第100話 Cブロック 1組目
Bブロックの試合が終わり、闘技場に再び歓声が戻ってきた。
そして、次の試合。
「続いて、Cブロック一組目!」
実況の声が響く。
「三年! 天城理人!」
会場が大きく沸いた。
昨年の準優勝者。
一年生ながら決勝まで勝ち上がり、三年生の石破武と激戦を繰り広げた少年。
今年は三年生。
そして、これが最後の魔法大祭となる。
天城は薙刀型の杖を手に、静かに闘技場へ入った。
杖の先端には、特殊な魔鉱石――片魔岩。
魔力変換効率の高さから、天城の魔法を支える重要な武器だ。
「対するは!」
「二年! 吉田風美!」
こちらも大きな歓声が上がる。
「風美ー!」
「頑張れー!」
吉田風美。
二年生。
学院でもトップクラスの実力を持つ風魔法使い。
去年は一年生ながら、乱気流などの自然現象を再現する高度な魔法を見せた。
それから一年。
精密性、威力、制御。
すべてが大幅に向上している。
吉田は短く息を吐き、杖を構えた。
「天城」
「はい」
「去年の決勝、見てたよ」
「ありがとうございます」
「でも――」
吉田が笑う。
「今年は勝つから」
天城も笑った。
「僕も、そのつもりです」
審判が両者を確認する。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!」
瞬間。
天城が杖を振った。
「天弓。」
周囲に散らばっていた鉄片が浮き上がる。
「雷轟。」
青白い電光が鉄片を包み込む。
天城の得意とする物理魔法。
そして――
「光の柱で貫きたまえ。」
轟音。
超高速の鉄片が吉田へ向かって一直線に飛んだ。
「いきなりだ!」
「レールガン!」
観客席が沸く。
去年の決勝でも使用された、天城の代名詞とも言える一撃。
しかし。
吉田は避けなかった。
「――風圧。」
天城の左目が淡く光る。
叡智の瞳。
魔力を込めることで、魔法が発動する直前の変化を捉える。
(来る。)
吉田の周囲で空気が動いた。
次の瞬間。
レールガンの軌道が大きく逸れた。
「……!」
超高速の鉄片が吉田の頭上を通過する。
その直後。
吉田の周囲に発生した強烈な下降気流が、鉄片を地面へ叩き落とした。
ガァン!
観客席からどよめきが起こる。
「落とした!?」
「レールガンを!?」
吉田が笑う。
「去年と同じじゃ、通らないよ!」
次の瞬間。
風が爆発した。
吉田の身体が一気に加速する。
「速い!」
天城が薙刀型の杖を構える。
吉田が一瞬で距離を詰める。
「そこ!」
天城が薙刀を振る。
吉田が紙一重で避ける。
そのまま懐へ入り込んだ。
――ドン!
風圧をまとった拳。
天城が柄で受ける。
「ぐっ!」
身体が後ろへ押し込まれる。
吉田は追撃。
天城が薙刀を横へ振る。
しかし、吉田は風を使って急停止。
そのまま横へ移動する。
さらに。
天城の身体が突然引っ張られた。
「……!」
吉田が風で引き寄せた。
そして――
「吹っ飛べ!」
逆方向へ風を叩き込む。
突き放す。
引き寄せる。
突き放す。
その動きを攻撃の瞬間に組み合わせ、風による加速をさらに上乗せしていく。
天城は薙刀で必死に受ける。
だが。
密着状態では、薙刀の長いリーチが逆に邪魔になる。
吉田の間合いだった。
「どうしたの、天城!」
「……!」
さらに一撃。
天城が吹き飛ぶ。
地面を転がりながら立ち上がる。
(近距離はまずい。)
薙刀を振るには距離が必要。
ならば――
天城は一気に後ろへ跳んだ。
「逃がさない!」
吉田が追う。
天城は杖を振った。
「――煙幕。」
黒煙が一気に広がる。
「何だ!?」
闘技場の一角が黒く染まった。
吉田の視界が奪われる。
しかし。
「こんなの!」
吉田が杖を振る。
強烈な風が黒煙を吹き飛ばしていく。
一秒。
二秒。
三秒。
黒煙が晴れる。
だが。
そこに天城はいなかった。
「……!」
天城はすでに距離を取っていた。
「十分です」
「……なるほど」
吉田が笑う。
「目くらましじゃなくて、距離を取るためか」
天城は答えない。
杖を構える。
魔法陣が展開された。
「窒化ホウ素。」
白い霧が地面を覆う。
吉田が踏み込む。
足元へ触れた瞬間。
パキッ。
地面が崩れた。
「何これ!?」
氷のように見える。
