬。

 会場が静まり返った。

 そして――

「うおおおおおおお!!」

 大歓声が爆発した。

「エジコが勝った!?」

「煙道が負けた!?」

「大番狂わせだ!」

 誰も予想していなかった結果。

 多くの観客は、三年生で去年から実績のある煙道が勝ち上がると思っていた。

 だが。

 その予想を覆したのは、魔法大祭初出場の二年生だった。

 天城は観客席からエジコを見つめる。

(……強い。)

(いや。)

(強いっていうより……。)

 天城は、先ほどの戦いを思い返す。

 圧倒的な魔法火力。

 複数属性の使い分け。

 そして、信玄堤のように既存の知識を魔法へ落とし込む発想。

(あいつ……。)

(まだ何か隠してるんじゃないか?)

 エジコは静かに杖を下ろした。

 こうして、Dブロック第一試合。

 大番狂わせの一戦が幕を閉じた。

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