第101話 Cブロック2組目
Cブロック一組目。
天城理人と吉田風美の試合が終わり、闘技場にはまだ興奮が残っていた。
空中には先ほどまで舞っていた氷の名残が残り、砕けた氷晶が光を反射している。
実況席から次の試合が告げられる。
「続いて、Cブロック二組目!」
「三年! 鳴神春香!」
歓声が上がる。
鳴神春香。
雷属性の名門、鳴神家に伝わる古代魔法の使い手。
その最大の特徴は――自身を雷へ変えること。
魔法によって身体そのものを雷の性質へ近づけ、圧倒的な速度で戦場を駆ける。
さらに風や水の魔法も扱い、状況に応じて様々な攻撃を組み立てることができる。
「対するは!」
「二年! エリカ・ローズベルク!」
こちらにも歓声が飛ぶ。
エリカは去年、この魔法大祭で大きな注目を集めた。
植物を自在に操る魔法。
そう思われていた。
しかし――それは違った。
土魔法と光魔法。
二つの属性を極限まで組み合わせ、植物が存在するように見せていたのだ。
その技術力は学院でも異常なほど高い。
そして一年経った今。
エリカはさらに研究を進めていた。
「よろしくお願いします」
エリカが頭を下げる。
鳴神も一礼する。
「こちらこそ」
審判が二人を確認する。
「両者、準備!」
二人が杖を構えた。
「開始!」
鳴神が消えた。
「――雷迅!」
轟音。
雷そのものになったかのような速度で、鳴神が闘技場を駆け抜ける。
「速い!」
エリカは反応する。
土魔法。
地面から壁がせり上がった。
しかし。
鳴神は壁を回り込む。
さらに壁。
さらに壁。
それでも止まらない。
「そんな……!」
エリカが距離を取る。
鳴神は一瞬で追いつく。
「ここ!」
雷を纏った一撃。
エリカは土の盾を展開する。
直撃。
盾が砕ける。
エリカの身体が後方へ吹き飛ばされた。
「まだ!」
エリカは空中で体勢を立て直した。
杖を振る。
大量の土が地面から浮き上がる。
そして。
光が集まった。
土が形を変えていく。
巨大な植物のような構造物が一瞬で完成する。
観客席から歓声が上がった。
「去年の植物魔法だ!」
「いや、あれは土と光だ!」
巨大な枝が鳴神へ伸びる。
鳴神は雷となって回避。
枝が地面を叩き割る。
さらに別の枝が追いかける。
「逃げ場をなくす気!?」
鳴神は空中へ跳んだ。
その瞬間。
植物の葉が一斉に開いた。
強烈な光。
「っ!」
鳴神の視界が白く染まる。
エリカはその隙に大量の土を展開した。
だが。
「――雷迅。」
白い光の中から雷が走った。
一瞬。
エリカの目の前に鳴神が現れる。
「見えてるよ」
「……!」
エリカは咄嗟に土壁を作る。
雷撃が炸裂。
土壁が粉砕される。
エリカは大きく後退した。
しかし。
まだ倒れない。
むしろ――笑っていた。
「やっぱり」
「……?」
「戦いながら分かってきました」
エリカの周囲に、いくつもの光が浮かぶ。
「光魔法は、ただ照らすだけじゃない」
光が土へ集まる。
エリカの身体にも光が降り注ぐ。
「エネルギーを作れる」
光が強くなる。
エリカの魔力が膨れ上がった。
観客席がざわつく。
「何だ……?」
「魔力が増えてる?」
エリカは笑う。
「去年からずっと調べていたんです」
「植物が光からエネルギーを作る仕組みを」
光がさらに集まる。
まるで巨大な太陽光パネルが展開されたように、エリカの周囲へ光を受け止める構造が形成されていく。
「――光合成。」
膨大な光がエリカへ流れ込む。
魔力が回復する。
消費しても。
また増える。
「これなら……!」
エリカが杖を振る。
闘技場全体を覆うほどの土が動き出した。
巨大な壁。
無数の枝。
無数の槍。
それらが一斉に鳴神へ襲い掛かる。
「すごい!」
「さっきまでと規模が違う!」
鳴神は雷となって駆け抜ける。
一本。
二本。
三本。
次々と攻撃をかわす。
しかし。
攻撃の量が多すぎる。
避けても。
避けても。
次の攻撃が来る。
エリカの魔力が尽きない。
「どうですか!」
エリカが叫ぶ。
「いくら避けても終わりませんよ!」
鳴神は走りながら笑った。
「確かに」
「……!」
「その魔法、すごいね」
雷となった身体が止まる。
そして。
鳴神はゆっくりと杖を構えた。
「だからこそ――」
周囲の空気が変わる。
「一気に終わらせる」
風が集まる。
水が集まる。
そして。
雷が走る。
「――春雷。」
轟音。
巨大な雷撃が闘技場を走り抜けた。
エリカが大量の土壁を展開する。
一枚。
二枚。
三枚。
それでも。
雷撃は止まらない。
土壁を次々と破壊していく。
「くっ……!」
エリカがさらに光を集める。
だが。
鳴神はもう目の前にいた。
雷を纏った拳が止まる。
エリカの目の前。
あと数センチ。
「……参りました」
エリカが両手を上げた。
静寂。
そして。
審判が旗を掲げる。
「勝者!」
「三年、鳴神春香!」
会場が一気に沸いた。
「鳴神ー!!」
「春雷すげぇ!!」
「エリカも強かったぞ!!」
鳴神は構えを解く。
「ありがとう」
エリカも笑った。
「こちらこそ」
そしてエリカは、まだ光を受け続けている自分の魔法を見上げる。
「……もっと改良できそうですね」
鳴神が苦笑する。
「試合が終わったばかりなのに、もう次の研究?」
「はい」
「……ほんと、研究者って怖いなぁ」
観客席では、天城が二人の試合を見つめていた。
特にエリカの魔法。
(光からエネルギーを作る……か)
天城は小さく笑う。
(やっぱり、みんな一年でとんでもなく進化してる。)