しかし、触れただけでチョークのように粉々に崩れる。
吉田はすぐに風で身体を浮かせた。
「また変な魔法を!」
「普通の氷ではありませんから」
天城が杖を振る。
白い霧が広がっていく。
吉田は風を強める。
霧を吹き飛ばしながら、一気に上空へ移動する。
「だったら――!」
風が集まった。
一つ。
二つ。
三つ。
そして。
四つ。
巨大な竜巻が次々と生まれる。
闘技場の地面が震える。
「これで終わり!」
四つの竜巻が天城を取り囲む。
逃げ場がない。
「すげぇ……!」
「四つ同時!?」
「去年とは規模が違うぞ!」
天城は動かない。
竜巻が迫る。
風圧が身体を叩く。
衣服が激しく揺れる。
それでも。
天城は静かに吉田を見た。
左目が淡く輝く。
(見える。)
竜巻の動き。
魔力の流れ。
そして――
その内部に存在する大量の水分。
天城は杖を握り直した。
「……そうか。」
吉田が眉をひそめる。
「何?」
天城は空を見上げる。
「風を止める必要はない。」
片魔岩が青く輝いた。
魔力が一気に集中する。
「――蒼圧。」
瞬間。
闘技場から熱が消えた。
「……っ!?」
吉田が目を見開く。
空気中に漂っていた水分。
竜巻の内部を巡っていた水分。
それらが一斉に冷え始める。
そして。
空中に小さな光が生まれた。
一つ。
二つ。
三つ。
無数の氷晶。
それが次々と増えていく。
観客席から声が漏れる。
「……雪?」
違う。
雪ではない。
空気中の水分が、その場で美しい結晶へと変わっていく。
光を受けて、無数の氷晶が青白く輝く。
まるで。
闘技場そのものが、巨大な宝石の中へ変わったかのようだった。
「綺麗……」
誰かが呟く。
吉田は空を見上げたまま動けない。
「こんな……」
その瞬間。
竜巻が凍った。
風の渦の内部に存在していた水分が一斉に氷へ変わる。
巨大な竜巻が。
まるで時間を止められたかのように。
氷の彫刻へと変わった。
――ドォォォン!
一つ目が崩れる。
――ドォン!
二つ目。
――ズドォォン!
三つ目。
最後の竜巻まで凍りつき、巨大な氷塊となって崩れ落ちた。
闘技場へ無数の氷晶が舞う。
光を反射する。
青白い輝き。
その中心に。
天城が立っていた。
吉田は呆然とする。
「……マジかよ」
そして。
足元。
「……え?」
吉田の足が動かない。
見れば。
地面が薄い氷に覆われていた。
「しまっ――」
天城はすでに目の前まで来ていた。
薙刀型の杖の先端が、吉田の喉元で止まる。
「そこまで!」
審判の声が響いた。
「勝者!」
「三年、天城理人!!」
次の瞬間。
会場が爆発したような歓声に包まれた。
「天城ぃぃぃ!!」
「すげえええ!!」
「竜巻を凍らせたぞ!」
「今年の天城ヤバすぎる!」
吉田は足元の氷を見下ろし、それから天城を見る。
そして。
「……負けた」
悔しそうに笑った。
「でもさ」
「はい?」
「去年より、ずっと強くなってるじゃん」
天城は少しだけ笑った。
「吉田さんもですよ」
「そりゃどうも」
吉田が笑う。
天城が杖を下ろす。
空にはまだ、無数の氷晶が舞っていた。
その光景を見上げながら、観客たちは言葉を失う。
昨年。
天城理人は一年生として決勝へ進んだ。
そして今年。
三年生として迎えた、最後の魔法大祭。
その最初の大一番で――
彼は去年とはまったく違う姿を見せた。
天城理人、Cブロック準々決勝進出。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回で第100話まで来ました!
まさかここまで続くとは、作者自身もちょっと驚いています。
現在、魔法大祭編ということで、これまで登場したキャラクターたちも多く登場しています。
もしここまで読んで、
「このキャラ好き!」
「この魔法かっこいい!」
「ここはもっとこうした方がいい!」
など、何か思ったことがあれば、ぜひ感想や評価で教えていただけると嬉しいです!
また、長く続けていることもあり、設定の矛盾や以前の話との食い違いなどがあれば、遠慮なく指摘してください。
作者自身が気づいていない矛盾もあると思うので、読者の皆さんから教えていただけると非常に助かります。
これからも「魔法は科学である」をよろしくお願いします!




