第112話 決勝戦
魔法大祭、第二日目。
長かったトーナメントも。
ついに――
最後の一戦を迎えた。
観客席は、これまでとは比べ物にならないほどの熱気に包まれている。
実況席から、声が響く。
「さあああああ!!」
「ついに来ました!!」
「魔法大祭――決勝戦!!」
――ワァァァァァァァァァ!!
大歓声。
「まずは――!!」
「二年!!」
「神崎おと!!」
おとがフィールドへ入る。
小さな身体。
短い杖。
表情はいつも通り落ち着いている。
しかし。
その目には、いつもの試合とは違うものがあった。
決勝。
相手は――
昨年の準優勝者。
そして。
今年の三年生。
「対するは――!!」
「三年!!」
「天城理人!!」
――うおおおおおおおおお!!
会場が揺れる。
天城がフィールドへ入る。
薙刀型の杖を手に。
静かに、おとを見る。
おとも天城を見る。
二人の視線が交わった。
「……よろしくお願いします」
「はい」
天城が笑う。
「最後ですね」
「そうですね」
おとが少しだけ笑った。
「でも――」
杖を構える。
「勝ちます」
天城も杖を構えた。
「僕もです」
審判が二人を見る。
「両者、準備!」
二人が構える。
「それでは――」
旗が振り下ろされた。
「開始!!」
――瞬間。
「共振。」
おとが先に動いた。
――ゴォォォォォン!!
空気が震える。
地面が揺れる。
天城の身体へ振動が伝わる。
「……!」
天城はすぐに後ろへ跳んだ。
(共振……!)
初めて直接受ける。
だが。
天城は昨日の試合を思い出していた。
岡崎振護。
波へ変化する身体。
そして。
《共振》に対して波長を合わせて対応していた。
(波に関係する魔法……)
天城は即座に判断する。
杖を振った。
「土魔法。」
地面から巨大な壁が立ち上がる。
しかし。
普通の壁ではない。
天城は瞬時に性質を変化させる。
弾性を持つ防壁。
振動を吸収する構造。
――ドォン!!
共振が壁へ伝わる。
壁が大きく揺れる。
しかし。
その振動は内部で吸収され。
天城まで届かない。
「……!」
おとの目が少しだけ開く。
天城は壁の後ろから姿を現した。
「岡崎さんの戦いを見ておいてよかった」
「……そうですか」
おとが笑う。
「じゃあ――」
杖を地面へ向ける。
天城の目が細くなる。
(魔法陣……?)
おとは魔法陣を描き始めた。
天城が警戒する。
「何を……」
しかし。
おとは答えない。
魔法陣が完成する。
そこから生まれたのは――
白い物質。
ニトロセルロース。
おとがそれを利用し。
閃光が走った。
――パァン!!
「っ!」
猛烈な光。
天城の視界が白く染まる。
叡智の瞳が、魔力の性質を読み取る。
(炎魔法……?)
だが。
(いや……違う)
炎というより。
光に近い。
天城は判断した。
「絶対防御!」
光に対抗する魔力を展開する。
しかし。
「……!」
一瞬。
判断を誤った。
――パァァァッ!!
閃光。
視界が完全に奪われる。
「くっ……!」
天城はすぐに判断を切り替えた。
(ここにいるのは危険だ!)
杖を振る。
「飛行魔法!」
身体が浮き上がる。
そのまま。
一気に上空へ離脱する。
地面から距離を取る。
「……!」
しかし。
おとは。
天城を見上げていた。
「逃げましたね」
そして。
杖を振る。
「――アセトアルデヒド。」
空中に。
無数の液体が現れた。
「……?」
天城はそれを見た。
次の瞬間。
液体が変化する。
急速な膨張。
空気の流れが乱れる。
天城の飛行魔法が不安定になる。
「なっ……!」
身体が傾く。
「飛行が……!」
魔力による飛行。
その周囲の空気が乱される。
高度が落ちる。
「くっ!」
さらに。
おとの魔法が重なる。
天城の身体が大きく揺れる。
「――まずい!」
墜落する。
その瞬間。
天城の目が光った。
「磁場形成!」
――バチッ!!
空間に強烈な磁場が生まれる。
特殊な物質が形成される。
天城はそれを足場として利用した。
そして。
「――青圧。」
空気中の酸素が圧縮される。
急激な温度低下。
液体酸素が生成される。
「うおおおおお!?」
観客席が沸く。
天城の身体が。
地面へ落ちる寸前。
冷却された空間を利用し。
なんとか姿勢を立て直す。
――ギリギリ。
墜落を回避した。
「はぁ……!」
天城が息を吐く。
(危なかった……!)
しかし。
おとはすでに次の手へ移っていた。
「……」
天城が足元を見る。
そこには。
薄く広がった液体。
「……!」
天城の表情が変わる。
(いつの間に……!)
ジエチルエーテル。
地面に薄く広がっている。
天城が超伝導物質へ乗った。
その瞬間。
「――!」
おとが杖を振る。
閃光。
爆音。
フィールドが一瞬で白く染まった。
「うわあああああ!!」
観客席から悲鳴。
天城の身体が吹き飛ぶ。
「天城!!」
煙。
閃光。
衝撃。
その中で。
天城はすぐに状況を判断した。
(燃焼……!)
杖を振る。
「――二酸化炭素。」
周囲へ二酸化炭素が広がる。
燃焼を抑える。
火が消えていく。
「……!」
天城は立ち上がった。
煙の向こう。
おとの姿がない。
「……どこだ」
天城が周囲を見る。
次の瞬間。
「――ここです」
背後。
「……!」
おとがいた。
杖が振り上げられる。
「共振――」
天城が振り返る。
(来る!)
しかし。
おとの足が。
地面を踏み込んだ。
――パキッ。
「……?」
足元。
白いものが広がった。
「これは……」
天城が目を見開く。
先ほど生成した二酸化炭素。
それが急速に固体化する。
――ドン!!
足元に。
ドライアイス。
天城の足場が一瞬で崩れた。
「……っ!」
おとの身体もバランスを崩す。
しかし。
天城は。
その一瞬を逃さなかった。
杖を振る。
地面が隆起する。
おとの足元が持ち上がる。
「――!」
おとの身体が浮いた。
天城が一気に踏み込む。
薙刀型の杖。
その先端が。
おとの喉元で止まった。
「そこまで!!」
審判の声が響き渡る。
静寂。
一瞬。
会場全体が静まり返った。
そして。
「勝者――!!」
実況が叫ぶ。
「三年!!」
「天城理人!!」
――うおおおおおおおおおおおお!!
会場が爆発した。
「天城が勝った!!」
「神崎おとを破った!!」
「最後まで何が起きてるのか分からなかったぞ!!」
歓声が闘技場を包む。
天城は杖を下ろす。
おとも杖を下ろした。
「……負けました」
おとが悔しそうに言う。
しかし。
その顔には。
少しだけ笑みがあった。
「最後の最後で……足場を奪われるとは思いませんでした」
「僕もです」
天城が笑う。
「何度も危なかったですよ」
「私も」
おとが天城を見る。
「天城先輩」
「はい?」
「やっぱり強いですね」
「神崎さんもですよ」
二人が笑う。
そして。
実況が叫んだ。
「今年の魔法大祭――!!」
「個人トーナメント!!」
「優勝者は――!!」
「三年!!」
「天城理人!!!!」
――――ワァァァァァァァァァァァァ!!
観客席が総立ちになる。
昨年。
一年生で決勝へ進み。
惜しくも準優勝に終わった少年。
そして今年。
三年生。
最後の魔法大祭。
その最後の個人戦で。
天城理人は――
ついに。
頂点へ到達した。
天城は観客席を見る。
仲間たち。
教師たち。
そして。
去年からずっと戦ってきたライバルたち。
そのすべてが。
この三日間を見届けていた。
「……終わった」
天城が呟く。
おとが隣で笑った。
「まだですよ」
「え?」
「明日があります」
天城が思い出す。
「ああ……」
そうだった。
魔法大祭は。
今年から新たな競技が追加されている。
――チーム戦。
各ブロックを勝ち抜いた代表者たちが。
チームを組み。
最後の戦いへ挑む。
Aブロック代表。
神崎おと。
Bブロック代表。
岡崎振護。
Cブロック代表。
天城理人。
Dブロック代表。
フィオナ・ミルズ。
そして。
まだ終わっていない。
個人戦の興奮が冷めないまま。
観客席には。
明日への期待が広がっていく。
魔法大祭、第二日目。
個人トーナメント――終了。
そして。
明日。
新たな戦いが始まる。
魔法大祭――チーム競技。
個人の力ではなく。
仲間との連携が試される。
最後の舞台が。
静かに。
幕を開けようとしていた。




